第67話 あの方のお言葉
降りかかる災厄に向かって放たれる。その速度は正に光の一線。高速の矢は狙いから外すことなく大きな尻尾に命中し、伸び切ったゴムが縮むように大きな尻尾は縮小していった。
攻撃の光の雨は、悪魔の尻尾攻撃と比べると僅かな時間のみ降り注いだが、それでも一つ一つが誇る威力は、悪魔のそれと同等かそれ以上。ハンナが、生涯かけて培った技術が、全て注ぎ込まれた修練によって導きだされた大技であった。
「やった、これで⋯⋯ !」
永遠の攻撃かと思えた、悪魔の攻撃という脅威はいつの間にか消えていた。先ほどまで悪魔が立っていた場所は、ハンナの技によって大きく穴を開け、悪魔の姿はどこにも見当たらない。
ほんの数分前まで自分の身体に襲いかかっていた災厄が嘘であるかのように、静かな時がグラウンド内を流れる。音という振動をシャットアウトしていた鼓膜は、依然として音を受け付けようとしない。彼女は、今自分のはるか後方から上がる甲高い歓声すらも聞こえていないだろう。
それほどまでに彼女が負ったダメージは大きかった。すでに、体内の血液の大半は流れ出てしまったのではないか、と思ってしまうほどの出血で、倒れ込む彼女の下には赤い水たまりができている。ピクリとも動かせない全身はまるで鉱石のように、その場でじっと佇んでいる。
呼吸をするたびに口の中に入ってくる砂の味が嫌に気持ち悪い。だが、命の脅威が消えた安堵感と、闇の一族を一人で倒すことができたという興奮から呼吸がつい荒くなってしまっている。
いや、呼吸だけではない。次第に、人より大きな二重の中に眠る瞳からは雨粒ほどの水滴が流れ落ちた。それと共に、溢れる小さな独り言。これは、誰の耳にも届くことはなかった。
「あの方が——闇の一族は少人数でも倒せるのだと証明してくれた。嘘だって言われていたことを、私も再現したよ。彼は、昔言った言葉を覚えているかな? 戦闘において、一番不要なものは恐怖。それが命を締め付けるって言葉。覚えてないよね、きっと。だって、あの時——」
ドゴォォォォン!!!!!!!!
ぽっかり空いた穴から辺りの地面全体を振動させるほどの衝撃波が放たれる。赤い鮮血でできた水たまりが大きく空中に浮遊すると、そのままハンナの背中を赤く染め上げる。先ほどまでは、口内のみを砂で犯されていたが、今では全身で砂を覆っている。
「な、何が——!!??」
「終わりじゃないわよね。今のはまだ序盤も序盤。これからが本当の災厄よ!!」
何も聞こない世界に突如響いた轟音は、聞くもの全てを震え上げさせる悪魔の咆哮であった。
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