チート保有者

 ルーク、バアルと入浴を済ませた燈はムートの書斎に足を運んでいた。


「君の知りたい事はこの棚の書物に書いてある。好きに見てくれて構わない」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ私は寝室で眠る。おやすみ、アカシ君」

「本当に何から何までありがとうございます!おやすみなさいムートさん!」


 就寝前の挨拶を済ませるとムートは自分の書斎を出て行った。


「よっし、調べるか」


 指をぽきぽきとならしながら燈は意気込んだ。

 

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「ふぅ…」


 書斎で調べ物を始めてから既に二時間近くが経過していた。

 分厚い本を何冊も丁寧に読むためどうしても時間は掛かる。


 それにしても…これだけ西洋風な世界なのに、何で日本語なんだ?


 最初に騎士学校の図書館で本を開いた時、燈はそれに驚いたのだ。そこにはどこからどう見ても自分が慣れ親しんだ国の文字が羅列されていたのだ。


 まぁ考えてもしょうが無い。今は少しでも先に進まないと。


 再び燈は書物に目を通していく。


 でも…どの文献の内容も図書館で呼んだ内容とあまり変わらないな。


 神話大戦や神異に関する記述は確かに存在する、だがそれらの情報は燈が既に知っている情報止まりであり新たな情報をいうものは無い。


「ん…?」


 また収穫が無かった事を残念がりながら最後のページをめくった燈、そこには手書きで何かが書いてあった。


「ムートさんが書いたのかな?」


 書いてあったそれに燈は目を通す。

 魔王が死に数百年が経った。しかし数十年前、奇妙な事が起こり出した。

 魔王が持っていた力、神異を持って生まれてくる者が現れたのである。


「なっ…!?」


 何気なく書かれていたその情報に燈は驚愕した。こんな所にそんな重要な情報が書いてあるとは夢にも思っていなかったのである。

 40年前を境に魔王の神異をそれぞれ受け継いだの者達が生まれ、彼らは現在世界各国に確かに存在する。


 おいおいおいおいおい……!!!こりゃあ値千金の情報じゃねぇか!!何でこんな所に書いてあるんだよ!!!


「やっぱり俺が回収しなきゃいけないチートは存在する…問題は」


 誰がチートを持ってるかって事だ。


「よし、明日はまずムートさんにこのメモ書きについて聞こう」


 そこからきっと糸口が開ける。


 それにしても……何だ、この違和感は?


 新たな情報は手に入れた。だが何か言い表しようのない、喉につっかえて何か出

せない気持ち悪さのようなものを燈は感じた。


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 翌朝、ルーク達は学校のためムーミの家から直接通う事になった。


「……」


 翌朝、出された朝食を食べながら燈は思案していた。というのもムートに質問を

した事がきっかけである。というのも 


『ムートさん。本の一冊にメモ書きみたいに字が書いてあったんですけど、そこに書いてあった事で聞きたい事が』

『メモ書き?そんなものを書いた覚えはない。そもそも私は書物にそんな事はしない。誰のいたずらだ?』


 というようにムートが憤慨する一幕があったのだ。


 あれがムートさんが書いたものじゃないとしたら残るはこの家に住んでる奥さんかムーミ、バアルって事になる。でもバアルは一週間前までこの家と全く交流が無かったからそんな事をやるにはあまりに不自然過ぎる。でも残りの二人もなぁ。


 何となく、直感でだがあのメモ書きを書いたのがこの家の人間では無い事を燈は悟っていた。


 メモを書いた人をこれ以上追跡するのは…無理、か。でも、だったら次はルーク達にチートを持っている奴について聞くまでだ。


 チートは強大な力、どれだけ強大な力なのか見た事も無い燈には想像もつかないが少なくとも、それ程の力を持つ者が知られていないわけが無い。燈はそう考えた。


「な、なぁルーク」

「ん?どうした」

「放課後なんだけど、時間空いてるか?」

「……。まぁ少し待ってもらえれば大丈夫だな」

「そりゃよかった。聞きたい事があるんだ」

「聞きたい事。内容次第じゃ道中にでも話すぞ」

「いや、これはちょっと腰を据えて話がしたいんだ」


「……分かった」


 ん…。まただ、何だこの感じ。


 先日から感じている違和感はなおも続いている。そして、それは時間を経る毎に強くなっている。


 だが、何はともあれ舞台は整った。

 こうして燈達はムーミの自宅を後にした。


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 放課後、授業後の騎士候補生は精力的に自主練に励んだり、教官の指導の下、魔法を学んでいた。そのため学内の喧騒さは昼間と大差ない。


「待たせたかアカシ」

「いや大丈夫。そっちの方が大変だろ。いつも訓練訓練で」

「はは、もうとっくに慣れた。じゃあとりあえず場所を変えるか。ちゃんと話すならここは落ち着かないだろ」

「それもそうだな」

「近くに良い場所がある。そこなら落ち着いて話せる」

「それは助かる。この一週間学校内は結構歩いたけど未だにどこがどこか分からない所が多くて」

「まぁここは色々な施設が入り組んでるからな。こっちだ」

「おう」


 ルークに案内されるままに燈は歩いて行った。 


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「ここは…」


 連れてこられた空間の広さに燈は思わず声を漏らす。


「ゴールドクラス、その中でも上位10人にしか使用認可が降りない特殊訓練施設だ。今日は俺がここを使用するよう申請しておいた、ここなら色々話せるだろ」

「……ルーク、お前」


 ルークの行動はあまりにも大げさだった。話すだけだ、少し落ち着ける場所があれば事足りる。だがこの過剰な対応は、彼が燈について何か勘付いたからに他ならない。


「気付いてないと思ったか?お前が何か深刻そうな顔をしてたからな。こっちも空気を読んだまでさ」


 もう、記憶喪失なんて設定は無理か…。いや、最初から言ってたじゃないかルークは、「お前が記憶喪失じゃなくても」って。それはつまり、俺が記憶喪失じゃ無い事を最初から知ってたって事だ…!!


「で、どうしたんだよ?一体」


 意を決した燈はルークの問い掛けに口を開いた。


「ルーク、実は俺は」


 あれ…?くそ、また違和感が強くなってきた。だけど、構うもんか。言うんだ。


「記憶喪失ってのは嘘なんだ。実は俺…やらなくちゃならない事があって、そのために、聞きたいんだ。チートを持っている奴が何処に居るか」

「っ!!」

「あっ違うチートってのは神異の事で……ルーク?」


 燈は目の前に居るルークの雰囲気が一変した事に気付いた。

 先程までの空気はどこかへ消え去り、今二人を包み込んでいる空気はとても凍てついていた。


「もうちょっと誘導するつもりだったが…まさか自分からその単語を口にするとはな」


 ルークの声音は数秒前とは異なり温和とは程遠いものになる。


「お、おい…?」


 思わずルークに声を掛ける燈、だが彼は気付き始めていた。感じていた違和感の正体に。

 そもそも、これだけ調べてチート保有者に関する情報が無いという事は考えられる理由は二つしかない。


 一つはそんな者など最初から居なかったか。

 もしくは、徹底的にそれについて隠蔽されているかだ。


「チート…か。聞きたくなかったよ、お前からその言葉は」


 ルークは手から火を出した。


「お、おいルーク待てって…!!」


 アカシは一歩後ずさる。


 ま、まずい…。このままじゃ…殺される!!


 ルークの目が本気だと実感した燈はすぐさま入り口まで走り扉を開けようとしたが 


「あ、開かない…!?」


 迂闊だった、あまりにも燈は迂闊だった。最初から感じていた違和感にもっと向き合っていれば、もしくは向き合わずともここまでの道すがらのルークの不自然さに疑問を持ってさえいれば、避けれた事態かもしれなかった。

 だが、もう避ける事は出来ない。

 全力を以て、彼は起こしてしまった局面に立ち向かう事を余儀なくされた。 

 燈は後ろを振り向く。


「アカシ、残念だよ。お前は良い奴だった、それなのに…。せめて俺の手で終わらせてやる。神異:全属性特性ラウンズオブマジックを持つこの俺が」


「なっ…!?」

「はあぁ!!」


 魔法が燈に容赦なく放たれる。


 ルークが神異保持者…!?そんな…!!

 

 チートを授けられた者、チートを回収する者。二者は対立した。



 こうして、物語は加速する。

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