第3話 目覚めた先で
まぶたの上から光を感じて、佑吾は目を開けた。光の眩しさに驚いて一瞬目を細め、目が慣れるに連れて再びゆっくりと目を開けていった。
「……朝?」
目を開けると、視線の先で太陽から暖かい光が目一杯降り注いでいた。日光を肌で感じながら、徐々に佑吾のぼんやりとした頭の中がはっきりとしていく。
事故の衝撃、コハルとサチの鳴き声、そして──自分の命が失われていった記憶が、次々に脳内でフラッシュバックしていった。
「そうだ、俺は事故で……一体何が……」
とりあえず体を起こそうとして、佑吾は自分の両脇に、何かがしがみ付いているのに気づいた。佑吾は体を起こすのやめて、目だけを動かしてそのしがみ付いたものを確認した。そして、驚きのあまりにこぼれんばかりに目を見開いた。
なぜなら、佑吾にしがみついていたのは2人の女の子で、しかも2人とも全裸だったからだ。
「なっ……!?」
ボッと佑吾の顔が一気に真っ赤に染まり、状況を整理しようとしていた頭も,
一瞬でショートしてしまった。
佑吾の左脇にしがみついていたのは、腰まで届くほど長く、雪のように真っ白な髪を持つ美しい少女だ。
反対の右脇にしがみついている少女は、さっきの白い髪の少女とは真逆にカラスの羽のように真っ黒な髪で、毛先が肩のあたりに無造作にかかっている。この黒髪の少女も、非常に見目麗しい。
そして何よりも驚くべきは、少女たちの頭にはそれぞれ彼女たちの髪と同じ色の犬や猫のような動物の耳があり、腰のあたりからは動物の尻尾が生えていることだった。
(だ、誰だこの子たちは!? 何で俺に掴まって……いやそれより俺はどうすれば…!?)
佑吾はどうすればいいか分からず、とりあえず少女たちから離れようと、もぞもぞと体を動かした。
しかし、少女たちが起きるのではないかと思い直し、体を動かそうとするのをやめたが、でもこのままの状態でいる方がまずいんじゃ––––と考えて、再び体を動かそうとするが、やはり少女を起きるのではと思い直してやめた。
「うぅん……」
そうやって佑吾が動くべきかどうか四苦八苦しているうちに、白髪の少女が目を覚ましたようだった。眠たげな目をしながら体を起こし、首を右に左にとゆっくり振る。どうやら、状況を確認しているようだった。
そして、白髪の少女の視線が、未だ寝そべったままの佑吾とパチリと合った。
白髪の少女はしばらくじぃーと佑吾を見て数回まばたきした後、ハッと何かに気づいたような表情を浮かべた。その表情に従って寝ぼけて細められた目はどんどん開かれていって、最後にはパァッと花開くように無邪気な笑顔になった。
「佑吾っ!!」
そして、佑吾の首筋に思い切り抱きついてきた。
「ぐえっ!?」
首に衝撃を受けた佑吾の喉から、変な声が出た。それにもかかわらず白髪の少女は、ぎゅーと力強く抱きついてくる。
佑吾と白髪の少女がドタバタしているうちに、もう一人の黒髪の少女も、「むうぅ」とうめき声を上げながら目を覚ましたようだ。黒髪の少女は眠そうに目を擦りながら、佑吾と白髪の少女の姿を確認すると、どこか安心したように微笑んだ。そして、白髪の少女がしたように周囲の状況を確認し、最後に目線を自分の体に戻すと、驚きに目を見張って頰を赤くした。
「こっち見ないで!?」
黒髪の少女は両手で素早く体を隠し、佑吾から素早く距離を取ってから、佑吾をキッと力強く睨んだ。顔はリンゴのように真っ赤になり、恥ずかしさのあまりに、目にはうっすらと涙が滲んでいた。
少女の言葉の意味を理解した佑吾は「ご、ごめん!?」と謝り、両手で目を隠しながら、黒髪の少女と反対の方向を向こうとする。しかし、白髪の少女が首にしがみついているせいで、上手く体を動かせない。
「コハル、あなたも裸なんだから隠しなさい! それと、佑吾が苦しそうだから離れなさい!」
「わ、本当だ。ごめんね佑吾」
黒髪の少女に怒られた白髪の少女は、えへへと恥ずかしそうに照れ笑いしながら佑吾から離れて、そっと胸などを両手で隠した。
自由になった佑吾は、慌てて起き上がって少女たちと反対の方を向く。
しばらく沈黙が続いた。
「……ねえ」
口火を切ったのは、黒髪の少女だった。
「服、貸してくんない?」
「あ、ああそうだね。気がつかなくて、ごめん」
佑吾は着ていた茶色のコートと黒のセーターを脱いで、顔を少女たちの方に向けないように、自分の後ろに置いた。
脱いで気づいたが、気温が高いのか佑吾はうっすらと汗をかいていた。事故に遭ったのは十一月の終わりで、朝からコート無しでは耐えがたい寒さだった。なのに今は、佑吾の体感的には夏のような暑さだ。この違いは何なのだろうか。
佑吾が考え事をしているうちに、佑吾のすぐ後ろで衣擦れの音がして、しばらくして止んだ。
「もう、こっちを向いて大丈夫だよー」
白髪の少女の朗らかな声がして、佑吾が振り向く。佑吾から見て左側に茶色のコートを羽織った白髪の少女が、右側に黒のセーターを着た黒髪の少女が座っていた。
服を着た感じを見ると、白髪の少女は佑吾より少し小さいくらいの背丈で、黒髪の少女は、白髪の少女よりも更に背丈が小さいようだ。事実、佑吾が貸したセーターの裾は、黒髪の少女の太腿くらいの位置にあった。
服を着たとはいえ、あくまで上着を羽織っただけのようなものだ。太ももは露わになっていて、少女たちの瑞々しい肌が佑吾の目に飛び込む。
それを努めて見ないようにしながら、佑吾が尋ねる。
「え、ええと、とりあえず君たちは誰かな?」
その言葉を聞いた二人の少女は、驚きを顔に浮かべる。
「佑吾、私たちのこと忘れちゃったの?」
「大丈夫よコハル、多分私たちの姿が変わっちゃったから、私たちが誰か分からなくなっているだけよ」
「そうなの? サチ」
「コハル? サチ?」
それが彼女たちの名前なのだろうか。でもその名前は……それに姿が変わっているって……。
「佑吾」
佑吾が考え込んでいると、サチと呼ばれた黒髪の少女から呼びかけられる。
「すぐには信じられないと思うけど聞いて。私の名前はサチ、そっちの白い子はコハル。私たちはあなたと一緒に暮らしていたわ。今と姿形は違うけれどね」
黒髪の少女の言葉に佑吾は驚く。ただ心の隅では、やっぱりかという納得した感情もあった。ただそれでも、はいそうですかとすぐには彼女の言葉を呑み込めなかった。
「それはつまり、君達は俺と一緒に暮らしてた犬のコハルと猫のサチっていうこと?」
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