第7話 アフタル村での生活

 アフタル村で生活をしながら、佑吾はこの世界の知識を身につけていった。

 佑吾たちがこの世界を学びやすくするために、ライルは佑吾たちを村長に初めて会わせた時、「佑吾たちは記憶喪失らしい」とあらかじめ村長に嘘をついてくれた。

 これは、佑吾たちがこの世界の常識を知らないことの言い訳にするために、村に向かう途中、ライルと話し合って考えた嘘だ。

 そのため、アフタル村の住人からすれば当たり前のことでも、佑吾たちは記憶喪失を言い訳に質問することができるという訳だ。


 ただ、アフタル村の住人たちは非常に優しく、「記憶を失ってるなんて大変だねぇ」と事あるごとに佑吾たちに親切にしてくれる。だから、佑吾たちはその度に、チクチクと嘘をついてしまっている罪悪感を感じていた。

 その埋め合わせという訳ではないが、その親切にしてくれる村人たちへの恩返しとして、佑吾たちは村での仕事に精を出した。


 佑吾の主な仕事は、畑仕事、狩猟、薬草採取、森の巡回だ。

 畑仕事は村人の作業を手伝い、その他の仕事は、ライルに付いて行って教えてもらいながら作業した。

 畑仕事では、日本では見たこともない未知の作物の特徴を覚えるのは大変だったが、立派に育った作物を収穫するのと、それを使った村の美味しい料理の数々は、佑吾たちを非常に楽しませてくれた。


 一番大変だったのは、ライルの手伝いだった。

 その理由は、ライルの仕事は全て森の中で行われることにある。森の中の仕事では、佑吾たちがこの世界に来て最初に遭遇した黒猪ダグボアのような魔物に遭遇することが多々あった。

 最初はライルが弓で野生動物や魔物を倒してくれて、その生き物の習性、生息域、更には解体方法や、売ったり、道具に加工できたりする部位などの細かな情報を佑吾に教えてくれた。

 またそれと並行して、ライルは佑吾に簡単な弓の使い方と剣の使い方を教えてくれた。弓道も剣道もやったことがない佑吾にとって、それらの扱い方を覚えるのは大変だったが、ライルの指導のおかげで素人なりに扱えるレベルにはなった。

 佑吾がある程度の技術を身につけた後は、ライル立会いのもと、佑吾が弓を使ってまず野生動物を狩り、ライルから指導を受けながら佑吾が解体することになった。

 最初は、血の匂いや臓物の感触に気分を悪くして吐きそうになっていた佑吾だが、回数を重ねていく事で何とか慣れていった。


 野生動物の次は、非常に弱い魔物──と言っても平和な現代日本で、荒事をろくに経験した事が無い佑吾にとっては非常に怖い存在だった──と繰り返し戦った。

 最初のうちは、怖くてへっぴり腰だったせいで、せっかくライルに教えてもらった佑吾の剣の攻撃は当たらないし、 魔物の攻撃で軽傷を負うことが多々あった。しかし、ライルが根気よく丁寧に指導してくれたお陰で、最後にはその魔物を危なげなく倒せるようになった。

 そうしたら今度は、その魔物よりも少し強い別の魔物と戦うことを繰り返して、佑吾は戦闘技術を身につけていった。

 アフタル村で暮らし始めてから半年、ライルの厳しい指導のもと、ようやく佑吾は大森林を一人で散策して良いとライルからお墨付きを貰った。


 一方で、コハルとサチもまた、それぞれの仕事に従事していた。

 コハルは村の誰よりも力持ちであることが判明したため、建材や薪を森から集めたり、村の工事、畑仕事などの力作業を頑張っていた。

 コハルの素直で明るい性格は村の皆から愛され、笑顔で自分の仕事を頑張るコハルは村のムードメーカーになりつつあった。


 サチは、佑吾やコハルのような力仕事は出来なかった。

 しかし、ライルから魔力を持っているようだから魔法に向いているんじゃないかと言われて、魔法の勉強に打ち込んだ。

 更にサチは魔法の勉強だけでなく、この世界の文字や文法も習った。

 この世界の識字率は現代日本みたいにほぼ百パーセントとはいかないらしいが、それでも村には、文字を読み書きできる大人が半数程度いた。

 どうやら、ライルが村人たちに文字の読み書きを教えたらしい。

 サチは、できる範囲で村人の手伝いをしながら、ライルから文字を学んでいった。


 最初は、佑吾も一緒に習おうかと考えていた。

 しかし、サチから文字はこの世界での暮らしが安定し始めたら自分が教えるから、今は仕事を覚えるのに専念してほしい、と言われたので、それに従っている。

 ちなみに、コハルもサチのペース程ではないが文字を習っているが、サチほど勉強が得意ではないようで、覚えるのに難儀しているようだった。

 また、サチは文字の勉強の他にも、佑吾たちが外で働いている間に料理、洗濯、掃除などの家事を率先して担ってくれている。

 佑吾たちの異世界生活は、それぞれが自分の役割を担うことで成り立っていた。

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