第2章 帝都ヴァルタール

第1話 洞窟探索を終えて

 佑吾たちがアフタル村で暮らし始めてから一年、洞窟でエルミナを保護してから四ヶ月程が過ぎた。

 赤巨人レッドエノルマスとの戦闘の後、佑吾たちは自らを鍛え直すことにした。まず始めに、それぞれの武器を新調した。

 佑吾たちが洞窟で倒した魔物から手に入れた素材、それを売り払った得たお金の一部を使って、村を訪れた行商人から購入したのだ。

 佑吾は一般的な鉄でできた剣を、コハルは動物の皮より丈夫な魔物の皮を使用したグローブとシューズを、サチは新しい魔導書と駆け出しの魔法使いが使用するオークスという木を使ったワンドを行商人から購入した。


 新しい武器を手に、佑吾たちはライルから再び訓練をつけてもらった。

 佑吾は日本に居た頃よりもはるかに逞しくなり、剣の技術も着実に身に付けていった。今では、この世界に来て初めて遭遇した黒猪ダグボアを一人で討伐できるようになったほどだ。

 コハルは元々高かった身体能力がさらに高くなり、単純な力比べなら佑吾に勝り、ライルに比肩し得るほどだった。さらにがむしゃらに拳を奮っていた頃とは変わって、ライルから教わった格闘術の基礎も身に付けた。

 サチは村にあった数冊の魔道書を読破し、魔法の基礎的な理論を完全に理解した。さらに行商人から購入した新たな魔導書で勉強を重ね、新しい魔法を習得していった。


 そして、洞窟で赤巨人レッドエノルマスに苦戦して以降、佑吾、コハル、サチは三人でチームを組んで、大森林へ大型の魔物を討伐しに行くようになった。

 この目的は、三人のチームによる戦闘に慣れさせることにある。

 赤巨人レッドエノルマスと戦ったときは、三人がそれぞればらばらに攻撃していたため、チームである利点を活かせていなかった。

 それをライルから指摘されたため、チームワークを鍛えることにしたのだ。


 何度も戦闘を繰り返していくうちに、佑吾たちは戦闘時における各々のチーム内での役割を理解していった。

 佑吾の役割は、遊撃だ。

 全体の状況を把握しつつ、隙を見て攻撃、味方のサポート、敵の注意を引くといった、状況に応じて様々な仕事をする役割だ。

 コハルの役割は、前衛だ。

 味方の一番前に立って敵と向かい合い、敵の攻撃を一手に引きつけながらも、果敢に攻撃も行う役割だ。

 最後のサチの役割は、後衛だ。

 魔法によって攻撃を行いつつ、周囲の状況を把握して味方に伝える役割だ。


 各自の役割を自覚し始めてからは、戦闘が驚くほど安全に進むようになった。

 チームワークの訓練をする前は、アフタル村の周囲に生息する弱い魔物との戦いですら、危険を感じる場面が多々あった。

 しかし訓練を繰り返していくうちに、そういった危険な場面は徐々に減っていき、かすり傷一つ負うことなく戦闘が終わることが多くなった。

 佑吾たちは、チームによる戦闘の大事さを痛感した。


  ◇


 洞窟で保護した少女──エルミナは、彼女の希望もあって今は佑吾たちと一緒に暮らしている。

 アフタル村に来た当初は、人見知りなのか非常に口数が少なく、佑吾たちとも中々話そうとしなかった。しかし、優しく接してくれる村の皆に触れていくうちに、年頃の少女らしい活発さを少しずつ得ていった。

 明るくて優しく、可愛らしいエルミナはたちまち村のマスコットとなっていった。

 エルミナの人気の理由は、もう一つある。

 それは、エルミナが持つ不思議な力だ。佑吾やライルが使う<初級治癒キュアル>とは異なる、未知の治癒の力だった。

 この力が発現してからは、エルミナは怪我や病気に苦しむ村の人々の治療を始めた。


 エルミナがこの不思議な治癒の力に目覚めたのにはきっかけがあった。話は二ヶ月ほど前に遡る──

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