第24話 逆転の一撃

「私コソガ正義ナノダァ!! 死ネッ!! 罪人ドモガァァァ!!」

「「「<剛体ごうたい>!!」」」


 アレニウスが無数の泥の腕で、佑吾たちを殴りつける。

 それらを、佑吾たちは<剛体ごうたい>で自身の肉体を強化して迎え撃った。佑吾とライルは剣で、コハルは拳でアレニウスの拳たちをはじき返した。


「ヌゥゥゥッ!! <火球フレイア>ァ!!」

「<魔盾マギルド>!!」


 アレニウスの無数の泥の腕の先に、いくつもの魔法陣が浮かび上がり、そこから無数の火球が放たれる。

 それに対して、佑吾はみんなを守るように眼前に魔法の盾を出現させた。

 無数の火球がその盾に激突していき、魔法の盾にヒビを入れていく。


「ぐっ、うぅぅぅ……!!」


 佑吾は盾が破られないよう、歯を食いしばって魔力を注ぐ。

 火球が盾に直撃するたび、脳が揺らされるような痛みが襲う。

 最後の火球を防ぐまで、佑吾はその苦痛に耐えて魔力を注ぎ続けた。

 そして、佑吾が無数の火球を防いでいる隙に、コハルがアレニウスから見て左の方に走って回り込んだ。


「<剛拳ごうけん>!!」


 コハルは右拳に氣力を集中させて、アレニウスの泥の体を渾身の力で殴りつけた。拳が泥の体に沈み、バチャリと泥がはじけてコハルの頬にかかる。


「もいっかい<剛拳ごうけん>!! やあああああああ!!」


 コハルは今度は左拳に氣力を集中させ、右拳を引き抜いて入れ替えるように左拳で殴りつけた。その勢いのまま、両の拳でひたすらアレニウスの泥の体を殴り続けた。

 コハルが殴った箇所はアレニウスの再生能力ですぐに回復するのだが、コハルはそれでも構わずにラッシュを続けた。

 それを不快に感じたのか、アレニウスの攻撃の矛先がコハルへと向く。

 アレニウスが二つの泥の腕をコハルへと向けて、爆撃の魔法を放った。


「邪魔ヲスルナァ!! <爆撃プロージア>アアア!!」

「コハル、離れろ!!」

「うん!!」


 <爆撃プロージア>の威力を既に知っていた佑吾がコハルに呼びかけると、コハルは即座にアレニウスから距離を取った。そしてコハルが先ほどまでいた場所で、激しい爆発が起きた。

 そしてアレニウスがコハルに注意を向けた隙に、今度はライルがアレニウスに仕掛けた。


「<氣刃きじん斬り>!!」

「グゥゥゥウウウウウ!? ウットオシィィィィィ!!」


 ライルはバスタードソードに己の氣力を流し込んで強化すると、力強くそれを振り抜き、アレニウスの泥の腕を数本まとめて斬り飛ばした。

 アレニウスは距離を取られたコハルをひとまず放置することに決めて、目の前で自分の腕を斬り飛ばしたライルに、牛頭魔人アルタウロスの腕で殴りかかった。


「死ィィネェエエエエエエエ!!」

「させない、<魔盾マギルド>!!」


 佑吾が再び魔法の盾を出現させた。

 牛頭魔人アルタウロスの腕が盾に激突すると、盾は一瞬で砕けてしまった。しかし、ライルが攻撃の軌道から逃れるだけの隙は稼いだ。

 アレニウスの攻撃が空振りに終わると、ライルと入れ替わるように佑吾が前に出た。


「はああああああああ!!」

「グガァアアアアアアアアアアアアア!?!?!?」


 <剛体ごうたい>で自らの肉体を強化し、ブロードソードでアレニウスをひたすらに斬り続けた。

 いくら再生能力を有するとは言え、これだけの攻撃を叩き込まれば無傷というわけにはいかなかった。


「アァアアアアアアアッッッ!!!!!!」


 佑吾たちのコンビネーションに翻弄され、いつまでも仕留めきれないことにアレニウスが激昂し、虚空に向かって叫ぶ。その咆哮は大気を震わし、佑吾たちの肌をビリビリと打った。


