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「お、俺達のパーティーに?」


 何だパーティって?


 訝し気な目で燈はテノラを見る。

 

「そそ、つまり君たちと一緒に行動したいの!」

「い、一緒にって……」


 テノラの申し出を渋る燈、それもそのはず。突然現れた名前以外何も分からない少女が突然自分達と同行したいと言っているのだ。当然の反応である。

 燈は困惑しながらもバアルやエリスを見る。バアルは燈と同じく困惑した表情を見せ、エリスは敵意むき出しの感情を露わにしていた。


「何で君が俺達と一緒に行動したいのかよく分からないんだけど……」


 恐る恐る燈は少女に目的を聞く事にした。天井から突然現れた少女に対する対応としては随分と穏やかなものではあるがいきなり彼女を拘束するのも何か気の引ける燈だった。


「名前!!」

「はい?」


 脈絡もなく叫ばれたその単語に流石の燈も思わず聞き返してしまった。


「名前!君たちの私は自分の名前言ったからそっちの名前も知りたい!」

「あ、あぁそういう事ね。燈、神田燈」

「バ、バアルです」

「てめぇに名乗る名前はねぇ!!」

「アカシとバアル!後は怖いお姉ちゃんだね!!」

「誰が怖いお姉ちゃんだゴラァ!!」

「怖ーい!!助けてアカシ!!」


 テノラは笑いながらアカシの背中に隠れる。どう見てもエリスの激昂に驚きも委縮もしていなかった。


「でテ、テノラは何で俺達と一緒に行きたいんだ?」


 首を回して燈は自分の後ろに位置するテノラを見る。


「聞いてたけどアカシ達って『聖地』に行きたいんでしょ?私もなんだー。だからどうせなら一緒にって思ったの!ほら、検問を通り抜けるお金ならいっぱいあるよ!」


 言いながらテノラは腰につけていたポーチのようなものから金貨を鷲掴みにして三人に見せる。


「はっ、やっぱり怪しいぜてめぇ!!」

「む!酷いよ怖いお姉ちゃん!!」


 テノラは頬を膨らませる。


「可愛くねぇなぁそんな面した所でよぉ。いいか、てめぇはつまりその金をアタシ達にくれるって言ってんだぜ?それをしててめぇに何のメリットがある?」


 その通りだ。全く以てテノラにメリットは無い。ただ燈達を助けるだけの結果になる。見返りを求めない善意ほど気持ちの悪いものは無い、エリスはそれを良く知っていた。


「それにアタシ達は今日この国に来たばっかだ。そんな奴らにいきなり現れていきなり接触しようとするてめぇは、どっからどう見ても怪しい奴だぜ」


 しかも…コイツが自分から声を発して現れるまでその気配をアタシは感じる事が出来なかった。タダモンじゃねぇ!!


 エリスはそう確信していた。


「第一何でてめぇは聖地に行きてぇんだよガキ!!」

「ガキじゃないテノラ!私は聖地に行って巫女様に音楽を披露するの!私各地で披露してて結構上手いんだよ?」

「ンなの信用できるかぁ!!」

「じゃあどうすればいいのさ!!」


 ギャーギャーと言い合いを続けるエリスとテノラ、心配そうにバアルは彼女たちの顔を交互に眺めていた。だがそこに切り込むように燈は言葉を挟んだ。


「……分かった」


「やったぁ!!」

「はぁ!?てめぇ人の話聞いてたのかアカシ!!!」


 エリスの観察眼は的を得ていた。そして説得力もあった。だが燈が導き出した答えは彼女の予想の全く逆ベクトルのものだった。


「分かってる。この子は多分、何かある……それでも、今はこれしかない。俺達だけじゃあ聖地に入る事は出来ないだろ」

「そ、それはそうだけどよぉ!」

「それに、出来る事なら俺は信じてあげたい。この子の言葉を」


 神田燈という男は基本的に人の言葉を信じて疑わない、それが子供ならば猶更なおさらである。

『子供を疑う』、その行為は燈自身が忌み嫌うものなのだ。

 だが燈のその発言に、エリスの堪忍袋の緒が切れた。


「あぁ!?バカが!!ンな甘ちゃんな考えでこれから生きてけると思ってんのか!!いいか、この世はてめぇが思ってるほど良い奴なんかいねぇんだよ!!どいつもコイツも何か目的があって、裏があって行動する!!そんでてめぇみたいな奴は死ぬまでカモにされるんだぞ!!」

