再会
「って出てきたはいいけど、ルークの場所分からねぇし!!」
ガイセン監獄から脱出し数秒後、肝心の問題に気付いた燈は頭を抱えた。
「悩んでても仕方ないか…。とりあえず誰かに聞きたいけど…」
言いながら周囲を見回す燈だが、状況的にそれも簡単にはいかないようだった。
監獄から脱獄した大量の囚人が金品や衣服を得るために出店や家を襲い、騎士達はその対応に追われている。民間人は悲鳴を上げ、逃げまどい、帝都は正に
「無理だよな…って…!!」
その光景を見た燈はすぐに走り出した。
「やめ、やめてくれぇ!!!!」
「うるせぇんだよ黙って服と金を寄越せ!!」
その光景とは二十代後半くらいの青年が監獄から脱獄した囚人を殴っているというものだった。燈はすぐさまその場に駆け出すと囚人と青年を引き剥がした。
「あぁ?何だてめぇ邪魔すんのか!!つーかてめぇも脱獄してきた口じゃねぇかよ!!止めんじゃねぇクソが!!」
「邪魔って…何の罪も無い人を殴るなんてダメだろ!!」
「うるせぇよ!!」
「おわっと…!?」
囚人と燈の体格差は約二十センチ程ある。大振りの拳をすんでの所で燈は回避した。
避けれた事に燈自身が驚いている。
「よ、避けれた…」
数か月前、つまりここに転生した頃と比べ燈の体力は向上している。
それは主に数か月をガイセン監獄で過ごした事によるものだ。監獄への入所当時、弱そうな新人として囚人達に暴力を振るわれていた。それに加え監獄内での肉体労働、それらが意図せず燈の身体能力を上げたのである。
「っ!!」
巨漢の囚人をキッと見据えた燈はそのままボクサーのような構えを取った。
やるしかない…。話して分かるような奴じゃない、ここで俺が立ち向かわなきゃ、またこの人が傷つく…!!
「早く逃げて下さい!どこが安全とか…は分からないですけど、とりあえず早く!!」
口早に燈は青年にそう言うと、怯え切った青年はその言葉に従い立ち上がると駆け出した。
「いい度胸だ。潰してやるよぉ!!」
「う、うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
燈と囚人は互いに走り出すと距離を詰め拳を放とうとした。しかし
「ってぇ何だ!!」
「な…!!」
それは不発に終わった。理由は両者の拳を一人の女性が止めたからである。
「き、君は!!」
燈はその女性を見て目を見開いた。何故ならその女性を彼が知っているからだ。
「久しぶりですねアカシさん」
「レ、レイさん!!…って!?」
燈がこの世界へ来てから数少ない面識のある女性の名前を言った瞬間、燈の視界は急転した。
レイが燈と囚人の二人を地面へと組み伏せたからである。
「な、何を…!!」
「決まっています。脱獄した囚人を捕まえているんです。それが『
「き、騎士って…」
言いながらレイの格好を見て燈はハッとした。彼女の服装は騎士の制服だったのだ。
「き、騎士団に…入団したんですか…?」
「その通りです。あなたが捕まってから一か月後に。私は三回生でしたから」
燈の質問にレイは淡々と答えた。
「て、てめぇふざけんじゃ…」
「あなたは黙りなさい」
「ぐはぁ…!?」
激昂しながらレイの拘束を力づくで抜けようとした囚人はレイの手刀一発で意識を失い、そのまま地面と顔が激突した。
「さぁ、あなた達を引き渡しに行きます。立って下さい燈さん。それとも、この男のように無理やり意識を失わせて運んだ方がいいですか?」
提示された選択肢に燈は苦い表情を浮かべた。どちらを選んでも燈の望む道には繋がらないのだ。
すぐさま彼は口を開いた。
「レ、レイさん。聞いてくれ、俺は…ルークの所に行かなくちゃならない。だから、ルークの居場所を教えてくれ。あなたなら、アイツの場所を知ってるだろ?」
直球だった。だが、こう言うしかない。下手に誤魔化しては事態は余計に悪化するだけだ。
だがこの発言が最善という訳でも決してなかった。
「どうやら意識を失いたいらしいですね」
レイは燈の首元に手を振り下ろすために再び手を上げた。
「ま、待ってくれ!!」
その動作を見た燈は堪らず制止を要求する。
「待ちません。あなたは罪人、そして私の最愛の人から奪おうとした人です」
「そ、それは…」
否定出来ない。したことは事実なのだから。
「事実だ…。謝って、許される事じゃない…だけど!!」
燈は立ち上がろうとする。その所作にすぐさまレイは攻撃を加えようとするが、すんでのところでそれは止まった。
