第9話 護衛の依頼

 佑吾たちは三日間ほど、フォレント村の復興作業を手伝った。

 懸命な作業のお陰で、村人たちが再び生活を始められる程度には、村を復興させることができた。

 佑吾が暮らしていた現代日本であれば、三日間というわずかな時間で、ここまで作業するのは難しいだろう。

 それを可能にしたのは、やはり魔法の存在だ。

 火の魔法で魔物の死骸やゴミを焼却し、水の魔法で一時的に水源を作り出す。また風の魔法で樹木を伐採して資材にし、土の魔法で荒れた土を整える。

 佑吾とサチも、それぞれ火と風の魔法を使って、その作業に貢献した。

 日常生活における魔法の万能性を、改めて目の当たりにした気分だった。


 復興作業の手伝いを終えると、佑吾たちはヴィーデの街まで戻ってきた。

 復興作業はまだ残っていたが、兵士隊の隊長から作業に協力した事を感謝され、「後の細かな作業はこちらに任せて、あなた方はヴィーデに戻って頂いて大丈夫です」と言われたため、その言葉に甘えてヴィーデまで戻ってきたのだ。

 また、兵士隊の隊長から、村を襲った魔物の討伐と復興作業を手伝ってくれたお礼に謝礼を貰った。しめて金貨一枚と大銀貨七枚、日本円で十七万円、中々の金額だった。

 佑吾はあくまで好意で村人を助けただけであったし、村長であるネイマも謝礼を支払うと言っていたので、隊長からの謝礼は辞退しようとしていた。

 しかし、隊長から「街の規定だから支払わなければならない、受け取っていただかないと困る」と言われてしまった。

 さらに、ライルからも「俺たちはそれだけの仕事をしたんだ、正当な報酬は受け取ってもいいだろう。それでも気が咎めるなら、ネイマさんからの報酬を辞退すればいい」と言われたので、佑吾はライルの言葉通り、ネイマからの謝礼は辞退し、隊長からの謝礼、金貨一枚と大銀貨七枚を受け取った。

 その謝礼と、佑吾たちがここまでに魔物を倒して得たお金と合わせて、佑吾たちが稼いだ総額は、およそ金貨二枚と大銀貨五枚となった。

 ヴィーデで稼ぐ予定だった金額は金貨三枚なので、目標まであと大銀貨五枚となっていた。

 大銀貨五枚程度なら日雇いの依頼でも稼げるとのことで、佑吾たちは掲示板が並ぶあの大きな広場へとまた来ていた。


「すみません、ちょっとよろしいですか?」

「はい?」


 みんなで良い依頼が無いかを探していると、見知らぬ男が佑吾に話しかけてきた。

 その男は綺麗で仕立てのいい服を着ており、裕福そうな見た目をしていたが、知り合いではない。


「フォレント村で魔物を退治した旅人さん方と言うのは、あなた方のことでしょうか?」

「ええと……はい、そうです」

「おお! やはりそうでしたか!」


 男が嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 一体、何の用なのだろうか?

 見知らぬ男とは反対に佑吾たちは眉を潜め、訝しげな表情を浮かべた。


「……その、すみません、どちら様でしょうか?」

「おお、これは名乗らずに失礼を。私はこの街で商店を営んでおりますマイルズと申します。あなた方に依頼をお願いしたく、探しておりました」

「依頼、ですか?」

「はい。今度近くの街に商品を売りに行くのですが、そこまでの護衛をお願いしたいのです」


 笑顔で依頼内容を説明するマイルズであったが、佑吾には依頼内容よりも気にかかる事があった。


「あの、なぜ俺たちに俺たちに依頼するんですか? 掲示板に貼って募集すれば、俺たちよりも適任の人が依頼を受けるかもしれませんのに」


 そう、佑吾が気になっていたのはそこだ。

 なぜ、マイルズは会ったことも無い佑吾たちに、護衛などと言う大事な依頼を頼むのだろうか。

 その理由が分からなかった。


「ああ、それはフォレント村に住む私の両親から聞いたのですよ。犬人と猫人と小さな子どもを連れた旅人たちが、魔物をバッタバッタと倒して、村を救ってくれたとね。ですので、そんな強いあなた方に依頼するのと同時に、両親を助けてくれたお礼が言いたかったのですよ!」

