【幻の共同開発機、紫風②】

そこで上層部は五航戦である翔鶴しょうかく瑞鶴ずいかくに、軽空母瑞鳳けいくうぼずいほうを中心とした機動部隊と、一等輸送艦六隻、二等輸送艦十八隻による強襲揚陸部隊、護衛のための駆逐艦十隻を向かわせた


空母の艦載機による先制攻撃を敵飛行場に仕掛け、その隙に陸軍の戦車隊が油田施設を制圧するという至って普通の戦術だった


油田施設を制圧した後は、少しの戦力を油田施設に残して敵の飛行場に向かう予定だ


飛行場さえ制圧してしまえばあとはどうにでもなる




作戦はすぐに決行されたが、この作戦には致命的な欠点があった


道中でアメリカ海軍の攻撃が無い事を前提としていたのだ


それどころか、まともな偵察すらしていないので、敵がどれぐらいの戦力なのかさえ把握して無かったのだ


しかし幸いにも目的地付近にアメリカ海軍水上艦艇はおらず、潜水艦のみだけだった


しかし、この潜水艦が後に機動部隊を絶望のどん底に叩き落とすことは誰も知る余地は無かった


翔鶴の艦長である井上中将は、上層部に何度か護衛艦艇を増やす事と事前の強行偵察を申し立てたが、聞き入れられなかった


そして、その事が祟ったのか目的地に向かって航行中に敵潜水艦による奇襲を受け、二等輸送艦二隻が沈められた


この二隻には陸戦隊りくせんたい用の重火器が搭載されており、後にアメリカ軍に対して火力不足に陥る事になる



潜水艦はなんとか撃沈したが、待ち受ける脅威はこれだけでは無かった


沈められた潜水艦が飛行場に連絡をしており、飛行場からドーントレス急降下爆撃機の編隊が向かってきていたのだ


この事態にいち早く気が付いたのは翔鶴の護衛に付いていた駆逐艦雪風くちくかんゆきかぜで、その事をすぐさま翔鶴に伝えた


井上艦長は事態を把握すると、すぐに零戦ぜろせんを迎撃に上がらせたが敵編隊はすぐ手前まで迫ってきていた


それに、敵の戦力がはっきりとして無かった事もあり、想像以上の敵機を前に井上艦長は驚きを隠せなかったと言う



迎撃に上がれたのは、三隻の空母合わせて五四機で、敵機の数は直衛機ちょくえいきが居ないものの、こちらの倍以上で百三十機ほどだった


直衛機が居ない分、落とすのは比較的楽だったが何より数が多過ぎた


こちらの迎撃機から逃れた機体は真っ先に空母目掛けて飛んできた


勿論空母の乗員も、爆弾を落とされまいと必死になって高角砲や対空機銃を撃つのだが、敵機はそれを巧みに避けて向かってくる


やがて敵機から爆弾が切り離され、空母に向かって落ちてくるのだが、どれも至近弾だった


とは言っても、命中するのは時間の問題だろうと思った次の瞬間、後方で轟音が響いた




そう、爆弾が命中したのだ


空高くまで立ち昇った黒煙の下には飛行甲板がひしゃげた瑞鳳の姿があった


爆弾が二発命中したようで、甲板は文字通り火の海と化していた


井上艦長は、それを見てすぐに翔鶴と瑞鶴の攻撃隊の発艦を命じた


理由としては艦載機の爆弾に誘爆しないようにだ



しかし、翔鶴は攻撃隊の発艦を一時断念せざるを得ない状況になってしまった

翔鶴にも爆弾が命中したのだ


艦橋かんきょうに命中した爆弾は、艦の中枢神経である操舵室そうだしつにまで影響を与えたらしく、一時操舵不能になった


爆弾が命中した当時、艦橋にいた井上艦長は奇跡的に無事だったが、同じく艦橋にいた砲術長ほうじゅつちょうを含む32名の尊い命が失われた



艦橋の残骸の一部が甲板を塞いでしまい、約二十分ほど攻撃隊の発艦が遅れてしまった


しかし、発艦した攻撃隊は見事に敵の飛行場を無力化し、爆撃を終えた敵機の帰る場所を無くしたのだ


爆弾が二発命中した瑞鳳は、燃料などに引火し、瞬く間に爆沈。艦長以下461名もの命が海に散った


翔鶴は操舵不能から立ち直り、迎撃に上がった零戦の収容に追われていた




中には帰る母艦を失った瑞鳳の零戦も混じっている


迎撃に上がった零戦の損失は九機、攻撃隊の損失は九七艦攻が六機、九九艦爆が七機と軽微だった


しかし、瑞鳳に搭載されていた九七艦攻と九九艦爆は全て損失している



その後、油田施設を攻撃すべく上陸した陸戦隊は油田施設を制圧し、そのまま敵飛行場までも制圧した


それに対してアメリカ軍の損害は、潜水艦一隻に航空機二百機以上、車両十八両が撃破されている


事実上では日本軍の勝利だが、日本海軍は瑞鳳の他に二等輸送艦八隻、一等輸送艦二隻、駆逐艦一隻を失う損害を被っている


この損失で、後の輸送作戦に支障が出る事は誰の目から見ても分かった


