第8話 不思議な首輪

 村で多くの魔物と戦闘を繰り返した佑吾たちは、ようやく村内の魔物を掃討する事ができた。


「ハァハァ……疲れた……」

「さすがに……しんどい、わね……」

「ふへ〜疲れた〜」

「あぅぅ……」


 佑吾たちは、もはや体力も魔力も氣力もスッカラカンで疲労困憊となっており、立つことすら億劫だった。佑吾たちは汚れることも気にせずに、地面に座り込んで休んでいた。

 唯一ライルのみが、まだ少しだけ余裕があったので、逃げていった村人たちに魔物を掃討した事を知らせるために狼煙を上げていた。

 狼煙を上げた後は、村人たちが逃げていったという東の方に向かい、戻ってきた村人たちを迎えに行った。

 自分たちの村に帰ってこれた村人たちは、魔物の死骸に怯え、破壊された家屋や畑を見て悲しみに嘆いた。中には、恐らく家族だった者の遺体にすがって泣いている人もいた。

 そんな村人たちの姿にやりきれないものを感じていると、佑吾たちの元に、ライルが老人を一人引き連れて戻ってきた。


「あなた方がライル様のお仲間様ですね。私は、このフォレント村の村長を務めております、ネイマと申します。我々を助けてくださって、本当にありがとうございました」


 そう言って、ネイマは腰を曲げて佑吾たちに深く頭を下げた。

 佑吾は慌てて立ち上がって、返答した。


「いえ、助けが遅くなって救えなかった人もいます。本当にすみません」

「何を仰いますか。あなた方が来てくれなかったら、村は滅び、皆魔物に食い殺されておりました。今ここに生き残れているのは、あなた方が助けてくださったからに他なりません。重ねて申し上げます。村を助けに来てくださって、本当にありがとうございました」


 そう言ってネイマは、もう一度深く佑吾たちに頭を下げた。

 未だ救えなかった人へのやりきれなさは感じつつも、佑吾はネイマの感謝を受け入れることにした。

 すると、ネイマがとても言いづらそうに、再び話し始めた。


「…………村を救っていただいた皆様にこれ以上お願いをするのは、大変恥知らずだとは存じますが、我々のお願いを聞いてくださらないでしょうか?」

「何でしょうか?」

「一晩我らの村で休息を取ったのちに、ヴィーデに我々の村のことを報告していただけないでしょうか? 今、村人たちはとても疲弊しており、ヴィーデまで安全に移動できる者がおらず、あなた方にお願いするしか無いのです。報酬は可能な限りお支払いいたします。ですので何とぞ……」


 そう言ってネイマは、深く深く頭を下げて佑吾たちに頼み込んだ。

 佑吾が視線でライルに確認を取ると、ライルは無言で頷いて答えた。


「分かりました。一晩休み次第、すぐにヴィーデに報告へと向かいましょう」

「おお……ありがとうございます、ありがとうございます……」


 佑吾がそう答えると、ネイマは何度も何度も頭を下げて、佑吾たちに感謝した。




 その後、村で一晩休んだ佑吾たちは日の出と共に、ヴィーデへと向かった。

 道中何度か魔物と遭遇したが、一刻も早く村の現状をヴィーデに伝えるために時間をかける訳には行かなかったので、討伐はせずに追い払うか逃げることにした。

 そのお陰もあって、昼前にヴィーデへと到着し、佑吾たちは門番の兵士に、村で起こったことを報告した。

 門番の兵士がすぐにヴィーデの兵士隊本部へと掛け合うと、すぐさま村の救援、および復興のために兵士が派遣されることが決定した。

 佑吾たちは、その兵士たちを村まで案内して、ついでに村の復興作業を手伝うことにした。


 村での復興作業は、やらなければならない事が多くあった。

 壊された家屋の修繕や建て直し、村人たちの簡易居住区の建築、またそのための資材集め、また魔物に荒らされてダメになった作物の代わりとなる食料の調達など、復興作業は多岐に渡った。

