デンジュとマシュの嫌疑の瞳

第53話 彼は本当に人間なの?

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「彼は?」


 取り残されたデンジュが砂塵が付いた服を払いながらぽつりと言葉を漏らす。今しがた飛び出していった彼の人間離れした一連の行動に困惑を通り越して、嫌疑の目を向けているようであった。それを横目で見たマシュは顔色一つ変えずに質問に答えてみせる。


「人間ですよ。それ以外に何があるというんですか?」


 デンジュはマシュの方をじっと見つめながら次に続く言葉を促すような素振りを見せる。しかし、そのことに勘づいておきながらマシュはその行為を無視した。やがて、一通り砂塵を払い終わったデンジュは詰めるようにしてマシュに言い寄る。


「僕だって馬鹿ではない。君と彼との話し合いは実に見事だった。まるで一流の軍師同士が作戦を思案している現場に立ちあっているような感覚に陥ったりもした。でもね、君が話を逸らした話題があることを僕は見逃さなかった。君もそのことに気づいていたんじゃ無いのかな?」


「そんな話題はありません。お褒めいただいて光栄ですが、僕たちはあくまで新入生の立場にあります。それは聞き逃すことも、見逃す事象も多くあるでしょう。その中でも、僕たちは無い頭を必死に回転させてこの行動に出ているんです。それを、シルを人間ではないと疑ったり、僕が意図的に話をすり替えた、みたいな疑いの目で見られるのは一緒にオークを倒した仲間として心外です」


 マシュの言葉をデンジュは黙って最後まで聞いていた。聞いた上で考え出した言葉を口にする。二人の間に漂うのは先程までの祝勝ムードではない。互いが互いを疑い合う張り詰めた緊張感。どちらかが話し合いの中で尻尾を出してしまったほうが一気に話の流れを持っていくギリギリの綱渡りを行っていた。


デンジュは、新入生とは思えないほどの高い戦闘能力と頭脳を持ち合わせる二人の奇妙な学生に対し違和感を覚え、マシュはシルにはああ言ったものの侵入者がまだこちら側にいるのでは無いかと疑い持つ。だが、その事実をあからさまにぶつける事は叶わない。それは、確固たる確証も無いのにも関わらず疑っているという印象を、相手に持たれてしまうという、間違っていた際に取り戻せないほどの亀裂を生むことにつながるから。


「なるほど・・・。じゃあ、ここにはシル君もいないし、僕から議題を振ろうかな」


 真剣な表情を浮かべる彼の目はまるで狙いを定めたハンター。このグラウンド内で起きた一連の事象、それら全てに意味を持たせるため最後の嵌め外していたパズルのピースを埋める行為を行うのであった。


「何でしょうか。僕が話し合いに参加できることであればいいんですけど」


「大丈夫だよ。さっきまでの推理力と思考力を掛け合わせれば容易に話し合うことはできる。議題はシル君にも関わることだしね」


「シル——ですか?」


 友の名前を出されて多少なりともマシュは動揺を覚えたが、すぐに冷静を取り戻す。彼に関わる事象で見逃していることは少なからずあれど、事前に侵入者のことも聞かされていた手前、大きく見逃している事はないはずだ。


「うん。彼、こう言ってたよね。瘴気保有限界テストを受けた際に鍵をかけられたって。それも。なんで、彼に鍵がかけられたのだと思う?」


「さぁ、分かりませんね。シルがその内容を話していたことは聞いていましたが、特に今回の侵入者特定に不要な情報でないと頭が勝手に判断して、無意識の間に考えてなかったのかもしれませんね」


「じゃあ、今考えて。彼だけに鍵をかけられた理由。なぁにすぐに分かるさ。なんてったって、この導けたのだから」


 逃れることはできそうになさそうだ。マシュは意を決してはぁ、とため息をつくと静かに言葉を漏らし始めた。

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