第8話 情報整理
佑吾たちが街で情報を集めているうちに、日が傾き、夜に差し掛かろうとしていた。ライルの顔が広いおかげで情報は粗方集まったため、佑吾たちは情報収集を切り上げて宿へと戻った。ちなみに部屋分けは、佑吾とライルの二人部屋、コハル、サチ、エルミナの三人部屋だ。
「よし、まずは手に入れた情報を整理するぞ」
佑吾とライルの三人部屋にみんな集まり、適当にベッドや椅子に腰掛けたところで、ライルがそう話を切りだした。
「俺の知りあいから得た情報は、多少の違いはあっても大元の情報が合致していたことから、大体は信頼できるだろう。まずは、デネブの事だ。奴はここいらの商店が集中している地区で、自分の商会の力を頼りにだいぶ好き勝手にやっているらしい。中には、脅迫を受けた者も居るようだ」
それを聞いて佑吾は、不快感から拳を強く握る。
ライルの知り合いの話では、多くの人がデネブの傍若無人に振り回され、苦しめられているらしい。
「奴はかなりの好事家で、自分が欲しい物はどんな事をしてでも手に入れるとの事だ。芸術品、嗜好品、土地、人材、実に色々なものを強引な手段で手に入れているようだ」
「……最悪な事に、エルミナもあいつのお眼鏡に適ってしまったってわけね」
「ああ、そのようだ。さらに、ニアが言っていたデネブが保安局に賄賂を流しているという話だが……あの保安官の対応を見るに、俺は事実だと考えている」
情報収集する過程で、ニアの話が本当なのか、実際に保安局に行って試してみたのだ。
その結果は、たいそう露骨なものだった。
受付でデネブについて話をしていると、いきなり奥から上位の階級と思われる保安官が出てきて、「私がお話をお伺いします」と割り込んで来たのだ。
その保安官は割り込んできたにも関わらず、佑吾たちの話に対して終始おざなりな態度だった。「証拠が無ければ対応できません」、その一点張りだった。
恐らく、この保安官がニアの言っていた、デネブから賄賂を受け取っている保安官なのだろう。
結局、何も解決策が得られぬまま、佑吾たちは保安局を後にした。
「そしてあのニアとルデル武具店についてだが、少し前にデネブから武器の大量発注があったらしい。しかも、店側が大損する程の安値で、だ」
「ふざけた話ですね……」
「ああ、ニアの父親もそう思ったんだろう。デネブの要求をはねのけたそうだ。そして、それからルデル武具店への嫌がらせが始まったらしい」
聞いた嫌がらせの内容は、とても酷いものだった。
店の前に大量のゴミを廃棄する、デネブが雇ったと思われるチンピラが訪れた客を恫喝する、店の悪評を流す、ルデル武具店の取引先の店に圧力を掛けて取引をやめさせる、など非常に悪質な嫌がらせが行われたらしい。
「ニアは保安局に苦情を入れたらしいが、俺たちと同じようにろくに取り合ってくれなかったようだ」
「だから、ニアは実力行使に出ようとしているんですか」
「恐らくそうだろう。ニアは、自分と同じように嫌がらせを受けている店の関係者を集めて、何か行動を起こそうとしているらしい」
「デネブの犯罪の証拠を大勢の保安官に目撃させる、って言ってたやつね」
「そうだ。そして最後にニアが言っていた、デネブがアフタル村からの買取を妨害していることも事実のようだ。しかも俺たちの予想通り、村に行商人が来なくなったのもデネブの差し金だったようだ」
行商人は基本的に街で商品を仕入れてから、各地方に売り渡って行く。
拠点である街の一番の商会に命令されれば、それに逆らうのは難しかっただろう。
「あのデブ、そんな事まで……本当ムカつく」
「何で、そんなひどいことをするんだろう……」
「コハルお姉ちゃん……」
サチが苛立たしげに、自分の親指の爪を噛む。
コハルはエルミナを守るかのように、ギュッと優しく抱き寄せた。
いつも笑顔なコハルにしては珍しく、その目には怒りが見えた。
「やっつけよう、そのデネブって人!! ニアと一緒に!!」
「そうね、そんな悪党ブッ飛ばしてやりましょ!」
コハルの言葉に、サチも頷く。
そして、佑吾も二人と同じ気持ちだった。
デネブのような卑劣な奴に、好き勝手にされるのが悔しかった。
「俺もコハルたちに賛成です……ライルさんはどうですか?」
みんながライルの方を見る。
その視線を受けて、ライルは覚悟を決めたように重々しく息を吐いた。
「他に手はない、か。よし、ニアの計画に協力しよう」
ライルの言葉に、佑吾、サチ、コハルの三人は力強く頷いた。
しかし、エルミナ一人だけが表情が暗いままだった。
「エルミナ、どうかしたか?」
佑吾は椅子から立ち上がって近づき、ベッドに座るエルミナと目線が合うようにしゃがみ込んで優しく話しかけた。
エルミナは少しためらう素振りを見せた後、申し訳なさそうに言葉を発した。
「わ、私のせいで、みんなに迷惑かけて……ごめんなさい」
「……それは違う、エルミナは悪くないよ。それに俺たちが頑張るのは、エルミナのことを守りたいからだ。迷惑なんかじゃないよ」
佑吾は、エルミナの頭を撫でながら優しく諭した。
エルミナは少しくすぐったそうにした後、佑吾の言葉に安心したのか少しだけ笑ってくれた。
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