第22話 絶体絶命
「正義ヲ‼︎ 正義、正義、正義イィィィィィ‼︎」
醜悪な化け物と変貌したアレニウスが、泥の体を引きずりながら、佑吾たちへと迫ってくる。
それと同時に、体から生えている無数の腕のうち四本の腕の手のひらに魔法陣が浮かび上がった。
「<
「くっ!」
四つの魔法陣から、拳大の火の玉がそれぞれ放たれた。
佑吾とライルはそれぞれ剣で防ぎ、コハルは未だ魔力を使い切った疲労から膝をついているエルミナを抱えて後ろに跳んでかわし、サチは同じ<
魔法を防がれたアレニウスだったが、奴はその間に佑吾たちに十分に接近していた。泥の体から生えている腕の一つ——
「死ィネェェェェェ!!」
「っ! <
佑吾は魔法による盾でその拳を防ぐと、その間にアレニウスと距離を取った。
「ふん!」
そしてその隙にライルが奴へと接近し、氣力を込めて泥の体から生えた
バスタードソードは難なく、その
すると、斬り飛ばした
「何だと──ぐっ!?」
「罪人ガァアア!!」
驚愕するライルに、アレニウスの他の腕たちが襲いかかった。
ライルは慌てて後ろに跳んで、アレニウスと距離を取る。
ライルへと殺到していた腕たちが、空を切った。
「<
アレニウスから遠く離れていたサチが、得意の雷魔法を放つ。
ワンドの先から幾重もの迅雷が放たれ、全てアレニウスへと命中した。
「グ、ギ……邪魔ヲ、スルナァァァァァァ!!」
迅雷で体を痺れさせながらも、アレニウスはサチの方へと二本の腕を向けた。
かざした二つの手の前に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「<
アレニウスが、二本の腕に魔力を込める。
そして呪文の詠唱が完了すると、サチは眼前の空間にアレニウスの魔力が大量に収束し始めるのを感じた。
(この魔法はヤバイ!)
サチの猫耳がビクリと反応し、細く黒い尻尾は危険を知らせるかのように毛を逆立ててピンと伸びた。
直感で危険を感じたサチがその場を離れようとした——が、それよりも早くアレニウスの魔法が先に発現した。
収束した魔力をエネルギーに、激しい爆発が起きた。
爆風と炎が、サチに襲いかかる。
「きゃああああああ!?」
「サチ!?」
「サチお姉ちゃん!」
逃げ遅れたサチは、爆風で吹き飛ばされた。
エルミナが慌てて倒れているサチへと駆け寄り、治癒の力で癒やそうとする。
サチは体のあちこちに火傷と裂傷を負っており、一目で分かるほどに重傷だった。さらに、エルミナは今までの戦闘で魔力の大部分を消費してしまったため治癒の力がかなり弱まっており、サチの治療は遅々として進まなかった。
「よくもサチをっ!! やあああああ!!」
コハルが怒り任せにアレニウスの泥の体を、力一杯殴りつけた。
バチャッと泥が大きく弾けたが、すぐさま再生して元通りになる。
しかし、それでも構わず、コハルはやたらめったらにアレニウスの体に攻撃し続けた。
「ウゥットォシィィィィィ!!」
アレニウスが攻撃対象をコハルに変えて、無数の腕でコハルに掴みかかろうとした。
しかしコハルは持ち前の敏捷性を活かして、自分へと襲いかかる腕たちを華麗にかわしていった。
「チョコマカトォォ……正義ノ裁キヲ受ケロォォォォォ!!」
「うわわっ、攻撃の数が多い……!」
アレニウスの攻撃が、だんだんと激しくなる。
ただ殴りつけるだけでなく、<
コハルも氣力で身体能力を強化して、懸命にアレニウスの攻撃を避けていた。
しかし次第に疲労が溜まっていき、コハルの動きは精彩を欠き始めた。
そして、とうとうアレニウスの拳の一つがコハルの右肩を打ち抜いた。
「あぐっ!?」
「ギヒャッ!! 死ネ死ネ死ネェェェェェェ!!」
「コハル!? クソ、こっちを向け!」
そして動きが止まってしまったコハルに、アレニウスのいくつもの殴打と魔法が無情に降り注いだ。
アレニウスの注意を引こうと必死に攻撃していた佑吾だったが、その苦労は報われず、コハルは悲鳴をあげることすらできずに、血まみれになりながら静かに地に伏した。
「ギャハハハハハハハハハ!! 正義ィ執行ォォォ!!!!」
コハルを仕留めたことに喜び、アレニウスが高らかに嗤う。
「クソッ!!」
佑吾が力任せにアレニウスを斬りつける。
しかし、それでもアレニウスは何の痛痒も感じていないようだった。
