エピローグ 装いと気持ちを新たに
リートベルタ大公との謁見が終わった後、佑吾たちはガストーニに別室へと案内された。部屋に入ると、佑吾たちはガストーニと机を挿んで向かい合っていた。
そしてその両者の間にある机の上には、魔力を放つ様々な武具がズラリと並べられていた。
「皆様、こちらが今回我が国がお渡しする魔法の武具となっております。ぜひ、身につけてみてください」
「ほ、、本当にこんな凄そうな武具をいただいて良いんですか……?」
「ええ、もちろん。皆様のおかげで、ヴィーデが救われたのですから」
ガストーニに勧められるままに、佑吾たちはそれぞれに渡された武具を装備していった。
「すごい、剣も防具も何て軽さなんだ……!」
佑吾が両手に剣と鎧を持ち、その軽さに目を見開いて驚いていた。
佑吾に渡されたのは、「フレイアルソード」というロングソードと「マジックメイル」という軽装鎧、そして「ライトシールド」という小型の盾だ。
フレイアルソードには
さらに軽量化・斬撃強化の魔法付与に加えて、剣に魔力を込めると、刀身に炎を纏わせることができる<
マジックメイルにも、軽量化の魔法が付与されていた。
防御力が本当にあるのか疑いたくなるほどの軽さだが、硬質化付与と対魔法付与も施されているため、魔法付与していない普通の鎧よりも防御力があるそうだ。
ライトシールドは、
「すごいすごい! 体がすごく軽いよ!」
コハルは装備を身につけると、ぴょんぴょんとその場で楽しげにジャンプしていた。
コハルに渡されたのは、
「獅子の衣」は、
「やった! 新しい魔導書……早く読みたいっ!」
サチが両手に持った魔導書を掲げて、目をキラキラと輝かせていた。
サチに渡されたのは、
ワンドと魔導書はどちらも強い魔力を放っており、ワンドはサチの魔法の効力を底上げし、魔導書は新しい魔法を習得するのに役立つだろう。
「こいつぁ、良い武器だな!」
ライルが剣と弓を手に取り、ためつすがめつ眺めて満足げに頷いていた。
ライルが渡されたのは、「ディヴァイダー」と呼ばれる黒い刀身の大剣と、「翠風の魔弓」という若草色の弓、そして「飛竜のマント」だ。
ディヴァイダーには
翠風の魔弓は風の魔法が付与されており、放つ矢の速度と威力を増大させる効果がある。
飛竜のマントは、名の通り飛竜の皮をなめして作られた丈夫なマントだ。そして、炎への高い耐性も持っている。
「きれい……!」
エルミナに渡されたのは、エルミナの身長よりも少し小さい長さの「アイリスロッド」と呼ばれる杖と、「月光の聖衣」という魔法の服、そして「守護のブローチ」という装飾品だ。
アイリスロッドは、先端に花の意匠があしらわれた魔法の杖だ。花に取り付けられた魔石には聖なる魔力が込められており、治癒魔法の効果を増大してくれるようだ。
月光の聖衣は、
聖歌のブローチは、天使の羽のようなデザインがあしらわれた神秘的な装飾品だ。着用者を邪悪な力から守ると言われている。
「皆様、大変よくお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
ガストーニの賞賛の言葉に、佑吾は照れながら答える。
もらった武具を手にして、佑吾も含めみんな嬉しそうに表情を緩めていた。
「ご満足いただけたようで何よりです。ところで話は変わりますが、皆様のこれからのご予定は?」
「宿で一泊したのち、次は獣王国へ向かうつもりなんです」
「なるほど、獣王国ですか……」
佑吾が答えると、ガストーニは何やら難しげな表情を浮かべた。
「何かあるんですか?」
「それが……我が国と獣王国の間にはなだらかな山脈がありますので、二つの国を行き来するには、山をぐるりと迂回する街道を使うのですが…………その街道が先日の大雨による土砂崩れで、道が塞がってしまっているのです」
