第15話 屋敷での攻防

 フィックルの部下の荒くれ者たちが、雄叫びをあげながら佑吾たちへと向かってくる。

 それに対して佑吾たちは、それぞれ一対一となるように迎え撃った。

 庭のあちこちで、武器同士がぶつかり合う音が響き始めた。

 その中でライルは、自分に向かって来た荒くれ者の攻撃を悠然とかわし、たったの一撃で昏倒させた。

 その動きの一部始終を、フィックルは見ていた。


(あの男、ただの町人じゃねえな……あいつらじゃ厳しいか)


 ライルを強敵と見なし、部下たちでは相手にならないと判断したフィックルは、前に進み出てライルと対峙した。


「あんた強いねえ。俺が相手してやるよ」

「…………」


 フィックルの軽口には反応せず、ライルは静かに大剣を構え直した。




 荒くれ者の一人が、剣を振り上げながら佑吾に向かってきて、その剣を怒号と共に力任せに振り下ろした。


「オラァ、死にやがれっ!!」

「ぐっ……ハアアア!!」


 佑吾は、荒くれ者が振り下ろした剣をロングソードで受けると、それを力を込めて弾き返した。そして弾き返した斬り返しで、荒くれ者の頭に思い切りロングソードの面をたたき込んだ。


「はっ!」

「ぐがっ!?」


 頭を叩かれた荒くれ者は、白目を剥いてフラフラとよろけた後、そのまま仰向けに倒れた。


「……ハァハァ、すまねえ……助かった」


 佑吾の後ろにいた、ニアの仲間が声をかけてきた。

 彼は、苦しそうに胸の傷口を押さえていた。先ほどの荒くれ者にやられた傷だ。押さえている手から、じんわりと血が流れていた。


「大丈夫ですか? 今、治しますから……<初級治癒キュアル>」

「ああ……ありがとよ。楽になった」


 佑吾は治癒魔法をかけ終えると、他にピンチの仲間がいないか、周りを見渡した。そんな佑吾の目に入ったのは、荒くれ者の攻撃に苦しめられているサチの姿だった。


「くぅ……コイツうざい!」

「ちょこまか逃げやがって……オラっ!!」

「クソッ!」


 サチが悪態を吐きながら、荒くれ者が振り下ろしたでかい棍棒をすんでのところで避けた。

 ゴズンッと鈍い音をたてて、棍棒が地面にめり込む。

 荒くれ者は、「チッ」と小さく舌打ちをすると、再びサチに攻撃を仕掛けた。


「ああもう! これじゃ、魔法が唱えられないじゃない!」


 どうやらサチは、荒くれ者の度重なる攻撃によって、魔法の詠唱を邪魔されているようだった。

 状況を理解した佑吾は、すぐさまサチの攻撃に気を取られている荒くれ者に、魔法を打ち込んだ。


「<風玉ウィドル>!」

「なっ––––がぁっ!?」


 死角から飛んできた風の魔法に荒くれ者は驚き、巻き起こる突風を受けてよろめいた。

 荒くれ者が体勢を崩した隙に、サチは素早く魔法の詠唱を行った。


「ナイス佑吾! 食らいなさい、<電撃エレク>!!」

「ぐぎゃあああああ!?」


 サチの放った魔法の電撃が、荒くれ者に直撃した。

 電撃が駆け巡り、荒くれ者は全身からプスプスと煙を上げながら、静かに崩れ落ちた。 

 サチはようやく敵を倒せたことにやれやれとため息をつきながら、佑吾の元へと歩いてきた。


「はぁ、助かったわ。ありがとう佑吾。コハルは?」

「あそこだ」

「てやてやてやてやてぇやぁぁぁぁぁ!!」


 佑吾が指差した方向から、大きなコハルの声が聞こえてきた。

 サチが声のした方を向くと、コハルが荒くれ者に拳のラッシュを繰り出しているところだった。


「ぐっ、このアマ……いい加減に……!!」


 コハルと戦っていた荒くれ者は、必死に武器でコハルの猛攻を防いでいた。

 しかし徐々に体勢を崩していき、隙を突かれて、持っていた武器をコハルに叩き落とされてしまった。


「しまっ──」

「隙あり! せいやぁ!!」

「はぐっ!?」


 武器を失った荒くれ者が狼狽える暇すら与えずに、コハルはそのまま流れるようにアッパーを叩きこんだ。

 コハルのアッパーに綺麗に顎を撃ち抜かれた荒くれ者の体は、綺麗な放物線を描きながら宙を舞い、受け身を取ることなくそのままドサリと地面に落ちた。それ以降、荒くれ者の体はピクリとも動かなかった。


「コハル、怪我はないか?」

「佑吾! うん、私は大丈夫だよ!」


 佑吾とサチが、コハルの元へ駆け寄っていく。

 コハルに怪我は無いようで、佑吾はホッとした。

 その三人の元に、ザッザッザッと走ってくる足音が聞こえた。


「三人とも、怪我は無い? 大丈夫?」

「ニア。俺たちは大丈夫だ。ニアの仲間たちは?」

「少し怪我はしてるけど、みんな無事だよ」


 佑吾がニアの後ろの方を見やると、彼女の仲間たちがお互いに治療を行っているようだった。

 これで荒くれ者は全員を倒したか。

 それを確認するために、佑吾は再び辺りを見回した。


 ガギィン!!


 鋭い金属音が、響いた。

 佑吾が慌てて音の方へ顔を向けると、ライルとフィックルが激しく切り結んでいた。

 フィックルが、レイピアを鋭く突き出す。

 ライルはそれを大剣で受け流し、上段から剣を振り下ろして反撃した。

 その反撃をフィックルは軽やかに避けると、再びレイピアによる刺突を高速で繰り出していった。

 二人の攻防が、目まぐるしく繰り広げられていた。


「ライルさん、加勢します!」

「来るな!」


 佑吾は加勢のためにライルの元へ駆け出そうとしたが、当のライルからそれを止められた。


「こいつは俺に任せて、お前さんたちは屋敷へ行け! この騒ぎで、デネブが逃げ出すやもしれん。その前に、奴を捕まえろ!」

「でも!」

「いいから早く行け! 俺は大丈夫だ! だから、お前さんはエルミナを助けに行ってやれ!」


 フィックルのレイピアをかわしながら、ライルが叫ぶ。

 しかし、ライルの言葉を聞いても、佑吾は未だに迷っていた。


「何してんの佑吾! 早く屋敷に行くわよ!」

「サチ!? でも、ライルさんが……」

「ライルなら大丈夫よ。赤巨人レッドエノルマスを一人で倒したのよ。あんな男くらい楽勝よ」

「そーだよ! ライルなら、あんなのやっつけてくれるよ!」

「…………分かった……俺たちは、エルミナを助けに行こう!」


 サチとコハルの言葉を受けて、佑吾もようやく決心した。


「ここまで来たんだ。あたしも手伝うよ」


 ニアが、ニッと子どもらしい笑みを浮かべながら、佑吾たちの近くに立った。


「……ありがとうニア。ライルさん、ここはお願いします!」


 そう言い残して、佑吾たち四人は屋敷へと向かった。

 ライルはそれを、フッと笑って見送った。

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