第12話 vs.フードの男──ディダ
「チッ……」
倉庫で佑吾と戦っていた、フードをかぶった真っ黒なローブの魔法使いの男──ディダは舌打ちした。
ただでさえ面倒な倉庫の警備をさせられている上に、間が悪いことに自分が警備している日に侵入者が来たのだ。さらに腹立たしいことに、その侵入者は自分の魔法にしぶとく耐えて、今は倉庫のどこかで身を潜めている。
(荷物を崩したのは失敗だったな。デネブが騒がなければいいが……)
自らの雇い主はかなりケチな人間で、少しの荷物でもダメにしたならば、怒り狂ってこちらを罵倒してくるに違いない。
それを考えると、ディダは不愉快な気分になった。
(まあいい。侵入者を捕まえて、それを言い訳にすればいいだろう)
ディダは思考を切り替えてると、敵である佑吾たちの索敵に意識を集中し始めた。奴らは自分より弱いが、三人いるのが面倒だ。一人でも逃してしまったら、あのケチな依頼主にケチを付けられるだろう。
ディダにとって、それは想像するだけで我慢ならない事だった。
(さて、どうする。奴らを倉庫から出さないために俺はこの入り口から動けんし、土人形どもに探させている時に奇襲を受ければ、いくら相手がザコでも危うい。ならば、一体だけ探しに行かせて──)
ディダは、作戦を考えながら、妙案を思いついた。
(──そうだ。一体は探しに行かせて、もう一体は私の側で、奴らから見えないように隠れさせよう。そうすれば、二体とも探しに行かせていると勘違いした奴らが飛び込んで来るに違いない!)
ディダは、自らの頭に浮かんできた名案に対して自画自賛する。
思いついた作戦を、頭の中でシミュレートしていく。
(奴らが飛び込んできたら、隠れさせた一体でブロックし、その間にもう一体を引き返させて挟撃。さらには私の魔法もある。完璧だ!)
自身の作戦に少しも隙が無いことを確認したディダは、すぐに作戦を実行に移した。
一体を索敵のために倉庫の奥へとやり、もう一体は荷物の陰に潜ませた。
(奴らが来る前に魔法の詠唱も終わらせて、いつでも放てるようにしておくか。ククク……)
魔法の詠唱をしながら、愚かなネズミが罠にかかるのを、ディダは今か今かと待っていた。
やがてディダが目論んだ通り、二匹の愚かなネズミ──佑吾とコハルが、罠とは知らずに、荷物の陰から飛び出して、こちらへと向かってきた。
「クク、馬鹿が!!」
ディダは自分の勝利を確信し、嘲笑を浮かべた。
探しに行かせた土人形には自分の元に戻る指示を送り、側で隠れさせていた土人形を佑吾たちの前に飛び出させた。
佑吾たちは突然現れた土人形に、驚いたような表情を見せた。
その顔を見て、ディダは自分が考えた作戦通りに進んだことに快感を覚え、サディスティックな笑みを浮かべた。そして、詠唱を終わらせていた魔法を、佑吾たちに叩き込もうとスタッフを構えた。
ディダに奇襲を仕掛けた佑吾たちは、隠れていた土人形に奇襲を防がれ、さらにようやく戻ってきた、もう一体の土人形に挟撃を受ける形になってしまった。
逃げ道が塞がれた佑吾たちに魔法を放とうとした時、ディダの頭の中にある疑問がかすめた。
(待て……あの
サチがいないことに気づいたディダは、慌てて辺りを見回した。
奴は魔法が使える。死角から魔法が放たれ、防御が間に合わなかったら、いくら自分でもまずい。
必死に探すディダの視界の端で、暗がりの中で何かが横切るのが見えた。それを目で追うと、それはワンドを構えて今にも魔法を放たんとするサチの姿だった。
「何っ!?」
「スキありよ! <
「クソ! 獣風情が、<石礫《グラーヴ>!!」
ディダが射程距離に入るまで近づいたサチが、火の魔法を放つ。
ディダは、佑吾たちに放とうとした土の魔法を、とっさにサチに向けて放った。
サチの放った火の球とディダの放った石の散弾がぶつかり合い、魔力による爆発が起こった。
「ぐっ!?」
「キャア!?」
爆風から顔を庇ったディダが、一瞬怯む。
それにより、佑吾たちを襲っていた土人形への指示が途切れ、土人形が棒立ちとなった。
「今だ、コハル! <
「うん、任せて!」
土人形が棒立ちになった隙を突いて、佑吾はコハルに腕力強化の支援魔法をかけた。
「てえぇぇぇやあぁぁぁぁぁ‼︎」
支援魔法を受けたコハルは、動きを止めた土人形に肉薄した。
そして、土人形を二体とも、周囲に高く積まれた荷物の山の近くへと殴り飛ばした。
「<
土人形が吹っ飛ばされると、すかさず佑吾は、土人形の近くにある荷物の山へと風の魔法を打ち込んだ。
拳大の風の塊が荷物の山の下の方に炸裂し、小さな爆風を巻き起こす。
その爆風により、荷物の山はゆらゆらと揺れ始め、やがて大きくバランスを崩して、地面に倒れている土人形の上へと雪崩のように崩れていった。
「ん? な、何っ!?」
荷物が崩れる音に反応してディダが振り向き、荷物が崩れた光景を目にして狼狽した。ディダの土人形たちが荷物に埋もれ、身動きが取れなくなっていたからだ。
ディダは、慌てて土人形たちに荷物をどけるように指示を出す。
しかし、大量の荷物に埋もれた土人形たちは、ピクリとも動けなかった。
「クソ!」
「行くぞ、コハル!」
「うん!」
佑吾とコハルが、狼狽するディダの元へと全力で駆けた。
「なっ、グ、<
「させるか!」
ディダが慌てながらも魔法を唱えようとしたのを見て、佑吾は持っていたロングソードをディダに向かって思い切り投げつけた。
「危っ!? ひぃ!?」
ディダは、とっさにスタッフで自らをかばった。
それが功を奏して、ロングソードは運良くスタッフとぶつかり、ディダを傷つける事なく、カランカランと音を立てて地面へと落ちた。
しかしそれが、決定的な隙を生んだ。
「せいやぁッ!!」
「ごぶぁっ……!?」
ディダが怯んだ隙に、コハルは距離を詰め、ディダの腹へと思い切り拳を打ち込んだ。
ディダの体はくの字に曲がり、口からは唾がこぼれた。
コハルが拳をゆっくり引くと、ディダは白目をむいてそのまま崩れ落ちた。
「ふー、なんとかなったねー」
「サチ、大丈夫か!?」
ディダが動かないのを確認すると、佑吾は急いで爆発に巻き込まれたサチの方へと走って行った。
「……来るのがおっそいのよ」
サチは壁にもたれて座っており、痛そうに顔を歪めていた。
外傷は擦り傷程度だが、爆風で飛ばされて壁に強く体をぶつけてしまったようだった。
「待ってろ、すぐに治してやるからな。<
「…………ふぅ、ありがと。それにしてもコイツ、何だったのかしら?」
「多分、デネブが雇っている警備兵か何かじゃないか?」
「この人、強かったねー」
「まあ、敵には違いないわよね。起きたら面倒だし、魔法でちゃんと眠らせとこうかしら。<
サチは倒れているディダの頭に手を当てると、眠りの魔法を使った。
近距離でしか使えない上に魔術師には効きづらいため、今回の戦闘では使えなかったが、今回は相手が気絶している上に、頭に手を当てて使っているから、魔法はすんなりと効いたようだった。
「コハル。念のため、これ折ってくれる?」
「分かった。えい!」
サチが、転がっていたディダのスタッフをコハルに渡す。
コハルは両手でそれを受け取ると、それに膝蹴りを叩き込んで、「バキッ」という音とともに真っ二つにへし折った。
魔法使いは、基本的に杖の補助を受けて魔法を使うため、杖が無いと魔法の威力が落ちたり、コントロールが難しくなったりする。
それを知っているが故の対処だった。
「容赦ないな……」
サチの容赦の無さに、佑吾は少しだけ引いてしまった。
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