女子グラウンドにて
第55話 無粋な質問
はぁ、退屈。
特に目新しいことのないテストの連続なのに、これだけで有限である時間を費やしているなんて考えると、頭が痛くなってきちゃう。こんなことをして何になるというのだろうか、ため息しか出ない。それに付け加えると、先ほどからちょくちょく突き刺さる謎の賞賛を込めた視線が痛い上に鬱陶しい。あれだけで倍は疲れを感じている。
「やっぱり、朝のあれが影響しているのかな。あー、あんな人前で手を握る様なことしなきゃ良かった」
それさえなければ今頃もっと平穏に試験を受けれてた。こんな余計な疲れを感じることなく、ただ皆んなが皆んな己のテストに集中して、誰か特定の生徒の目を気にするなんてことも起きなかったはず。それにあの時の彼からの別れ際の言葉も妙に気がかりだ。そんなことを考えてたら余計にこのテストが億劫に感じてしまう。
雑念を振り払うかの様に粟色の髪をふわっと宙に靡かせて、記録員から渡された試験結果が記載された紙を受け取る。愛想よく話しかけてくる実行委員の女子生徒だが、そんな世間話程度の会話なら今する必要はないのではないかと気が気ではない。
話すことで後ろのテストを受ける人の時間が奪われているという事実をこの人は気づいてはいないのだろうか。いや、考えても無駄かしらね。分かってないからこの行動に出ているのだから。
「ま、いつも通りね」
手にある試験結果の用紙には瘴気保有限界試験が95という数字が記録され、横にSという評定の判が押されている。しかし、それ以外はどれも平均的でAからCまでの範囲で評定が下されていた。纏めて言うと、特に力もないのに一点だけ、それも戦闘においてほぼ活かされない能力だけが特化しているタイプだ。特に張り切った訳でもないが、いつもと代わり映えのない結果に溜息が出てしまう。だが、いくら空気を吐き出しても、スコアが変わることはない。
「ねぇ、アンさん?テストの結果はどうだった」
デンジュと名乗った実行委員とは別の委員で女子生徒を担当している、バスの中でハンナと名乗り、ノリノリでバスガイドごっこをやっていた、一つ上の先輩が後ろから声をかけてくる。走って駆け寄ってくるので、胸についた豊満のそれが上下に激しく揺れる。本当に生き物でも入っているのではないだろうか。明らかにこれで男を何人も誘惑してきたんだろうなと無粋な推測を考えようとしなくてもしてしまう。
それに、目の前で思いっきり息が上がっているのが更にアンの気を悪くさせる。大した距離を走ってないのに、何で疲れたふりして弱い子アピールをしているんだと。どちらかというと疲れているのはついさっきまで試験を受けていたこちら側だろうに。ここに男はいないのだから女らしさを強調する必要がない、なのにその態度をとっているところから、明らかに女子から嫌われる——少なくともアンは嫌いな——タイプの人だ。
「えぇ、終わりましたよ。これはお渡ししたらいいんですよね」
言いながら紙をハンナの前に差し出し、慣れた手つきで彼女はそれを受け取った。
「はい、お預かりします。では、試験がこれで全て終わりましたので朝乗ったバスに一度戻ってもらうのですが。——その前に一ついいですが?」
「なんでしょうか」
「こんなことを尋ねるのは無粋かもしれませんが、今朝話していた男性はアンさんと深い仲の方なのでしょうか」
輝かせるその目に私はどうしたらいいのか一瞬頭が真っ白になってしまうのであった。
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