「「「ええっ!?」」」
佑吾、コハル、エルミナの三人が素っ頓狂な声をあげて驚いた。
そんな驚く三人をよそに、サチが落ち着いてガストーニへと尋ねた。
「復旧にはどれくらいかかるの?」
「最低でも、数ヶ月はかかるかと……」
「う……そんなにかかんの……」
ガストーニの答えに、サチがうげーと顔をしかめる。
「そうなると、街道の復旧を待たずに獣王国に行くためには、その山脈を越える必要があるということか」
「その通りです、ライル様。幸い山脈の標高は高くないため、しっかりと準備すれば問題なく越えられるでしょう。魔物も出没するのですが……皆さんの実力とその装備があれば、問題ないでしょう」
「なるほど……ガストーニ殿、情報の提供感謝する」
「いえいえ、お気になさらず。それでは褒賞もお渡ししましたので、皆様を城門までお見送りいたします」
そうして褒賞を全てもらい、ガストーニから獣王国への道のりを教えてもらった佑吾たちは、大公城を離れることになった。
城門までガストーニに見送ってもらった後、佑吾たちは城下町で山越えに必要となる道具と保存食を買い込んだ。
その後は、公都の入り口近くの宿屋に宿泊することにした。
リートベルタ大公との謁見で緊張して疲れたのか、佑吾たちはぐっすりと眠りについた。
◇
翌朝、旅で早起きに慣れた佑吾たちは、朝日が昇る前に全員起床した。
慣れた手つきで出発の準備を終えて宿屋を出て、そして朝日が昇るのと同時に公都リーシェンを後にした。
佑吾たちは今、街道をゆっくりと歩いている所だった。
「ねえねえライル、獣王国ってどんなところ?」
「俺もあまり詳しくはないんだが……獣王国は、コハルやサチのような獣人たちが暮らしている国だ。後は、国王が
「ふぅん、人間はいないの?」
「少ないが居るぞ。獣人と結婚した人とか、獣人を相手にした商売をしている商人とかな」
「へぇ〜楽しみだね、エルミナ!」
「うん! コハルお姉ちゃん!」
エルミナたちが、楽しげに話しながら佑吾の前を歩いていく。
その後ろ姿を眺めながら、佑吾はこの旅の目的を思い出していた。
そもそものこの旅の目的は、龍人といわれたエルミナを龍王国へと連れて行き、エルミナの素性を尋ねることだ。
龍王国までの道のりは遠く、長い旅になることが分かっていた。
だからだろうか。旅の始め──アフタル村を出た当初は、佑吾の心の中には、エルミナのためという目的以外にも観光気分な所があった。
日本とは違う世界の色んな景色を見られる、そんな気持ちがあった。
まさかヴィーデで遭遇したような危険な目に遭うなんて、少しも思いもしなかった。
正神教団──アレニウスとの戦いを思い出す。
今回は運良くみんな無事だった。
ただ、次にまた同じような危険な目にあった時、また生き残れるかは分からない。大切な家族を──失ってしまうかもしれない。
そんなのは嫌だ。
みんなを守れるようになるために、もっと強くならないと──
「──佑吾、ちょっと佑吾!」
「……うわっ!? さ、サチ? どうした?」
「どうしたじゃないわよ。何ぼーっとしてんの、置いてかれるわよ」
どうやら佑吾は、考え込みすぎて立ち止まっていたようだ。
そんな佑吾を不思議がるように、前を歩くみんなが佑吾の方を見ていた。
「佑吾何してんのー! 早く行こーよー!」
「お父さーん!」
「ああ、ごめん。今行くよ!」
ぶんぶんと手を振って呼ぶコハルとエルミナ。
穏やかにこちらに微笑むライル。
片手を腰に当てて、ぶっきらぼうな表情を浮かべるサチ。
自分のことを待ってくれている四人の元へ、佑吾は駆け出して行った。
次の目的地は、獣王国ガルガンシアだ。
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