第51話 仕方ないで済ませてはいけないんだ!!

「誰かは分からないけど、この場に闇の一族を招いたものがいるんだ。そいつがそう安易と死ぬとは思わない。ましてや、オークの登場で死ぬなんてミスは起こさないだろうよ。それに、僕とシル、そしてデンジュさんの目があって何かしらの不審な動きをこの場で隠密にやってのける人物はいないし、実際見ていない。つまり——」


「ここじゃないところに侵入者がいるってことか」


 マシュの顔に満ち溢れる自信。よほど、自分が出した答えに確信を抱いているようだ。最も、シルも同じ考えに行きついているので否定することも、ヤジることもないが。


しかし、そうなると話は大きく変わってくる。こちら側に侵入者がいなかったとすれば、普通に考えれば女子の方にいたということになるのだが。


「クッソ!!」


シルの突然の怒りの咆哮にデンジュは肩を震わせる。だが、シルは全ての事象の絡み合いに気づいて、下唇から血が滲み出るほど強く唇を噛みしめた。この騒ぎが単なる足止め以外の何物でもなかったことが今になって理解した。つまり、今、に侵入者が——。そして、そこで何が繰り広げられることになるのか——。シルは今一度強く拳を強く握る。爪が肉に食い込んで生じる痛みなど既に怒りから分泌される大量のアドレナリンで感じることもない。


「ど、どうしたんだい? シル君、急にいきり立ってしまったりして」


「それは失言です。デンジュさん」

 

 そう咎めるのはマシュ。彼はいつだって冷静沈着。シルが何に対して憤りを感じているのかすらも彼にしてみると、それは朝飯前のように手に取るよう分かるのだ。


「男性陣の体力テストに現れたのは侵入者本人ではなくてオークでした。これはつまり、男性陣の足止め以外の何物でもありません。侵入者は何らかの手段を用いて女性陣がテストをしているグラウンドに潜入しているでしょう。そして、敵方が行う行為は一つしかありません。それは・・・」


「新入生の抹殺——とかかい?」


「そういうことです。シルが憤っているのはそこです。シルの、いえ今朝シルに歩み寄ってきた彼女も恐らく例に漏れずそのグラウンドにいるでしょう。彼女の命すら今は危険な状況に陥っているかもしれない。ですが、シルはそれを見抜くことができず、みすみす危険な場所に彼女を送ってしまった自分を責めているんです」


「そんなことって・・・。でも、それは仕方ないじゃないか!! 闇の一族から襲撃を行われるなんてことは僕らでさえ見抜けなかったし、大佐にも分からなかった。仕方なかったんだよ、今は僕たちの命を守ってくれた君たちの活躍だけで大金星の活躍だと思うよ?」


「仕方ないで——済ましちゃダメなんですよ。それだけは、例え奴らとの戦争中でも言っちゃいけない。言い訳にそれを使ってはダメなんです」


 今まで黙っていたシルは呟くように言葉を口にした。二人の目線を頭に浴びながらゆっくりと俯いていた視線を真正面に持ってくる。迷いが晴れたとは言えない。今でもシルの頭の中は無数の選択肢の海で溺れそうであった。あの時、この言葉をかけていたら。もっと早く皆んなに侵入者の存在を知らせていたら。一向に、答えが出る気配はない。永遠を思わせる道が目の前に伸びていた。


「シル、聞いてくれ」


 マシュが思い詰めたような口ぶりでシルの名前を呼ぶ。だが、その表情は口調とは裏腹にどこか晴れた様子を見せていた。そして、次の言葉を紡ぐのであった。



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