第8話-1 Day-6.管理棟

Day-6.管理棟


 けたたましいアラームが鳴り響く。星たちの連絡用に、と渡されている携帯電話のような端末の画面を見て、シリウスは大きなため息をついた。よし、と気合いを入れ応答ボタンを押す。端末を耳に当てる間も無く、少女の怒鳴り声が耳に刺さった。

『せんぱーーーい!?ちょっとどういうことですか?!意味わかんないんだけど!!』

「リゲル、お前どこほっつき歩いてるんだよ。さっさと帰って来いって。」

通信の先は、オリオン座に属する一等星、19歳で星になった少女である。彼女は、先ほどの任務の最中に満期の報告があった。

 帰天した星は、その星辿期を終えると次の魂に転生することができる。転生の希望を出していたリゲルは、めでたく目標を達成したのだが、スピーカーから噴き出す声は、とてもそれを喜んでいるようには聞こえなかった。

『エッ、転生先選べないって言ったって、限度あると思いません?!』


 彼女の転生先は、任務に向かった先の青年、“杉山誠也“の娘である。いのちの蝋燭に灯る炎が小さく消えそうになった彼は、魂の回収をされるはずだった。しかし、不思議なことにその炎が回復し、任務自体が取り消されたのだ。

 リゲルの声から察するに、どうやら杉山と何かあったことはわかるのだが、転生先の決定は全くのランダムであると言われているため、一介の星であるシリウスにはどうすることも出来なかった。

「だからね、それは俺に言われてもしょうがないって何度も何度も何度も何度も言ってるじゃな……ちょ、おおい!」

ハー?!という大層不満げな声の後、通信がブツリと切れた。


 リゲルといい、プロキオンといい、一応上司であるはずの自分に良い意味でも悪い意味でも砕けた様子を見せる。師匠のベテルギウスに相談すれば、まあ信頼されているのだろうよと諭されてしまった。画面を見て、もう一つため息。

「なんで俺、こんなにナメられるんだろう……」


 コンコンとノックの音がする。蝋燭の管理棟は定められたものしか入ることができない。不思議に思って入り口を見やると、そこには人影が一つあった。

「先生、どうしたんですか?こんな時間に。」

先生と呼ばれたオリオン座の一等星、ベテルギウスは穏やかな顔で会釈した。

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