それは彼女が燈の目を見たからである。その目は覚悟の目だった。何が何でもルークの元に行かならないという強い思い。どれだけ無茶であろうとも必ず実行してみせるという覚悟が、彼の目に現れたのだ。
「っ!!」
だがレイが怯んだのは一瞬だけだった。唇を噛み締めた彼女は攻撃の手を再開する。
「ま、待って下さい!!」
その時だった。燈、レイ以外の制止の声が二人の耳に響く。
「……バアル君?」
レイはその名前を口にした。バアル、燈が転移初日に救った少年の名前を。
レイ同様、アカシはバアルの姿を数か月ぶりに目にした。容姿こそ変化はほぼ無かったが目がアカシが当時確認する事の出来なかった生気が目に灯っている。
「アカシさんを…解放してくれませんか?」
「バアル、何を言っているのかしら?」
バアルの言葉の意味をレイは理解し難かった。
「アカシさんは…奴隷だった僕を、助けてくれました……。そんな人が、悪い事をするなんて僕には思えないんです」
そう言ってアカシを見るバアル、だがそこに更に人が現れた。
「そうそう。ちょっと乱暴過ぎると思うな!」
「少ーし話を聞いてもいいんじゃないですか?」
バアルに次いでもう二人、リムとムーミだった。
「皆…」
アカシの目の前に、この世界で親交のある人物のほとんどが集まった。
「何かしらあなた達まで」
「顔が怖いよレイちゃん。とりあえずアカシさんを放そう、大丈夫。もし逃げようとするんだったら全力で私達も止めるから!」
笑顔でリムは言い放つ。
「……」
リムの勢いに圧されたのか、レイはアカシから手を放した。
「っ…ありがとうリム」
燈は自由になった体を起こした。
「アカシさん!」
次に口を開いたのはムーミだった。彼女は燈の元へ駆け寄るとすぐに頭を下げた。
「本当にごめんなさい!!アカシさんが神人教の人間だっていう疑いから、あなたを嵌めるような真似をしてしまって…」
「気にしてないよ。君はルークの助けになると思ってやったんだ。大切な人のために何かをする気持ちは、よく分かる」
軽く、燈は笑う。
それを見たムーミは確信を持った。
「燈さん…私はもう、あなたが神人教の人間だなんて疑っていません。それは、ルーク先輩も一緒だと思います」
「何を言ってるのムーミ!」
「レイ先輩!気付いてるはずです!この数か月、ルーク先輩の様子が何処か変だったことに!!」
「っ!?」
「ルーク先輩は後悔してるんです…。アカシさんを投獄してしまった事を」
「そ、それは…」
レイも気付いていた。愛する人の様子から、その原因も凡そ想像がついていた。
「アカシさん!一つだけいいですか?」
「ん…?」
ムーミが話す中、傍観に徹していたリムがそこで声を上げた。
「アカシさんは…ルークの事、どう思ってますか?」
「え…?それは…」
言われて燈は言い淀んだ。しかし、実の所彼の答えは決まっていた。それでも言葉が出ないのは、ルークの気持ちを気にしているからだ。
だが言うしかない。自分の素直な気持ちを、そうでなければならないとリムの目を見た燈は感じた。
「ルークは、俺の事なんてもう友達とは思ってないかもしれないけど……少なくとも、俺はアイツの事を……友達だって、そう思ってる」
「うん!ならいいです、それなら私から言う事はもう何も無いです!さぁさぁ、ルークの所に行って仲直りしてきてください!場所は第二王宮です!」
「ちょっと何勝手事言ってるのリム!?」
話の流れが変わってきた事にレイは憤慨した。
「だってやだもん。ルークが心から笑ってくれないと」
「そ、そんなの私だって嫌よ。だけど…私はアカシさんに、ルークに会ってほしくない。だって…アカシさんとルークが関わっていたのなんてたった一週間よ?そんな短い期間で、この人が…ルークの何を理解してるの!?そんな人に、私は行ってほしくない…」
レイは知っている。ルークという自分の好きな男の事を良く知っている。彼がどれだけ打ちのめされていたのか、だがそれでも前に進もうとするその姿に彼女は心惹かれたのだ。
「分かるよ」
「だから…あなたがルークの何を…っ!?」
アカシに対し言葉を浴びせようとしたレイ、だがそれは彼の目を見て止まった。
「言っても、信じてくれないと思うけど……分かるんだ」
知っている。そう、燈は分かるのだ。彼とルークが戦った最後、彼はルークのチートを回収しようとした。その際にルークの記憶や感情が燈の中に流れてきたのだ。
