第17話 修羅の顔を浮かべる少女

「これがどう言う事なのか、説明して貰えませんか。そんな笑わずに」


 シルの括り付けられた姿がツボに入ったのか、カヤはにやけ顔から一変して、ずっとお腹を抱えて笑っていて一向に話そうとしない。それどころか、軽い呼吸困難すら起こしそうな息遣いの荒さで、したくても出来ないの方が表現としては適切かもしれない。


緊迫した二人とは対照的に、この場面を楽しんでいるかのような態度を、カヤは振る舞っていた。シルは、今にも怒りが沸点に達しそうな女子の方に目をやる。その姿はまるで修羅。そう表現せざるを得なく、後ろに赤いオーラすら見えるようであった。


「この寮は二人一部屋制なんだって。そもそも、毎年20名選ばれる学生の男女比もその年よってバラバラ。今年は一名ほど男子が多いみたいだけど、ひどい年では女子が一人しかいない、みたいな年代もあったみたい。その中で部屋の同部屋になる人は、ランダムに選ばれるらしくて、男女のパターンになるのも珍しくないって。これが、私が問い詰めたら、答えたその人の主張」


 痺れを切らしたのか、後ろに立っている女の子が代理となって説明してくれる。そうだと分かったのなら、この縛られている状況から解放してほしいと言うのが、シルの切なる願いであったが、中々その動きを見せようとはしない。加えて、それを催促するのもしぶられる。だって、彼女の顔には、依然として燃えたぎるものがうかがえるから。


「そうそう。私はそれをシル君にも伝えにきた兼、君がロープで縛られている、って聞いて笑いにきたの。あー、本当に綺麗に縛られちゃったね〜。なに、何の抵抗もしなかったの? いくら選抜された学生の女子って言っても、君よりかは腕力弱いだろうし、力一杯抵抗したらそんな情けない状況には、ならなかったんじゃないのかな。まぁ、いっぱい笑わせてもらちゃったからいいんだけどね」


「あんな鬼の形相で迫り来る彼女にプラスして、こちらは目を閉じておかなきゃいけなかったんですよ!? そんなの、例え神が相手でも不可能だと思いますけど」


「うん? 何で君が目を閉じてなきゃいけなかったの?」


「んん! さぁ、もう話し合いは終わりましたよね? あとは当事者の私たちだけで話し合います。どうも、ご足労ありがとうございました。さぁ、部屋から出ていってください。明日も早いんでね」


 彼女は勢いよく言葉を捲し立て、カヤの身体を180度回転させると、そのまま有無を言わせず背中を強く押し、外へと追い出した。途中、カヤが部屋に残された痕跡をじっと見つめて、なるほど、と小さくこぼしていたが、その言葉を両者は無視した。それを拾うと、またとんでもない修羅場が待っていそうな気がした——いや必ずそうなっていたであろうからだ。


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