第50話 揺るがない真実!

「そんなことが・・・」


「ないと断言できますか?」


 青ざめるデンジュをシルの真剣な眼差しが貫く。マシュも同様に感情を欠いた視線をデンジュにただ送っていた。


「断言は——できない。実際に高濃度の瘴気を浴び続けた人類が闇の一族と化してしまう事例はいくつか挙げられている。でも、それはあくまでに置いての話だ!人工瘴気製造機器から作られる瘴気で高濃度になり、化け物と変貌していくなんて事例は聞いたことがない!」


「事例がないから起きないと、本当にそう言いたいんですか?」


「マシュ君。君も本当にそう考えているのかい? 君たちと同じ立場であり、同期である学生が闇の一族と、オークに成り果ててしまったと? 私はそうは信じたくない。あくまであれは、何かしらの転送魔法を用いてここまで野生で生息していたオークを運んだだけ。そうは考えられないのかい?」


「だから、そういうことなんですよ。実の所、あのオークが新入生が成り果てた姿だったとしても、転送でここまで連れてこられた哀れな野生だとしてもどっちでもいいんです。それは僕にとっても、皆んなにとっても。だって、が一つあるでしょう、そこに」


「揺るがない真実だって?」


 デンジュはまだ気づいてはいない。だが、シルとマシュの頭には同様の思考が行われていた。オークが意図的に生み出されたのか、それとも持ち込まれたのか。真相は分からないが、一つ確かに言えることがある。それは——、


「どちらにせよ、明確な意思を持ってオークをこの場にってことだよな、マシュ。お前が言いたいのは」


 頷きと共にマシュはシルの意見に肯定してみせた。ようやく、事の事態の深刻さに気づいたデンジュは「うっ」と呻き声をあげるとそのまま天を見上げ、しばらく動こうとはしなかった。


最後に神にでも祈っていたのだろうか。でも、そんなことに意味がないのだ。意味がないことは昨日のサキュバスとの戦いの時に痛感させられた。


神は見守るだけで、人類が起こす行動一つ一つに手を差し伸べてはくれないのだ。自らの行動と強さにのみ未来がきり開ける。

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