「なるほど……そうだったんですか」

「はい。しかもあなた方は村の復興作業も手伝ってくれたそうじゃないですか!そんな親切な方たちであれば、信頼できると思ったのです!」


 マイルズは、ニコニコと嬉しそうに話を続けた。


「依頼料の方は、両親と村を救っていただいた謝礼も含めて色を付けさせていただきます。金貨一枚でどうでしょうか?」

「金貨一枚!?」


 マイルズが提示した金額は、掲示板にあった他の護衛依頼と比較してもかなり高い。

 何か裏があるのではと思ったが、マイルズの表情はとても真摯なもので、こちらを騙そうとしているとは到底思えなかった。

 佑吾が確認するように仲間たちの方を向くと、みんな無言で賛成の意を示してくれた。


「分かりました。そう言うことでしたら、ぜひ依頼を受けさせていただきます」

「おお、ありがとうございます!! 出発は、明後日を予定しております。二つ目の朝の鐘が鳴る頃に、東門にて待ち合わせましょう!」


 マイルズと依頼の段取りを確認した後、佑吾たちは護衛任務の準備を進めることにした。




 そして護衛依頼の当日、佑吾たちは約束どおり東門でマイルズと合流した後、ヴィーデの街を出発した。

 マイルズの護衛依頼は、順調に進んだ。

 と言うのも、マイルズが向かう街──ラチナの街は、整備された街道の先にあるため、ほとんど魔物に遭遇しなかったからだ。

 遭遇しても、ほとんどが弱い魔物だったり、群れからはぐれた魔物だったりしたので、全くと言っていいほど苦戦しなかった。

 これで、依頼料が金貨一枚だと言うのだから、破格の依頼と言えるだろう。

 あの日マイルズと別れた後、佑吾がライルに依頼料の相場について確認を取ると、やはり相場よりもかなり高いらしい。本来ならあり得ない金額とのことだ。

 恐らくだが、マイルズが言っていた「両親と村を救ってくださった謝礼」のお陰で、多目に依頼料を払ってくれているのだろう。


 やがて、大きな問題もなく、マイルズと彼が取り扱う商品を乗せた馬車を、無事に目的地であるラチナの街へと到着させることができた。

 ラチナの街は思いのほか遠く、朝早くにヴィーデを出発したにもかかわらず、到着する頃にはもう日が沈もうとしていた。

 街へ入った後は、マイルズが取引を行う商会へと向かった。

 マイルズは相手方の商会員と少し話した後、商会の入り口で待つ佑吾たちの元へと戻ってきた。


「皆様、今回は護衛のほどありがとうございました。お陰で、私も商品も無事にラチナに着きました。こちらが依頼料の金貨一枚となります」


 そう言って、マイルズは懐から巾着を取り出し、その中の金貨一枚を佑吾に手渡しました。


「はい、確かに」

「こちらの宿屋に、皆様の分のお部屋を取っております。どうぞ、今日はこちらでお休みください」


 そう言って、マイルズが宿屋の名前と簡単な地図が記された紙を手渡してきた。


「宿屋まで……何から何までありがとうございます」

「何をおっしゃいます! あなた方は両親の命の恩人なんですから! まだまだお礼がし足りないほどですよ!」


 恐縮してお礼を言う佑吾に対し、マイルズが大きな声でそう言った。


「もし、何かご入用ならば、ヴィーデにある私の商店までお越しください! 皆様であれば、お値段は勉強させていただきますよ!」


 その後、佑吾たちはマイルズとその場で別れて、マイルズが部屋を取ってくれたという宿屋まで向かった。

 マイルズが気を利かしてくれたのか、部屋は二人部屋と三人部屋を取ってくれていたようだ。佑吾とライルが二人部屋、サチとコハルとエルミナが三人部屋を使うことにして、夜更かしはせずに休みを取った。

 明日にはヴィーデに戻り、出発の準備を進められるだろう。

 佑吾は静かに眠りについた


 そして明け方、ラチナの街を異変が襲った。

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