さらには空母翔鶴が小破しょうは、駆逐艦三隻が至近弾しきんだんにより損害し、多数の輸送艦が何かしらの損害を受けていた




こうして双方多大な損害を出したものの、日本軍は油田施設を手に入れたお陰で、ようやく紫風の開発に成功の兆しが見え始めた


高オクタン値の燃料を用意出来た事により、開発陣はとう一型を搭載した紫風の試作機を一号機から三号機まで製作した


プロペラは量産し易さを考慮し、三枚で合意された


足は零戦のものを利用して、風防には零戦と同様の水滴型が採用された


そして、出来上がった試作機は要求通りの性能では無かったが、改良をする事を条件とし、艦上戦闘機【紫風】一一型として正式採用される事になった



改良が必要な点として陸軍と海軍が要求したものは


・最高速600㎞以上

・通信装置の改良(改良されてたが、それでも使い辛かった)

・上昇性能の向上

・落ちきって無い重量をなんとかする事

・防弾装備の改良

・視界をもう少し確保すること

・航続距離の向上



こんな感じに問題点がまだ沢山あったのだ


防弾装備に関しては、主翼や尾翼の防弾は大丈夫だったのだが、ある所の防弾装備が整ってなかったのだ


一応、風防は60mm防弾ガラスで主翼に自動消火装置は搭載されている


それに、操縦席背部には厚さ20mmの防弾板を設置しているが、後に35mm防弾板に変更されている


他には一体どこの防弾装備が足りないのだろうか




答えはすぐに分かった


発動機付近の防弾装備が足りなかったのだ


この燈一型発動機は、比較的小型とは言ったものの、そのまま載せるのには無理があり、泣く泣く発動機周辺の装甲を削って載せたのだ


それでも重量は落ちきって無いし、航空機の心臓とも言える発動機の防弾が疎かになるなど、新たな問題が発生していた訳である


そこで、小田原重工に燈一型の改良を求めた



しかし、そこである問題が発生した


燈一型には致命的な欠点があったのだ


冷却不足に陥ると、発動機が勝手に止まってしまうらしい


こうなると、空中で発動機が息を吹き返すのはほぼ不可能に等しく、墜落してしまう事例が多発した


発動機が止まる理由は、暖まった燃料が逆流してるからなのだが、肝心の原因が不明だった



すでに燈一型を搭載し製造された紫風一一型には、応急処置として緊急用冷却ファンを設置する事でなんとかなった


これで燈一型の改良がますます必要となってきた



まずは、徹底的な小型化が求められた


機体の設計を変える訳にはいかないため、発動機を小さくするしか無かった

小田原重工の苦心の結果、燈一型を一回りほど小型化する事に成功し、馬力は1215馬力と強化されている


これをとう二型として、紫風一一型を改良した紫風一二型に搭載する事が決定した


発動機がさらに小型化された事によって、重量が軽くなり航続距離は増え、機動性や上昇性能も若干向上するはずだ


それに、元々操縦性はかなり良い方であるため、操縦士の技量に関わらずともアメリカ軍機と渡り合えると言われている


防弾面に関しては、余裕が出来たので、発動機周辺の装甲を増やすのと同時に、プロペラの表面積を変更した


これは空気抵抗を少しでも減らすためだ


視界の件については、キャノピーの形を少し変更する事によって、問題無かった

速度に関しても、燈一型を搭載した試作一号機では時速591㎞しか出せなかったが、燈二型を搭載した試作四号機では時速624㎞を叩き出した


ただ、燈二型にも欠点があり、燈一型に比べて部品数が増えたために量産性が下がり、整備にも時間が掛かったのだ



しかし、それ以外は非常に優秀な機体に出来上がった為、燈二型を搭載したものを紫風一二型として量産する事が決定した


その他の派生型としては、陸上のみで運用するために、着艦ちゃっかんフックなどを廃止した紫風二一型も存在する




次に共同で着手したのは、陸上攻撃機で、一式陸攻の後継機として開発されることになった


名前は鯨龍げいりゅうと言い、開発はかなり順調だが、これはまだ別の機会に…



こうして、ようやく零戦の後継機である紫風は大空に飛び立ったのだ


海軍と陸軍が最初から最後まで共同で製作した初の機体であったが、予想以上の成果を出すことが出来たため、日本軍は共同での開発を進める事になる



果たしてこれが吉と出るのか凶と出るのかは誰にも分からない

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