第22話 家族を守る騎士
「ライルさん、今いいですか?」
「ん? 佑吾か。仕事で何かあったか? まあとりあえず、中に入れ」
ある日の夕方、自分の仕事を終わらせた佑吾は、ライルの家を訪ねていた。
日はもうすでに落ち始めているから、おそらくライルはもう家に居るだろう。
そう思って訪ねると、予想通りライルは家にいた。
佑吾の突然の来訪にライルは少し驚いたようだったが、すぐに家に招き入れてくれた。
「こんな時間にどうしたんだ?」
二人分の暖かい飲み物を用意しながら、ライルが佑吾にそう尋ねた。
「実は、ライルさんに相談があるんです」
そう言って、佑吾は心の中で苦笑を浮かべた。
自分は、いつもライルさんを頼ってばかりだな、と。
「なるほど。どんな話だ?」
飲み物を入れ終わったライルが、佑吾に飲み物を差し出しながら佑吾の向かいに座った。
「……ライルさんは、龍人について何か知っていますか?」
「何?」
飲み物を飲んでいた手を止め、ライルは驚いたように佑吾を見た。
「……お前さん、どこでそれを知った?」
「帝都での事件です。デネブがエルミナは龍人だと、そう言っていました」
「……なるほどな。もしエルミナが本当に龍人なら、色々と合点が行く所はある」
「そうなんですか?」
「ああ、高い魔力に魔法適性、それに不思議な治癒能力、全て龍人ならあり得ない話ではない」
「龍人とは、どんな種族なんですか?」
そう聞くと、ライルさんは思い出そうするかのように、顎に手を当てながら話し始めた。
「まず龍人は、龍の血をその身に宿していると言われている種族だ」
「言われている、ですか?」
「そうだ。龍と人間の間に産まれた子どもを始祖とする種族、と歴史書に記されているらしい。俺も伝え聞いた話だから、真偽のほどは分からんがな」
飲み物を一すすりして、ライルは言葉を続ける。
「龍人は見た目こそ俺たち人間と変わらんが、特徴として、強靭な肉体と高い魔力を有する種族だ。どちらもエルミナに当てはまると言っていいだろう」
「確かにそうですね……」
エルミナは女の子だが、村の男の子たちに負けないほど運動ができる。
また、親バカと言われるかもしれないが、魔法の才能にも優れているように思う。
サチに負けず劣らずの速度で光の魔法と習得し、不思議な治癒能力も自在に操れるようになっているからだ。
「龍人たちの国、みたいなものはあるんでしょうか?」
佑吾のいた世界では、国ごとに特定の人種が集中していた。
この世界ならば、種族ごとに国を作っている可能性がある。そう考えて、佑吾は尋ねた。
「ある。龍王国と呼ばれる龍人たちの国が、ここから遥か北の方にな」
「……龍王国に行けば、エルミナの出生やあの不思議な治癒の力のことが分かるんでしょうか?」
「……その可能性は無い、とは言えんな」
「本当ですか!?」
エルミナの出生が分かる手がかりを見つけ、佑吾は喜ぶ。
しかし、それとは対照的にライルの言葉は、どこか重々しかった。
「だが……龍王国に行くのはやめておいた方がいい」
「なぜですか? エルミナの事が分かるかもしれませんのに……」
「ここから龍王国までの道のりは、お前が想像しているものよりも遥かに大変だ。それに……」
「それに……何ですか?」
言い淀んだライルに、佑吾は言葉の続きを促す。
話すのを躊躇っていたライルだが、佑吾のエルミナを想う気迫に観念し、言葉の続きを話した。
「……龍人たちは、俺たち人間のことをよく思っていない、いや憎んでいると言っていいだろう」
「憎んで……それは、何でなんですか?」
「人間たちが龍人の力を恐れ、迫害してきたからだ」
「それは……」
その言葉に、佑吾は絶句した。
まさか、この世界にも人種差別のようなものがあるとは思わなかったからだ。
「仮に龍王国まで行けたとしても、エルミナ以外は入国を認められないだろう。もしかしたら、人間と暮らしていたというだけで、エルミナも入国できないことも考えられる」
畳み掛けるように、ライルは言葉を続けた。
「お前さんたちは、この世界のことをまだよく知らない。龍王国までの道のりは遥かに遠く、道中危険な魔物にだって襲われる。魔物だけじゃない。野盗のような犯罪者にだって襲われるかもしれない。デネブの件のように、エルミナやコハルやサチが、悪人に目を付けられて誘拐される可能性だってある」
自分の言葉に合わせて、ライルは指を一本ずつ立てていった。
その指で示された一つ一つの危険が、佑吾の大切な家族に襲いかかるかもしれないのだ。
「それでも、お前さんは龍王国に行きたいのか?」
重々しく、ライルはそう佑吾に問うた。
「…………エルミナに聞いてみて、もしエルミナが龍王国に行くことを望むのであれば、俺はどんな困難な道のりであっても、それを叶えてみせます! その道中で、俺の大切な家族に危険が降りかかると言うのなら、俺がみんなを──家族を、絶対に守ってみせます!!」
ライルの問いかけに、佑吾は力強くそう答えた。
その声には、確かな覚悟が込められていた。
そんな佑吾の言葉を聞いて、険しい顔をしていたライルだったが、フッと満足したように笑った。
「そうか、お前さんの覚悟は分かったよ。なら、まずはお前さんの家族に今日の話をしてどうするか決めるんだな。どんなに格好いい啖呵を切っても、エルミナ自身が望まなければ意味ないからな」
ライルにからかうようにそう言われて、佑吾はさっきの自分のセリフを思い出して、少しだけ照れ臭くなった。
まさか、こんな歳になって、子どもの頃に憧れたヒーローのようなセリフを言うことになるなんて、思いもしなかった。
「ライルさんの言うとおり、帰ったら今のことをみんなに話してみます。ただ、もし、エルミナが龍王国に行きたくなかったとしても、俺が大切な家族を守るっていう言葉に、嘘偽りはありません」
「ふっ。お前さんは、まるで
「
「
そう言って、ライルは微笑ましげに佑吾を見た。
「
「クッ、ハハハ! 三人のお姫様を守る騎士か、実にお前さんらしいな!」
佑吾の言葉を聞いて、ライルが破顔した。
それは決して佑吾の言葉を馬鹿にするものではなく、若者の夢を応援する暖かさに満ちたものだった。
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