 現在は、魔物の死骸を一箇所に集めるために運んでいるところだ。

 兵士たちが、土魔法で生み出した大きな穴に死骸をまとめて入れて焼却し、その後埋めるらしい。

 死骸が腐敗すると流行病の原因となる。それを防ぐための処置だった。

 サチが魔物の素材がもったいないとぼやいていたが、解体作業は時間がかかるし、何より魔物の死骸の数がかなり多い。そのため、素材回収は諦めるしかなかった。


「よいしょっと」


 佑吾が引きずっていた森林狼フォレスウォルフの死骸を、穴に近づいて放り込む。

 ベチャっと音を立て、すでに放り込まれていた死骸の上に積み重なった。

 穴の中の魔物の死骸の山を見て、佑吾は何とも言えない気持ちになる。

 村人を守り、さらに自分たちが生き残るためとは言え、こんなにも大量の生き物を殺してしまった事に、罪悪感を感じているのだ。

 佑吾が感傷に浸っていると、兵士たちが複数人で佑吾が倒した赤巨人レッドエノルマスを運んでくるのが見えた。

 それを何となしにぼんやりと眺めていると、その赤巨人レッドエノルマスの首もとで何かがキラリと光った。


「ん?」


 目を凝らしてよく見てみると、それは首輪だった。

 赤巨人レッドエノルマス赤小人レッドヒュノムは人間のように武器や防具を身につけたりするが、首輪のような装飾品をつけている個体を、佑吾は今まで見た事がなかった。

 不思議に思いながら、穴の中の魔物の死骸にも目を向けてみると、赤巨人レッドエノルマス以外の魔物にも、首輪をつけている個体がいた。

 どうやらその首輪は、その種族の中で一番大きな個体が身につけているようだった

 なぜ魔物が首輪をつけているのか?

 それを疑問に思っていると、ちょうど佑吾の近くをライルが通りかかったので、佑吾はその疑問をそのままライルに尋ねることにした。


「魔物の首輪? ああ、あれのことか」


 尋ねると、ライルもピンと来たのか答えてくれた。


「あの首輪には、どうも魔力が込められているらしくてな。兵士さん方の話では、恐らく魔道具の一種と思われるが、詳しい事は専門家が解析しないと分からんらしい」

「そうですか……」


 明確な答えが得られず、佑吾はモヤモヤとした気分になる。

 ただ、何故だろうか。

 あの首輪に対して、佑吾は何とも言えない嫌な物を感じていた。それが何故なのかは、佑吾にも説明できないのだが。


「こちらにおられましたか」


 佑吾とライルが二人でいるところに、兵士──救助に駆けつけた兵士隊の隊長だ──が話しかけてきた。


「このたびは、村を救ってくださって本当にありがとうございます。あなた方が魔物を倒していなければ、被害はもっと大きくなっておりました。警備を司る者として、お礼申し上げます」


 そう言って、兵士が深く頭を下げた。

 兵士、しかも隊長を務める方に、ここまで丁寧に感謝されるとは思っていなかった佑吾は、緊張で狼狽えた。


「い、いえ、人として当然の事をしたまでです!」

「あなた方のお心遣いに感謝いたします」


 慌てて喋る佑吾を不思議そうに見た後、佑吾の様子を可笑しく思ったのか兵士が微笑ましげに笑みを浮かべた。

 一通り佑吾と兵士の会話が終わると、ライルが尋ねた。


「被害状況は?」

「亡くなった者が九名、負傷者が二十八名、そして、行方不明者が四名です」

「何? 行方不明者がいるのか?」

「はい。恐らく魔物から逃げる際に他の村人からはぐれ、森の中に入って行ったのではないかと。今、部下が森の中を捜索しております」

「そうなんですか……早く見つかると良いですね」

「はい。我々も全力で捜索を行いたいと思います」


 佑吾の言葉に、兵士が力強く答える。

 行方不明となった村人の安否を気にかけながら、佑吾たちは村の復興作業に戻った。

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