「ひぃっ!?」

「怯むな!! <戦気昂揚せんきこうよう>!!」


 アレニウスの咆哮に怯えた兵士たちをアーノルドが叱咤し、自らの氣力を兵士たちに与えることで強化する氣術を発動した。

 それにより、怯えた兵士たちの目に闘争心が戻り、怒れるアレニウスへと再び向かっていった。


 「クソ、クソガァ!! 罪ニ塗レタ、クソ虫ドモガァァァ!! イイ加減ニ死ニ晒セェェェェェェェエ!!!!」


 雄叫びと共に、アレニウスの全身から高濃度の魔力が迸る。

 アレニウスの無数の泥の腕、その全ての手のひらに魔法陣が浮かび上がった。


「まずい!! 奴の魔法を止めろ!!」


 アレニウスが強力な魔法を放とうとしていることにアーノルドは気づき、兵士たちに攻撃を呼びかける。

 しかし、その抵抗がまるで無駄だと嘲笑うかのように、アレニウスの顔が喜悦に歪んだ。


「モウ遅イ!! <大爆ギガノプロー——」

「<豪炎砲ディア・フレイア>ァアアア!!」

「——グギィィッ!?」


 詠唱を完了しようとしたアレニウスに、の火炎の球体が着弾した。

ぜ火の粉が大きく爆ぜ、その威力でアレニウスの魔法の詠唱を阻害する。アレニウスが展開していた無数の魔法陣が割れるように消えた。


「サチ!?」

「くぅぅ……あいつみたいに魔法を同時発動してみたけど、結構きついわねこれ……」


 佑吾が<豪炎砲ディア・フレイア>が放たれた方を見やると、ワンドを構え、荒く呼吸をするサチの姿が目に入った。

 サチはエルミナと一緒に魔石に魔力を込めていたはずだ。そのサチが攻撃に参加したということは——


「お父さん! 魔石に魔力を込め終わったよ!」


 ——サチの側に立つエルミナが、両手で佑吾に見えるように魔石を胸の前に掲げた。エルミナの手のひらにある大きな魔石は、今にも爆発しそうな気がしてしまうほど真っ赤に光っていた。

 佑吾はすぐにエルミナのもとへ駆け寄り、その臨界状態の魔石を受け取った。


「ありがとうエルミナ、サチ!」

「佑吾殿、臨界状態の魔石に魔力を加えると数秒後に爆発する。魔力を込めたら、すぐに奴に放るんだ!!」

「分かりました!」


 兵士とともにアレニウスを押さえ込んでいたアーノルドの助言が、佑吾へと飛ぶ。それを聞いた佑吾は、右手でしっかりと魔石を握りしめると、キッとアレニウスを睨んだ。

 ここから、氣術で体を強化して魔石を投げることもできるが、ちゃんとアレニウスの元に投げられる自信は無いし、奴に弾かれてしまう恐れもある。

 ならば、確実に奴に投げつけるためには限界まで近づくしか無い。


「みんな、俺があいつに近づくのを援護してくれ!!」


 佑吾は、自分の仲間にそう言って駆け出した

 駆け出す佑吾が持っている魔石から溢れる魔力に脅威を感じたのか、サチの魔法のダメージから回復したアレニウスが狙いを定めた。


「私ニ近ヅクナァアア!!」


 アレニウスの無数の泥の腕たちが、全て佑吾へ向けて殺到する。


「させない!! <剛体ごうたい>、やああああああ!!」


 コハルが佑吾よりも前に飛び出し、佑吾に向けられた泥の腕の元へ飛び込んで、その拳と脚でもって次から次へと泥の腕を弾き飛ばしていった。


「<氣刃きじん斬り>!!」


 そしてコハルが弾いていく泥の腕を、すかさずライルが斬り落としていった。

 二人の連携により、佑吾へと向けられた泥の腕は無惨に地に落ちていく。


「クソ、来ルナァ!! <火電フレズエ—」

「させるかっての!! <迅雷光ディア・エレク>!!」

「——ゴガァッ!? 何度モ何度モ小娘ガァアアア!!」


 雷撃によって体を麻痺で震わせながら、アレニウスが激昂する。

 アレニウスの泥の体、その腹に開いた巨大な口がガパリと開いた。喉と思われる場所の奥に真っ赤な炎が揺蕩っているのが見えた。


「佑吾殿、危ない!!」


 アーノルドの危険を呼びかける声を佑吾は振り払い、今にも火炎の息を吐こうとしているアレニウスへと恐れる事なく向かっていった。

 アーノルドや兵士たちの目には、佑吾の行動は無謀そのものに見えた。

 しかし、当の佑吾は違う。

 仲間が——家族が助けてくれる。その絶対の信頼があった。


「<光弾レブル>!!」


 佑吾の後ろから飛来した、黄金色を纏う光の弾丸がアレニウスに直撃した。

 振り返らなくても分かる、エルミナの魔法だ。


「ギィィィアアアアア!? アヅッ、熱イィィィ!?!?」


 エルミナの黄金の魔力が、アレニウスの泥の体を焼いていく。

 その巨体がぐらりと揺らいだ。

 そして奴が痛みに悶えている間に、佑吾は魔石が狙い通りに投げられる位置まで到達した。


「これで……終わりだあああああ!!!!」


 逆転の願いとともに臨界爆発に至る最後の魔力を魔石に込めて、佑吾はアレニウス目がけて魔石を全力で投げつけた。


「ヒッ!? ヤメ——」


 魔石は狙い違わず、アレニウスの眼前に迫った。

 そして、臨界を迎えた魔石が一際まばゆい真っ赤な閃光を放ち、アレニウスの巨大な泥の体を凄まじい爆炎が呑み込んだ。

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