第7話 ニアの計画
「手伝いだと?」
ライルが、警戒を滲ませた声でそう聞き返した。
その様子を見て、佑吾とサチは真剣にニアの話に耳を傾けた。
「そ、手伝い。実はあたしもあのクソデブにはムカついててね、一泡吹かせてやりたいのさ」
ニッと、ニアが好戦的な笑みを浮かべた。
「手伝いって、一体何をするんですか?」
「んー場所を変えよっか。ここじゃちょっとね」
佑吾の質問に、ニアが含みのある様子で答えた。
その様子に、佑吾とライル、そしてサチは、ニアの話が人に聞かれたら差し障りがある内容である事を察した。
寝ていたコハルを起こしてニアとともに店を出ると、佑吾たちは彼女の後ろを付いて歩いた。
しばらく通りを歩いていると、ニアがある店の前で止まった。
佑吾は、屋根にある店の看板へと目を向けた。
「ルデル武具店?」
「ここがあたしの家、気にせず入ってって」
突然家に案内されて戸惑いながらも、佑吾たちはニアに案内されて中へと入って行った。
中に入ると、剣や盾など多数の武具が壁や棚に綺麗に陳列されていた。
店名通り、ニアの家は武器と防具を取り扱う店のようだ。
「帰ってきたかニア、そいつらは誰だ?」
佑吾が店の中を見渡していると、カウンターに座っている厳めしそうな顔の男が、ニアに声を掛けた。
「この人たち旅人みたいでさ、ちょっと旅の話が聞きたくて来てもらったんだ」
平然と嘘をつくニアに、佑吾は疑問を覚える。
なぜ、この人に嘘をつく必要があるのだろうか。
「そうか、なら店番を頼む。俺は工房に行く」
「りょーかい、父さん」
厳めしそうな顔の男──ニアの父親は、ニアに店番を任せるとカウンター奥の扉の奥へと消えていった。
「お父さんとあんまり似てないねー」
「はは、みんなそう言うよ。でも、歴とした親子さ」
コハルの呟きに、ニアが苦笑まじりに答える。
「まあそんなことは置いといてさ、本題に入ろっか」
雑談から一転、ニアの顔が真剣なものへと変わった。
「食堂で話したあたしの手伝いってのは、あんた達にあのデブ、デネブの野郎の犯罪を明るみにする事に協力して欲しいのさ」
ニアの言葉に、佑吾たちは驚く。
ただ一人、ライルだけはあまり驚いておらず、手を顎に当てて難しげな顔をしてニアの話を聞いていた。
「でも、確かあなた、デネブは保安局に賄賂を流してるって言わなかった? 訴えに行ったところで、もみ消されるだけだって」
「訴えに行ったらそうなるね。訴え自体をもみ消されて終わり。でも、方法はある」
ニアが自信あり気に笑った。
「その方法って?」
「大勢の保安官に、犯罪の証拠を目撃させることさ。いくらデネブが賄賂を流してるって言っても、保安官全員に流してるわけじゃないからね。大勢の保安官が犯罪の証拠を目撃すれば、それだけ、もみ消すのは難しくなる」
なるほど、と佑吾はニアの言い分に納得する。
それと同時にそれだけで本当に上手くいくのだろうか、という不安も覚える。
佑吾が思案していると、じっと話を聞いていたライルがニアに話しかけた。
「なるほどな。それで計画の具体的な内容は?」
「その前にあたしの計画に協力するかどうか、今ここで決めてくれないかな? 協力者じゃない人に計画の内容は教えられないよ」
「……少しこいつらと話し合っていいか?」
ライルの言葉に対して、ニアはどうぞと手で示した。
そしてライルは、佑吾たちを連れて店から出たところで、店の中にいるニアには聞こえないよう小声でみんなに話しかけた。
「お前さんらは、彼女の計画をどう思う?」
「……正直に言うと、あれだけで上手く事が進むかは疑問です」
「私も佑吾に同感。それに本当にデネブが私たちの妨害をしているのか、念のため確認した方がいいと思うわ」
「うーん、話はよく分かんなかったけど、ニアは悪い人じゃないと思うな」
「わ、私もニアさんは悪い人じゃないと思います」
佑吾たち四人は、それぞれの意見を述べた。
ライルは一人一人の意見をしっかりと聞いた後、自分の考えを述べた。
「佑吾とサチ、二人の言い分は最もだな。計画の成功率の予測と、デネブが本当に原因なのかの確認はしておいた方が良いだろう。そして、もし本当にデネブが黒幕なら、彼女の計画に乗る事を視野に入れよう。コハルとエルミナの言う通り、俺も今のところ、彼女が何か悪事を企んでいるようには見えないからな」
話し合った結果、ニアの話の裏を取るために、町にいるライルが親身にしている人に、話を聞きに行く事に決まった。
そして店の中に戻り、ニアには「話がすぐには纏まらなかったので、一日だけ待って欲しい」と嘘のお願いした。
こちらの話に対してニアは、何も疑う事なく了承してくれた。
ニアとの話を終えて、佑吾たちは店を出て、ライルの知り合いの元へと向かい始めた。
「あの子、何の疑いもなくあたしたちを帰したけど、こっちがデネブに、あの子が何か計画してる事を密告するとは考えなかったのかしら?」
まあ、あの子に協力しない事になっても絶対そんな事はしないけど、とサチは続けた。
「確かに不用心に思えるが、そもそもあの高慢なデネブが、いち村人の話に耳を傾けるかは怪しいな。まあそれも含めて、彼女の計画が上手くいくかどうかの判断は、宿に戻ったら話し合おう」
ライルの提案に、みんな頷く。
話し合っているうちに、目的地であるライルの知り合いが経営している店の前に着き、ニアの話の裏を取るために佑吾たちは店の中へと入っていった。
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