「き、厳しいな…」

「ったりめぇだバカ!!てめぇが死んだら旅が終わる!!アタシの目的が果たせなくなるからなぁ!!」

「……だから、俺はお前やバアル君を信じてる」

「はぁ……?」

「俺が死んだら旅が終わるって事は、俺が死なないように守ってくれるって事だろ?」

「っ!!」


 燈の言葉にエリスは意表を突かれた。確かにエリスは燈の言う通り、この旅が始まってから彼に自衛手段を持たせるように鍛え上げ、自身でも彼を守るつもりでいた。

 だがこうして言葉で伝えられ、初めて彼女は気付いたのだ。

『仲間を守る』、それは今までエリスが生きてきた中で全く以て無縁のものだったからである。

 今までで感じた事の無いような変な感覚が胸をぎるのをエリスは感じた。

 それが不快なものなのか、心地の良い感覚だったのか今の彼女では判別はつかなかったがともかく、それは気の張り詰めてたエリスの糸を切るには充分であった。


「はぁ……分かったよ」

「ホントか!?」

「あぁ分かった分かった!!守ってやるよ、てめぇの事を!!」 


 投げやりのように言うエリスだったが、彼女は本気だった。改めて、本気で燈を守ると誓ったのだ。


「おいテノラとか言ったなてめぇ。アタシ達の仲間になる事を許可してやる。だがなぁ、もしなんか不穏な動きを見せたらすぐに斬るぜ」

「怖いなぁ、けど仲間として認めてくれるのは嬉しい!!ありがとうね怖いお姉ちゃん!!」

「怖いお姉ちゃんじゃねぇアタシの名前はエリスだ!!」

「分かった!エリスお姉ちゃん!!」

「エリス、お姉ちゃん……」


 先程は「エリス」の部分が「怖い」だったためお姉ちゃんと言われても不快感しかなかったエリスだったが「エリスお姉ちゃん」という単語には不思議な高揚感を覚えた。


「お、落ち着けアタシ。コイツはまだ油断ならない危険な奴……理性を保て、保てアタシ!!」

「エリスお姉ちゃん…?」

「ふぉぅおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 エリスに駆け寄り上目遣いで首を傾げるテノラはさながら尊さだけで人を破壊できる生物兵器と化した。それを一身に喰らったエリス本人は堪らず大きな叫び声を上げ、目を抑えた。


「何か……エリスって何だかんだ単純だよな」

「そうですね」

「うるせぇそこの男二人!!アタシは末っ子で下いないから「お姉ちゃん」って呼ばれ慣れて無いんだよ!!」


 言い訳をするエリスだったが燈とバアルの二人はニッコリと微笑むだけであった。


「じゃあ親睦の証にお風呂入りに行こー!ここのお風呂は森の天然水を利用しててとっても気持ちいいんだよ!!さぁさぁアカシもバアルも!!まだ入ってないでしょ?後私自分の荷物こっちに持ってくる!!」

「ちょ、ちょっと待て!?色々と何か聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど!?」

「じゃあちょっと自分の部屋一回戻るねー!」

「待てぇい!!自分奔放すぎるだろ君!?」


 テノラに翻弄されながらも彼女の背中を追いかける燈、その姿を見ながらエリスはふと思い出した。


 ……そういやさっき自分で言ってて何か既視感があると思ったぜ。『見返りを求めない善意』……それって、紛れもなくコイツの事じゃねぇか。


 誰かが困っていたら、泣いていたら自分の事を顧みずに足を動かす、手を伸ばす。それが出来る神田燈だからこそ、どれだけ怪しくてもその少女の言葉を信じてあげたいとなどと言えるのだとエリスは納得した。



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 翌日、テノラを加えた燈一行は『南の森領主』がいるという領主館という場所に来ていた。


「すみません。私達旅の者で『聖地』に行きたいと考えていまして、領主様のサインが欲しいのですが……領主様に会わせていただく事は可能でしょうか?」


 たどたどしくはあったが、営業先の会社の受付に言うように門前の守衛のエルフに燈は言う。


「領主様への面会ですか?ちょうど今領主様は昼休憩を取っておりますので領主様の許可が降りれば可能ですがどういたしますか?」

「ぜ、ぜひお願いします!」


 森の領主というからには多忙なのだろう、そんな人が今休憩ではあるが会える可能性がある。この機会を逃してはいけないと考えた燈は矢継ぎ早に口を開いた。


「それでは少々お待ちください」


 門前の守衛エルフはそう言うと領主館に消えていった。


「領主様、どんな方なんでしょうか?」

「さぁ……でもエポラ―ナさんが言うにはこの森に住むエルフでも中々サインしてくれないって言うから相当気難しい、厳しい人なんじゃないかな?」


 バアルの疑問に燈は自分の考察を口にした。

 そうやって会話をしてから数分後、先程のエルフが燈達の元へと戻ってきた。


「お待たせいたしました。領主様は是非会いたいとの事です。案内させていただきます」

「ほ、ほんとですか!?」


 あまりの僥倖ぎょうこうに燈は歓喜の声を漏らす。


「では付いてきてください」


 守衛のエルフのその言葉に釣られるように燈達は領主館の敷地をまたいだ。


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「何か…淡々と進み過ぎな気がするのはアタシの気のせいか?」


 領主館の中を歩いていたエリスはふとそんなことを言い出した。


「ま、まぁ淡々と進む分にはいいじゃないか。その分早く聖地に行けるんだし」

「そうそう。さっさと巫女様に会いたいなぁ」


 で、でも確かに淡々と進み過ぎな気がする。怖いくらいだ。どうしよう領主の人がすごい怖い人とかだったら……。


 淡々と進む分には良いとは言ったものの、やはりその淡々さ加減に一抹の不安を燈は感じていた。


「ここが領主様が執務をこなすお部屋です」


 案内をしたエルフがそう言って目の前の扉を示す。


「領主様、客人をお連れしました」


 そう言って扉を開ける。隔てていたただ一枚の壁が開け、遂に燈達は領主との対面を果たす。


「し、失礼します!」


 緊張した趣で燈は部屋へと入室する。そして……。


「オー!!あなた達が旅の人デスカ!!私はこの『南の森』で領主を務めさせていただいているブランカと申しマス!!どうかよろしくお願いしマスマス!!」


 日焼けサロンで焼いたのかというくらい黒い肌にサングラスを掛け更には奇抜な髪型、極めつけとても開放的な……というか非常に際どい服装に身を包んだ男性のエルフがそこにはいた。

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