第11話 vs.フードの男

「……全く、俺が担当の日に面倒な事をしてくれる」


 倉庫の入り口に立つ人影──フードをかぶった男が、煩わしそうにそう呟いた。


「ぐっ……二人とも、大丈夫か?」

「あいたたた……私は、大丈夫だよ」

「あたしもよ。ったく、何だってのよ……」


 魔法によって崩れてきた荷物を、佑吾たちはギリギリの所でかわした。

 そのせいで体勢を崩していた佑吾たちだったが、すばやく立ち上がると、それぞれの武器を構えて、目の前に立つフードの男を見据えた。

 倉庫の入り口に立つ男は、真っ黒なローブを着ており、右手には男の肩ほどの高さまである、丈夫そうなスタッフを握っていた。

 その服装のせいか、佑吾には男が御伽話に出てくる悪い魔法使いにしか見えなかった。


「<土人形シャマ・パルト>」


 フードの男が魔法を唱えると、男の背後で地面から土の山が二つ盛り上がった。その二つの山は、グニャグニャと粘土のように形を変えて、やがて大人と同じくらいの大きさの人形となった。


「行け」


 フードの男の指示に従って、土人形が二体、佑吾たちへと突進してきた。


「コハル!」

「うん! てやぁ!」


 佑吾の呼びかけに応じて、佑吾とコハルの二人が土人形を迎え撃った。

 佑吾がロングソードを振るい、コハルが強烈な蹴りを繰り出した。


「ぐっ……」

「嘘っ!? 止められた!?」


 土人形は二人の攻撃を、難なく受け止めていた。

 そのまま押し込もうとしても微動だにせず、二人に反撃を繰り出してきた。

 その反撃をかわし、二人は土人形から距離を取る。


「サチ! 術者を狙ってくれ!」

「分かったわ! 食らいなさい、<火球フレイア>!」


 佑吾の指示に従い、サチが魔法を詠唱する。

 サチのワンドから火の玉が放たれ、フードの男を目がけて飛んでいった。


「<土塊シャマス>」

 

 しかし、フードの男が焦ることなく魔法を唱えると、男の足下の地面が隆起して全身を隠すほどの壁となった。サチの放った<火球フレイア>は、あえなくその土の壁に防がれてしまった。


「クソっ、防がれた!」

「そこの猫人ねこびとは魔術師か。<泥鞭マドルーパ>」


 フードの男が、続け様に魔法を唱える。

 すると男の持つスタッフの先端から泥が噴き出し、鞭のようにしなりがらサチへと迫った。


「チィッ!」


 サチは小さく舌打ちしてその場を飛び退き、持ち前の俊敏さでフードの男が操る<泥鞭マドルーパ>の追撃をかわしていった。


「ちっ……獣風情が。逃げ回るのは早いな」


 なかなか攻撃が当たらない事にフードの男は苛立ち始めたのか、<泥鞭マドルーパ>の操作が荒くなり始めた。

 そのせいか、再びサチが<泥鞭マドルーパ>の攻撃をかわした時に、勢い余って積み上げられた荷物に攻撃がぶつかり、大量の荷物が佑吾たちとフードの男の間に崩れてきた。

 大きな音を立てて、荷物が崩れていく。

 その中で、大きな麻袋が地面に落ちた。落ちた衝撃で袋の口を縛る紐が緩み、中から白い粉が大量にぶち撒けられ、もうもうと粉塵が舞い上がった。


「コハル、サチ、一旦退いて隠れるぞ!」

「分かった!」

「ええ!」


 佑吾は、ロングソードで土人形の攻撃を強く弾き返して距離を取ると、粉塵に紛れて二人と一緒に倉庫の奥へと逃げていった。


「ちっ……面倒をかけやがって!」


 フードの男が、佑吾たち目がけて魔法を放つが、粉塵で姿が見えないせいで、魔法が佑吾たちに当たることは無かった。

 結果、佑吾たちは倉庫が広かったのも幸いし、粉塵に紛れてフードの男から少し離れた荷物の陰に隠れることができた。


「はぁ、はぁ……」

「それで、一体、どうすん、のよ……」


 息を切らしながら、佑吾はそばにある荷物に軽くもたれた。

 サチも荒く息を吐きながら、小声で問いかけてきた。


「あの男を、はぁ、倒す、しかないだろ……」

「分かってるわよ、そんな事は! あたしが聞きたいのは、あの男をどうやって倒すかよ!」

「お、落ち着いて、サチ。声が大きいよ」


 声が大きくなりかけたサチを、コハルが宥める。

 奇しくも、倉庫に入った時と立場が逆転していた。


「あの人形が厄介だ。あれさえ無ければ、何とかなりそうなんだが……」

「土でできてるなら、水魔法とかが効きそうなんだけど……ミスったわ、苦手だからってサボるんじゃなかった」

「佑吾の風の魔法で、ビューンと飛ばせばいいんじゃない?」

「いや、多分無理だな。威力が足りない」


 コハルの提案に、佑吾が首を振る。

 コハルの言う風の魔法とは、佑吾が帝都に来る前に覚えた、新しい魔法のことだ。ただし、残念な事にその魔法には、サチが使う魔法ほどの威力が無かった。


「あの人形は重すぎる。俺の魔法じゃ、せいぜいこの荷物の山のバランスを崩すくらいしか──」

「佑吾?」

「急に黙って、どうしたってのよ」


 言葉を途中で切り、佑吾は顎に手を当てて思案する。

 あの魔法をこう使えば、もしかしたらあの人形を無力化できるかもしれない。

 考えがまとまった佑吾は、二人に話を切り出した。


「──二人とも、作戦を思いついた」

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