「佑吾、俺が奴の相手をする。お前さんはその間にコハルとサチを治療しろ!!」
「でも、それじゃライルさんが……」
「俺に構わず早くしろ!! あいつらが死んでもいいのか!!」
「っ……! はい、分かりました!!」
佑吾は剣を納め、アレニウスの近くで倒れるコハルに近づこうとした。
しかし、アレニウスがそれを許さない。
「オ前タチモ死ネェェ!! <
「なっ!?」
佑吾に向かって電気を纏った火球が、ライルに向かって火を纏った電撃が迸る。
佑吾は、慌ててブロードソードで<
しかし<
「ぐぁッ!?」
「裁キヲ受ケロォオオオ!!」
電気が全身に流れ、佑吾の体が麻痺で硬直する。
その致命的なまでの隙を、当然アレニウスが放置する訳はない。
アレニウスは自身の腕の中で最も攻撃力の高い
「ごはっ!?」
胴体に凄まじい衝撃を受けて、肺から全ての空気が無理やり押し出され、バキボキとあばら骨が折れる音が胸から響く。
そして殴られた衝撃のまま、佑吾は受け身を取ることもできず地面を何度もバウンドして吹き飛ばされた。
「がっ……あぁ……<
倒れた佑吾は<
佑吾が<
「くっ……ハァ!!」
ライルは火を纏った電撃をバスタードソードで受け止めると、後方へと受け流した。しかし、完璧に受け流すことはできず、電撃の一部がライルの右腕を焼き貫き、剣を持つ利き腕に麻痺と火傷を負ってしまった。
そしてその間に佑吾を殴り飛ばしたアレニウスが、最後に残ったライルへと猛攻をたたみ掛ける。
「残ルハァ、オ前ダケダァ……! 死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネェェェェェェ!!」
「ぐぅ……これは、捌き切れん……!」
複数の腕による殴打と魔法の乱射。
コハルにそうしたように、圧倒的な物理量の攻撃をライルに浴びせかけた。
ライルは持ち前の技量と氣術でその攻撃を捌こうとするが、負傷した右腕ではその全てを捌くことはできなかった。
一撃、二撃と徐々に攻撃が当たり始め、ライルの体力を削っていった。
「ゲヒャ、ギャヒャヒャヒャヒャヒャ!! 捕マエタァア!!」
「ぐっ……クソ、放せ!!」
アレニウスの複数の腕が、疲弊でかわしきれなくなったライルに掴みかかり、両手両足を掴んで拘束した。
そんなライルに向けて、泥の体の腹にある口がガパリ大きく開く。
そして、燃え盛る火炎の息をゼロ距離で吐きつけた。
かわすことも防ぐこともできず、ライルはなす術なく火炎の息に呑まれた。
全身が焼き尽くされ、空気と一緒に火を吸い込んで、喉も肺も焼かれていく。
アレニウスが火炎の息を吐き終えると、そこには全身に重度の火傷を負ったライルの痛ましい姿があった。
アレニウスはそれを満足げに眺めると、乱暴にライルの体を投げ捨てた。
「ヤハリ、ヤハリヤハリヤハリ私ハ正シカッタ!! 私コソガ正義ナノダ!! ギャハハハハハハハハ!!」
「お父さん、みんな!?」
エルミナの声に反応し、嗤うのを止めたアレニウスがエルミナへとぐるりと顔を向けた。
「……サァ聖女様、罪人ドモハ死二絶エマシタ。私トトモ二教主様ノ元へ参マショウ!!」
「イヤ、来ないで!!」
アレニウスが泥の体を引きずり、エルミナへと近づこうとする。
しかし、それを阻む影が一つ立ちはだかった。
「お父さん!」
「マダ生キテイタカ……シブトイ害虫メェ!!」
「ゴホッ……エル、ミナに、手を出すなッ……!!」
仲間がみんな倒れ、自分自身も満身創痍な絶体絶命な状況の中、それでも佑吾はブロードソードを杖代わりに、血を吐きながらも体を引きずり、エルミナを守るためにアレニウスの前に立った。
しかし、今の傷だらけの佑吾では立っているのもやっとの有様だった。
「イイ加減二死ネェ!!」
アレニウスが苛立ち混じりに、
確実に死をもたらす一撃が佑吾の眼前に迫る——しかし、アレニウスの一撃は佑吾に届くことはなかった。
二人の間に割り込んだ闖入者が、アレニウスの一撃を剣で止めたからだ。それは——
「ゴボッ、アー……ノルドさん……?」
——佑吾たちとともに魔力生成所に乗り込んでいた、ヴィーデ兵士隊最高司令官のアーノルドだった。
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