激しさを増す女子グラウンド!!
第69話 戦争の縮図
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「早く移動しなさい!! 少しでも遅れた瞬間自分の命はないと思いなさい!! これは訓練じゃない、生死を分ける戦場にいると強く自覚を持つのよ!!! ほら、そこ!! 喋ってないで、早く行動しなさい!!!!」
命の危機とか言われても、実感が湧かない。でも、突如として現れたあの尻尾がトゲトゲの悪魔に、新入生の一人が命を失われたことは認識している。実際にその現場を見たわけじゃないけど、周りにいる実行委員の上級生の人達が、うるさく何度も騒いでいるから。
アンは実行委員の指示に従って移動していた。どこに連れて行かれるのかよくわからない。ただ、皆んなが動く方向にただ従っているってだけだ。行く先をじっと見つめてみると、そこには皆んなが駆け込んでいる乗り物があった。
私たちがこのグラウンドに来る時に乗っていた大型バス。なるほど。あれにみんなで乗って、急いでこの場所から抜け出そうって魂胆らしい。
「あなたを始末します——」
後方から甲高い声が、この場所に不釣り合いのように鳴り響く。でも、どこか聞き覚えのある声だった。確か、あの声は私に声をかけてくれた、実行委員の人の声。名前をなんて言ったけ? 確か、ハンナだったかな。あの人が、悪魔の足止めを図るために上級生を数人引き連れて、悪魔の前に立ち塞がっている。
「流石に上級生があんなにいたら悪魔もひとたまりもないんじゃないのかしら。なんてたって、アーミーナイトで鍛えられてきた人達なんだもん。何だったらここまでして逃げる必要もない・・・んじゃない?」
呟く言葉は周りの新入生があげる言葉ですぐさまかき消されていく。アンも後ろから走ってくる、新入生やら他の実行委員の人に押されてどんどんバスの方へと流されていく。
流される人流に指す術もないまま、アンは前へ前へと歩み進める。逆らえるはずもない人流だと思われたが、突如としてその勢いは止まった。それも、後ろから止まったのではない。前方から順にピタッと動きを停止させたのだ。あまりの突然の停止で、アンは顔から前にいた人の背中にぶつかってしまう。あまりの痛さに、特に勢いよくぶつかった鼻を両手で押さえて、思わず背中を丸くする。
「いったぁ〜!!! もう! 何なのよ、一体!?」
正面に視線を戻すと、アンはもう言葉を発することができなかった。前にいた人は——アンを見ていない。もっと後方を見ている。だが、その顔は今まで見たことがないほど青ざめている。まるで、彼女だけ氷に包まれた島に来てしまったかのようだ。
だが、よく辺りを見てみると、先ほどまで大きな声をあげていた実行委員の人も同様であった。同じような表情を浮かべ、その人たちは声をあげることすら忘れている。全員が、ある方向を向いて言葉を失い、動くことをやめさせているのだ。
それに釣られて、アンも後ろを振り返り、その場所を視界に収める。それを見たら最後。目は突如として、大きく見開かれ、呼吸をすることを忘れてしまったかのように、口から荒れる呼吸が漏れ始める。あまりの凄惨さに、悲鳴すらあげることも叶わなかった。
そこにあった光景は正に——地獄だ。人類が直視してこなかった、戦争の縮図がそこには広がっていた。
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