第8話 ライルの相談

 佑吾たちがアフタル村で暮らし始めてから八ヶ月ほど過ぎた頃、佑吾は薬草採取を終えて、自分の家に帰ってきた。


「ただいまー」

「おかえんなさい」

「おう、戻ったか」


 少し素っ気ない少女の声と、低く優しげな男の声が佑吾を迎えてくれた。

 前者は台所で料理をしているサチの声だが、後者は普段この家に居ない人の声だった。


「ライルさん? うちに来るなんて、どうしたんですか?」

「ああ、お前さんにちょっと相談があってな」

「何かあったんですか?」


 ライルが神妙な面持ちでそう告げる。その雰囲気に、自然と佑吾の表情も固くなった。

 佑吾は背負っていた薬草入れの籠を手早く下ろして、ライルの向かいに座って、そう問いかけた。


「ああ、少々厄介ごとが起きてな……大森林の中で洞窟が発見された。調べたところ、魔物が巣を形成している痕跡があった」


 ライルの言葉に、佑吾が顔をしかめる。確かに、それは厄介ごとだった。

 魔物も、人間や動物と同じように繁殖を行い、そして個体数が増え過ぎると、食料を求めて町や村に群れを為して襲撃に来ることがあるそうだ。

 それを防ぐために、アフタル村では定期的に森を巡回して、魔物を見つけ次第討伐するようにしているのだが、まれに人間に見つからないように、洞窟などに潜んで繁殖を行って巣を形成することがある。

 今回は、そのまれな事態が起きてしまったということだ。


「洞窟はどこにあったんですか?」

「大森林の奥、あの一番でかい大樹の近く岩山だ」


 これはまたツイてない、と佑吾は心の中で嘆息した。

 村で大森林の巡回を担当している人は、佑吾とライルを含めて5人しかいない。更にその五人は他の仕事も抱えている。

 何より致命的な理由が、大森林の広大さだ。

 大森林の全てを、たったの五人で定期的に満遍なく探索するのは不可能なのだ。そのため、普段は村に近い場所までしか巡回せず、村から離れたところは月に一回しか巡回を行わないのだ。

 そしてライルが言った一番でかい大樹というのも、その月に一回しか巡回を行わない、村から離れた場所にあるのだった。


「先月の巡回時に、洞窟があるのを見落としてしまったんでしょうか?」

「いや、その洞窟は巡回ルートを通れば目に入る位置にあった。恐らくだが、その洞窟は昔からあったんだろう。今までは洞窟の入口が落石などで防がれていて発見できず、少し前の大雨でその落石の一部が崩れて入り口が見えるようになったんだと思う」


 洞窟の入り口に大小様々な石が散らばっていたしな、とライルは続けた。


「ライルさんの言う通りその洞窟が昔からあったんなら、洞窟内には大量の魔物がいるんじゃあ……!?」

「いや、アフタル村周辺や大森林の中に、土を掘る習性や知識を持つ魔物は見たことがない。だから、魔物が住み着いたのは大雨で入り口が見えるようになってからだろう。洞窟内で見つけた魔物の痕跡も、そう多くはなかったしな」


 その言葉を聞いて、佑吾は安堵する。頭の中で、洞窟内で無数の魔物が跳梁跋扈している想像が浮かんでいたからだ。


「ん? 数が少ないんでしたら、ライルさん一人でも大丈夫じゃないんですか?」

「そうもいかなくてな……実はそれが相談内容でもあるんだ」


 ライルが顔の前で手を組み、真剣な口調で話し出す。


「その洞窟だが内部構造が複雑そうでな、俺一人では手が足りん。出来れば魔物は洞窟内で全て掃討したいから、魔物と戦えるやつらで班を数個形成して洞窟内を探索し、一匹も逃す事なく仕留めたい。それでお前さんたちにも、その探索班に加わってほしい、というのが相談内容だ」


 そう言って話し終えたライルは、湯のみのお茶をひと啜りした。

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