第2話鉛色の空

(ど.....どうして.....身体が全く言う事を効かない)


意識を持った瞬間、私は自らの身体の自由が完全に奪われていることに気づいた。


その刹那。


激しい痛みが身体全身を駆け抜けた。


「痛っ.....身体中が......痛い.....」


それは今まで体験したことない痛みで、大きな声でそれを表現する事さえ出来なかった。


そして私は何か液体が顔の半分浸かっている事にもようやく気がついた。


私の血だ。血だまりの中に私はいるのだ。


たが、どうもうまくこの異様な状況についての記憶が都合よく頭から抜けている。


立って状況を確認すればいいものの、激しい痛みの所為でそれすらままならない。


「お.....お願いだから....動い......て。」


私は強く祈った。


すると、奇跡的に両腕の感覚が戻ってきて、弱々しいながらも少しずつ上体を起こした。


漸く両目で辺りを見渡せる位置にまで持っていった。


私は自分の行動に後悔した。


そこには慣れ親しんだ街の光景とは完全に違っていた。


辺りには鮮血の血溜まりがポツポツと出来ており、私同様にその中には私の友人達や人々が沈んでいた。


返り血により見慣れた建物の壁は血塗られ、何人もの血から構成された強烈な匂いに吐き気を催してしまった。


「これは.....一体....?」


この異質な世界に私はより一層戸惑いの中に入ってしまった。


すると背後から聞き覚えのある声がした。


「マリアーーーー!!!!」


「マル....チェ....ナ.....??」


私の親友、マルチェナが私の名前を叫んでいた。しかもどんどん多くなっていく。


普段お淑やかなマルチェナからは全く想像ができない悲痛な叫び。


私はなんと呼応しようと、ひと段階身体を起こそうとした、するといつのまにか人々の亡骸の中に一人の少女が立っていた。


私は全身に恐怖を感じた。


この状況もさることながら、その少女は優雅な黒色を基調にしたドレスコードで身を包み、その長い明るい茶髪が彼女の背中まで伸びていた。


顔は年相応の可愛さを逸脱した妖艶な顔立ちで、瞳は心なしか紅色をしていた。


その雰囲気からは同じような年齢には到底思えなかった。


加えて、手には鋭利な刃物を携帯し、刃先から滴る鮮血をその艶やかな唇で飲んでいた。


「んっ.......この子の血は少し微妙ね。若い子だったからさぞかし甘美な味だと期待したんだけど...期待はずれね。」


人の命に対して果汁を飲むように表現をした彼女のその言葉に激しい怒りと悪寒を感じた。


そう感じた瞬間、彼女とばったり、目が合ってしまった。


「あら....まぁ〜、まだ息がある子がいたのね。それにとっても可愛らしい顔立ちだこと。あの子の血液は一体どんな味がするのかしら。ウフフ.....」


そう呟きながら右手に持った短刀の刃先を指で撫でながら、ゆっくりとした足取りで向かってきた。


「やめてぇぇーーー!! マリア!! 早く逃げてぇぇぇーー!!」


マルチェナもかなり近づいていたが、その少女の方が早かった。


まだ私は全身を動かなせない。


もう目の前には彼女が立っていて、その短刀を私に振り下ろさんと、見下ろしていた。


私は奇跡を願い、普段から持ち歩いている十字架をポケットからなんとか取り出し、祈っていた。


(嫌だ....まだ死にたくないよ.....神様.....お願い.....タスケテ.....)


「あらあら....貴女、この状況でも祈りを捧げるなんて、本当に清らかな心を持っているのね、おまけに心配してくれる友人まで。あぁぁ、本当に憎たらしいこと極まりないわ。貴女の外面と内面のその美しさが!清楚が!憎くて、憎くて仕方ないわ!!!......まぁ、でも安心なさい。貴女はその美しさのまま大好きな神様の所に行けるのよ。私に感謝なさい...ウフフ.......だから早く....、」


「ーーーー死ね。」


「マリアァァァァァァァァ!!!!」


鉛色の空の下、最期はマルチェナの言葉が街中に響いていた。







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