第4話 弟子入り?

 「もっと強くなってみたいか……ですか? それはもちろんなりたいですが……でも、どうするんですか?」


 イルダムの突然の提案に、佑吾は戸惑いながらも正直に答えた。

 すると、イルダムが満足そうに大きく頷きながらこう言った。


 「それはな、儂らが主らを鍛えてやるんじゃ」

 「えっ、イルダムさん達がですかっ⁉︎」


 佑吾は驚きながら、くるりとイルダム達を見回した。

 イルダム達の中で、エルードが教えてくれるというならまだ分かる。

 彼は大柄で、どことなく荒事に慣れている雰囲気を感じるからだ。

 ただ他のイルダム、ウリカ、オレリアの3人は、戦闘技術を有しているようには見えない。失礼になってしまうが、本音を言えば自分より強いとは佑吾には思えなかった。


 「その顔……儂らのような老いぼれに教わることなんぞあるのか?っちゅう顔じゃな」

 「えっ⁉︎ いや、そこまでは……その、すみません」

 「かっかっか、正直な奴じゃのう。じゃが、人を見た目で判断せん方がええぞぉ。のぅ、サチや」


 イルダムに呼ばれたサチがピクッと反応し、そして苦虫を噛みつぶしたような顔になった。


 「サチと何かあったんですか?」


 佑吾がそう尋ねると、イルダムが意地悪そうにニヤリと笑って話し始めた。


 「実はのう、サチはお主より数日早く目を覚ましてな。そん時に魔法がもっと使えたらと悩んでおったから、儂が教えようかと言ったら鼻で笑われてのう。じゃから魔法勝負で軽くひねってやって、儂の方が魔法が上手いことを教えてやったんじゃ。かっかっか」

 「ちょ、ちょっとイルダム⁉︎ それは言うなって言ったじゃない!」


 ガタッと椅子を倒す勢いでサチが立ち上がり、声を荒げる。


 「その……本当なのか? サチ」

 「ぐっ……ええ、本当よ」


 乱暴に椅子に座り直し、サチがぶっきらぼうに呟く。

 その様子を楽しげに眺めていたイルダムが話を続ける。


 「そんな訳で、お主が目覚めるまで魔法が得意な儂がサチに魔法を教えておったんじゃよ。そしてな儂の家族は皆それぞれ一芸を持っとるんじゃ。例えば婆さんは若いころ武闘家だったんじゃ。儂が浮気でもしようもんなら、ようぶっ飛ばされたわ」

 「あらあら、今でもそのくらいはできますよ? やってあげましょうか?」


 おお怖いのう、とイルダムが肩をすくめる。

 イルダムは次にエルードへと顔を向けた。


 「エルードは誰に似たのか剣が得意でのう。独学で剣を身につけよったわ。ここいらの魔物なら容易に倒せるほど強いぞぉ」

 「………………」

 「かっかっか。この通り無口な奴じゃが、村の若いもんに剣を教えとるから教えてもらうときは心配せんでええぞ」


 一言も発さずに黙っているエルードの背中をイルダムがバシバシと叩く。


 「オレリアは治癒魔法が得意でのう。村のもんの病気や怪我を治してくれるんじゃ。ここだけの話……普段は優しいやつなんじゃが、怒らせると婆さん並みに怖いんじゃ」


 イルダムが茶目っ気のこもった小声で、佑吾にそう教えてくれた。


 「あら〜お義父さん。そんなこと言うと、もう腰痛治してあげませんよ〜」


 しかし、当のオレリアにバッチリと聞こえていたようだ。

 うふふとイルダムに優しく笑いかけているオレリアだったが、佑吾の目にはその笑顔の後ろに鬼気迫る般若の面が見えた。

 イルダムは「も、もちろん冗談じゃ」とたじたじになりながら誤魔化していた。

 そして夫であるはずのエルードは、心なしかオレリアから少しだけ距離を取っていた。

 イルダムの言葉は本当だったのかもしれない。

 佑吾はそう考え、とりあえずオレリアさんは怒らせないようにしよう、とそう心の中で決めた。


 「うぉっほん。と言うわけでじゃな、お主らさえ良ければ雨季が過ぎるまでの間、儂らが鍛えてやっても良いがどうする?」


 気を取り直すように咳払いしながら、イルダムはそう言った。

 イルダムの言葉に、佑吾は考え込む。

 自分たちの中で一番魔法が得意なサチが敵わなかったと言う事は、イルダムの魔法の腕が優れているのは間違いない。

 それにエルードの剣の腕前がこの山脈の魔物を倒せるほどのものなら、エルードが自分より強いことも疑いようがない。

 ウリカさんもこの2人と同程度の実力ならば、同じ武闘家のコハルに得られるものがあるかもしれない。

 オレリアさんの治癒魔法の知識も、エルミナの黄金の魔力による不思議な治癒能力の解明につながるかもしれない。それに<初級治癒キュアル>しか使えない自分も新しい治癒魔法を覚えて、みんなの役に立てるかもしれない。

 イルダム達が嘘をついてこちらを騙そうとしていることも考えたが、こんなことで騙す目的が分からないし、金品目的ならそもそも溺れて衰弱していた自分とサチを助けずに荷物を剥ぎ取っていただろう。

 つまりイルダムの提案は、自分たちの強さに不安を持っていた佑吾たちにとって、まさに渡りに船すぎる提案だった。

 だからこそ、佑吾には一つ懸念というか心配事があった。


 「その、教えてもらえるのはすごくありがたいんですが……俺たちはそれに対してどうお返しすればいいでしょう……?」

 「ん? 別になんも要らんが、それじゃとお主らは逆に困りそうっちゅう感じじゃなぁ。そんなら村の仕事を手伝ってくれりゃええ。おお、そうじゃ。エルードと一緒に山に行けば実戦訓練もできて一石二鳥じゃな。かっかっか」


 イルダムがカラカラと大声で笑う。

 その笑い声に続くように、他の面々も肯定的な言葉を言ってくれた。


 「あらあら、今日から賑やかになりそうですねぇ」

 「…………村の仕事を手伝ってくれるなら助かる」

 「皆さんの旅の話や外の国の話、聞いてみたいわ〜」


 どうやらイルダム以外の3人も、稽古をつける見返りは村の仕事を手伝うことで問題ないようだ。

 村での仕事ならアフタル村でそれなりにこなしてきた。手伝いくらいなら問題なくできるだろう。

 そう考えた佑吾がちらりと仲間たちを見やると、みんなそれぞれにイルダムの提案に賛成であることを態度を示した。


 「分かりました。それなら雨季の間、皆さんのお仕事をお手伝いしますので稽古よろしくお願いします!」

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