第65話 ハンナの過去!!
ハンナは持っていた剣に強く念を込め、力を集約させる。それに呼応するように、白じろい光が剣先に集まり、次第に眩いほどの光を放ち始め、悪魔の目を細くさせるほどに広がった。ハンナが集約させているのは瘴気。本来なら紫色を帯びているはずの瘴気だが、それを一点に集める際に、少し余分な手順を踏むことで、その特性のみを利用し、他の力に分岐させることができる、とされている。
詳しい手順を説明することはできない。それは、嫌味とかではなく、実際に言語において説明することが困難を極めるのだ。それゆえに、その手順を習得するのに必要なのは——圧倒的な練習量。師匠となる人から、幼少期より英才教育を受け、身体にその流れを染み込ませることで、ようやく瘴気のコントロールを可能とするのだ。
ハンナの場合、生い立ちはしがない平民で、家が特別裕福と言うわけでもなかった。普通の家に生まれ、そして周囲の友達ともよく笑いながら遊ぶ。そこら辺にいる村の少女となんら代わり映えしない生活を送っていた。だが、ある一点の才能に限って、彼女が育った集落で群を抜いていたと言われている。それが——瘴気との親和性。
繊細な瘴気のコントロールを日常的に可能とし、高度の瘴気分岐においても非常に優れていると言われる、それを持つ人は10000人に一人とも言われるほどの特殊体質であるのが瘴気の親和性。彼女は特別な指導を受けていなかった時期からでも、既に半分以上瘴気を支配していた、という逸話も残している。
そう、彼女は生まれた瞬間から選ばれた者だった。そして、そのことが次第に集落中を駆け巡り、集落を治める長の耳に届く。そして、実際にハンナの優れた才能をみると、より専門的に指導を受けさせることを決心し、協力を惜しまず日夜訓練に暮れたと、ハンナはこぼしたことがある。その後、無事にハンナが生まれ育った集落で初めての選抜に選ばれ、このアーミーナイトに来ることになったのだ。
だが、そこで彼女を待っていたのは、今まで友達同然だと思っていた瘴気が自分に牙を剥くという残酷な現実。彼女は瘴気コントロールの中でも、わずかな瘴気でその力を十二分に膨大させ、力を振るうことを得意としていた。だが、その特技は——瘴気を大量に身体の中で保存することができないことの裏返しでもあったのだ。
もしかしたら、彼女自身そのことに幼い頃から気づいていたのかもしれない。頑なに、力を全力まで高め使用することを拒み続けてきたのも、それをすると知られてしまう、一つの揺るぎない事実を恐れていたのか。何でも陽気に質問に答える彼女だが、そのことについては一切語ることは今までない。
瘴気保有限界テストで彼女が叩き出したスコアは、記録から抹消されるほどであったと、彼女の同期の間では噂が広まっている。それは、あまりにも人様に言えるような数字ではなく、皆に知られてしまえば迫害されるのが・・・。目に見えていたから、という理由だそうだ。
だが、彼女はそんな悪しき噂で同期から白い目で見られようとも決して挫けることはなかった。日々の訓練にも全身全霊で取り組み、学科の授業も決してサボることなく、常に成績評価では学年最高を記録し続けた。それでも、彼女は慢心することなく、今だに前線に出れる日を願って、来るべくその日のために、今日も自分の任務を全うしていたのだが。
突如として現れた闇の一族に、最初こそは心を震わせたハンナだったが、それは一瞬にして恐怖に染められていった。日々の自分の努力の成果、瘴気保有限界が低くとも、努力次第ではどうとでもなると、本気で思っていた。その日々が、突如として土台から崩壊していく。すでに満身創痍もいいところである。身体は自由に動かず、今でも腕を動かすだけでも精一杯だ。
だからと言って・・・、
「全てを無駄になんて——させてたまるもんですかーーー!!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます