Moonlight
***
大小様々な蝋燭が輝く、いのちの管理棟。甘い、嗅ぎ慣れた匂いの中をベテルギウスが進む。長いマントに煽られ、炎がゆらゆらと煌く。微かな揺らめきは共鳴し、侵入者が進むごとに幻想的な風景を作り出していた。
粛々と燃え続ける光の中、蝋が溶けきって最後の灯火がいまにも消えんとしているものが一つあった。ベテルギウスの足が止まる。愛おしそうに小さな蝋燭に手を触れる。肌身離さず身につけていた白い手袋は、外されていた。
その手を、彼は自分の方に引き寄せる。何かを剥がすように体を丸めると、胸のあたりから、白い椿の花が現れた。冬の満月のように輝く椿を、ゆっくりと小さな蝋に差し出す。白椿がふわりと溶けて吸い込まれ、柔らかい月と星の光を灯した立派な蝋燭が出来上がった。今にも消えそうだった炎は、力強くいのちの輝きを見せている。
他のものとは違う、金色が少し混じった蝋燭を眺め、ベテルギウスは優しい笑みを浮かべた。ぽそり、何かを呟く。マントを翻し、ふらつく足で彼が去った後には、静かに揺らめき続ける星の数ほどの蝋燭だけが残っていた。
***
同時刻、オールトの雲。星から外れたものが、集う場所。ハレー彗星は夜空を模した空間の中にいた。オリオン座の右肩、赤く輝く星に手を伸ばす。掬い上げるように触れたその星は、細い指の間をすり抜けて消えていった。その軌跡は、涙の跡にも似て。
彗星の指先が、きらきらと残る星の轍をなぞる。星が、落ちた。
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