理解している。そして共感さえもしている。
目は口ほどにものを言う、アカシの目はすべてを物語っていた。
「………行って、下さい」
「え…?」
「早く、行ってくださいと言ったんです。私の気が変わらない内に」
「っ!!あ、ありがとう…!!」
燈は深く頭を下げた。そしてすぐさま第二王宮に向かって走り出した。
「不器用だねーレイちゃんは」
「うるさい。それよりも私は任務に戻るわ。あなた達候補生もこの状況じゃあいつ呼び出しがあるか分からない。気を張り続けておきなさい」
言いながらレイはそっぽを向く。しかしその顔は少し赤面していた。
「あれ、そう言えばバアル君は?」
リムはキョロキョロと近くを見回した。
「バアル君ならほらあそこです」
ムーミが指差した方向をリムとレイは見る。
---------------
「そう言えば第二王宮の場所は分かるけど、どこに居るか分からん!!」
ハッとした様子の燈、引き返そうとするも既にかなりリム達から離れてしまっておりそれは困難だった。
「ぼ、僕…分かります!」
「え?」
近くで声がしたのを認識した燈は、右下へ視線を落とす。すろとそこに並走していたバアルが居た。
「バ、バアル君!?何で…!」
「ぼ、僕なら王宮のどこに行ったか分かります!」
「そ、それなら場所だけ教えてくれればいいよ!これは俺の問題だしバアル君を巻き込む訳にはいかない!」
「僕は、ずっと空っぽでした。でも…アカシさんが手を差し伸べてくれて、僕の中に確かに何かが生まれたんです。それが何なのか僕は知りたい…。だから、僕にアカシさんを手伝わせてくれませんか!?」
走り息を少し切らしながらバアルは言う。
アカシは断りたかった。状況から分かるように今周囲には危険が満ち溢れている。いくらこれから行く所が王宮で騎士が居るとしても、安全な保障は無い。それよりもリムやムーミ、レイの保護下に置かれている方が安全かもしれない。
子供を危険に晒すわけにはいかない。
選択をする時間が刻一刻と迫られる。何がバアルを危険に晒さないのか、判断材料を天秤に掛けても明確な答えは出ない。
だが、決断しなければならなかった。そうして燈が取った選択は
「……分かった。一緒に行こう!」
バアルと一緒に向かう事だった。
理由はこのままバアルが離れても彼を危険に晒してしまうと考えたからだ。そしてもう一つの理由、それは…一人の少年の切実なその願いを断る事が出来なかったからである。
こうして青年と少年のコンビは改めて速度を上げて走り出した。
そしてルーク、燈の二人は遂に邂逅を果たした。
-------------------
「っ!!!」
「がはっ…!!」
突然の燈の来訪にアカの意識はそちらへ向いた。それを察したルークは足でアカの腹部を蹴り上げるとアカは飛び上がり意図せず燈達から距離を取る形になった。
「てめぇ……どんなカラクリか知らねぇが俺の魔法を解くとはやってくれたな……」
「アカシ、話は後だ!!」
「みたいだな!!」
危機的状況をすぐさま認識一致させた二人は臨戦態勢を取る。
空間魔法が破られた。これじゃあ派手な攻撃をすればすぐに他の騎士が駆けつける…。時間がねぇ、さっさと終わらせる…!!
「らぁっ!!」
アカは叫びながら拳を床に叩きこむ。それによって床は崩壊し足場を無くした
「うおぁ!?」
「くっ掴まれアカシ!!」
燈は空中を浮遊する術は無い。ただ自由落下に身を任せるしかない。それを知っているルークを燈に手を伸ばした。ルークならば風魔法で落下の衝撃を限りなく抑える事が出来るからだ。
「この状況で他人を気にしてる余裕なんて無いぜ
「ぐあっ!?」
「がああぁ!!?」
「てめぇらまとめて突き落とぉす!!」
「アカシさん、ルークさん!!」
「来るなバアル君!!」
部屋の外から今にもこちらへ飛び出してきそうだったバアルを燈は精一杯の声で制止する。
「おらあぁ!!!」
バアルの身体が完全に硬直した次の瞬間、燈とルーク二人の顔面を両手で掴んだアカは更に下の階の床に叩きつけた。叩きつけ叩きつけ、遂には暗闇でバアルからは燈達三人の姿は見えなくなった。
「…急がないと!!」
その様を見ている事しか出来なかったバアルだがすぐに頭を切り替え、自分の出来る事をするために走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます