第10話 倉庫襲撃

 ニアから計画について教えてもらってから二日後の夜、遂にデネブが運営するグレーデン商会の倉庫を襲撃する計画の実行の日となった。

 佑吾たちはニアたちに連れられて、その倉庫の付近の路地に潜んでいた。

 エルミナは、今回の計画が危険な可能性があるため、さすがに連れてこられず、宿泊している宿屋で留守番をしている。


「みんな、準備は良い?」


 ニアが小声で周りに確認を取ると、佑吾たちは無言で頷いた。

 そんな佑吾たちの手には、真新しい武器が握られていた。

 これらは、ニアが今回の計画のために、自分の店の倉庫から持ち出してきた物だった。

 佑吾は、鋼鉄でできたロングソードと魔物の皮をなめして作った皮の盾、さらに服の上から鉄製の胸当てを身につけていた。

 コハルは、魔物の皮から作られた武闘着と、鉄板が仕込まれたグローブとシューズを身につけていた。

 サチには、ニアの店ではワンドを扱っていないため、蜘蛛の魔物の糸から編まれたローブだけ渡され、防御を固めた。

 ライルには、鋼鉄の大剣と、佑吾と同じ鉄の胸当てが渡されていた。


「警備している人たちはあそこか……」


 佑吾が倉庫の方を見やると、腰に剣を佩いて手にランタンを持った男たちが、倉庫の周りを歩き、周囲を見渡していた。

 ニアが立てた計画では、初めに巡回している警備兵をみんなで同時に襲撃し、応援を呼ばれる前に全員気絶させる手筈になっている。

 そのために、ニアはあらかじめ警備兵の人数と巡回ルートを調べ、それを皆に伝達していた。

 そして警備兵を気絶させた後は、デネブの犯罪の証拠──違法な商品を見つけるために、全員で手分けして倉庫内を調べる流れだ。


 ニアの話では、グレーデン商会の倉庫は全部で四つあるそうだ。

 倉庫を襲撃するメンバーは、佑吾たちを含めて全員で十二人居るので、三人ずつに分かれて倉庫内を調査することになった。

 佑吾はコハルとサチと一緒になり、ライルは顔見知りのジェイルと一緒に調べるそうだ。

 そして違法な商品を見つけた後は、その倉庫でぼや騒ぎを起こして、仲間の保安官に連絡し、仲間の保安官が引き連れた大勢の保安官にその違法な商品を見つけさせて、デネブの犯罪を明るみにする。

 これが、今日実行するニアの計画の全貌だ。


 佑吾は計画の段取りを頭の中で思い返し、自分が相手する警備兵の巡回ルートの先へ、コハルとサチと一緒に先回りした。

 佑吾たち三人は、倉庫の壁に背をくっつけて、息を殺して潜んだ。

 そして、それぞれの武器を構えて、警備兵が近づくのを静かに待った。

 カチャリ、カチャリ、と警備兵が持つランタンと剣の揺れる音が近づいて来る。

 警備兵は、佑吾たちの存在に気づいておらず、面倒くさそうに欠伸をしながら、佑吾たちの方へと歩いてきた。


「よし、今だ」


 そして、警備兵が十分に近づいたのを見計らって、佑吾は二人に合図を出した。三人で一斉に飛び出して、警備兵へと向かう。


「なっ!?」


 警備兵が、突然現れた佑吾たちに驚き、手に持っているランタンを落として慌てて腰の剣を抜こうとする。しかし、それよりも速く、佑吾たちが攻撃を仕掛けた。

 佑吾が、ロングソードの面の部分で警備兵の腹を殴る。警備兵は「ごはっ!?」と痛みに喘ぎ、動きを止めた。

 そしてその隙を突いてコハルが瞬時に警備兵に接近し、その頭を右の回し蹴りで蹴り抜いた。

 顎をきれいに蹴り抜かれた警備兵は、悲鳴を上げることすら出来ずに、その場に崩れ落ちた。


「あたしの出る幕は無かったわね」

「あはは……」


 サチが少し残念そうに呟き、構えたワンドをしまった。

 佑吾はそれに苦笑しながら、倒れた警備兵の体をまさぐる。

 しばらくまさぐって、ようやく目当ての物を見つけた。倉庫の扉に取り付けられた、錠前を開けるための鍵の束だ。


「よし、これで倉庫に入れる」


 佑吾たちは、自分たちが調べる倉庫の扉へと近づき、一つずつ鍵を差し込んで、その錠前に合う鍵を手当たり次第に探した。

 数本試して、ようやく鍵を見つけた。カチリと音を立てて、錠前が開く。

 佑吾は静かに錠前を外し、ゆっくりと倉庫の扉を押し開けた。


「うわー、いっぱいあるねー」

「ちょっとコハル、声が大きい」

「わっとと……ごめんね、サチ」


 思わず声を出してしまったコハルは、サチに小声で注意されて、慌てて口を両手で塞いだ。

 コハルの言葉に釣られて佑吾が倉庫内を見やると、あちこちで荷物の入った袋や木箱が、うずたかく積まれていた。

 自分たち三人で、道具もなしにこれを動かすのは難しそうだ。


「これを全部を調べるのは、骨が折れるな……」

「うだうだ言わないの。あんまり時間かけられないんだから、さっさと調べましょ」

「それもそうだな。コハルこの荷物下ろせそうか?」


 佑吾が、手前にある荷物の山を指差す。


「うーん……魔法ないと無理っぽい」

「分かった。それじゃ、<腕力増強アレムスト>」


 佑吾が、コハルに向けて魔法を掛けた。

 <腕力増強アレムスト>は、短時間の間、対象者の腕力を強化する支援魔法だ。


「うん、これなら行けそう!」


 魔法を掛けられたコハルが、積まれた荷物へと近づいて行った。そして、木箱や袋を両手でむんずと掴むと、どんどん床へと下ろしていった。

 そして下ろされた荷物を、佑吾とサチがどんどん調べていった。


「これは違う……こっちも違う……うーん、こっちの袋はハズレだな。サチ、そっちはどうだ?」

「こっちもダメね。次の袋を──待って。誰か近づいてくる」


 次の荷物を調べようとした所、サチが声を潜めて二人に警告を発した。音の出どころを探っているのか、サチの黒い猫耳がピクピクと動いていた。


「……この匂い、ニアたちじゃないよ」


 コハルも、スンスンと鼻を鳴らして、近づいてくる者が何者なのか探っていた。サチとコハルの話からすると、仲間でない誰かが、この倉庫に近づいているという事だ。

 佑吾たちは顔を見合わせて、慌てて荷物の陰に隠れた。

 息を殺してその誰かが通り過ぎるのを待っていると、やがて倉庫の入り口に人影が差し込んだ。


「<石礫グラーヴ>」


 入り口の人影が、低い声でポツリと呟いた。

 すると、佑吾たちが隠れている荷物に大量の小石が散弾のように撃ち込まれた。


「ぐっ!?」


 衝撃で崩れる荷物に巻き込まれないように、佑吾たちは荷物の陰から飛び出した。そんな佑吾たちを、フードを目深にかぶった男が、冷ややかに見つめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る