同じ空は二度と飛べない

艦本式

幻の後継機、紫風

【幻の共同開発機、紫風①】

[194×年某日のブイン基地]



ブイン基地の飛行場には、多数の航空機が配備されている


旧式の零戦ぜろせん二一型に改良型の零戦ぜろせん五二型まで、さらには少数ながらも四式戦よんしきせん疾風はやてなど様々な機種が並んでいる様子は、まるで航空機の博物館のようだ


だが、今はこれらをのんびりと見物出来るほど平和では無い


我々大日本帝国は米国に宣戦布告をし、戦っている最中なのだ


米国はその圧倒的物量と性能の高さで日本軍を圧倒していた




しかし勿論、日本軍もやられっぱなしとはいかない


開戦当初は無敵を誇った零式艦上戦闘機ぜろしきかんじょうせんとうき、日本海軍のお得意の夜戦やせんなどによって、最初は破竹の勢いであっという間に日本軍の勢力は広がっていった




だが、日本軍が劣勢に立たされるのもあっという間だった


米国は零戦の弱点が露見すると、対策を取った上に零戦なんかよりも高性能な機体を無限とも言える数を配備した


そうしてる内に、ミッドウェー海戦で日本海軍の主力であった空母四隻を失い、日本は一気に追い込まれていった




しかし日本軍はしぶとい


いち早く航空機の重要性に気が付いた上層部は、古臭い大鑑巨砲主義たいかんきょほうしゅぎを捨てて、秘密裏に建造されていた超大型戦艦三隻を空母に転換する事を決定した


船体はほぼ完成していたので、格納庫の空間を確保するのと飛行甲板だけが課題だった


それと同時進行で進められていたのは艦載機の開発だ


零戦の後継機開発が中々進まず、結局は零戦を改良して使い続けてきた


艦攻かんこう艦爆かんばくも同じで、艦攻の場合九七艦攻の後継機である天山てんざんでもアメリカ軍には力不足だった


新しく開発されている天山の後継機の流星りゅうせいもまだまだ実戦配備までの道のりは長い


艦爆は開戦当初の主力艦爆、九九艦爆の後継機である彗星すいせいが正式採用されたが、発動機や整備性に難があり、未だに九九艦爆が前線で使われている




これは海軍に限った話では無い


陸軍も同じく、慢性的な後継機開発の遅れが目立った



そこで海軍と陸軍は共同で、陸上でも艦載機としても運用出来る戦闘機と攻撃機、爆撃機を開発する事にした


そうすれば、発動機はつどうきや生産工場に余裕が出来て、陸海軍共通なので整備性も格段に上昇し、稼働率が高くなるなど良い事尽くめだからだ



ただ、開発は困難を極めた


他の機体を開発している人員は、手一杯なので新たに人員を集める事から始まった


しばらくして人員は集まったものの、一から設計をしなければならなかったため開発陣は頭を抱えていた


そこでやむなく、戦闘機は高性能であった三式戦さんしきせん飛燕ひえんの設計図を元に試作のキ200/J8M、正式名称は紫風しふうとなる戦闘機を開発する事になった


飛燕には日本軍で数少ない液冷えきれいエンジンが搭載されていたが、なにより整備が難しく稼働率が低かった


そこで紫風には空冷エンジンを搭載する事で合意した


整備性と生産性を上げるためだ


次に立ちはだかった壁は、海軍と陸軍で紫風に求めたものが違う事だった



海軍の要求は

・軽量かつ重武装

・航続距離は零戦と同等

・格闘性能も零戦と同等

・最高速度は零戦以上

・なるべく小型化

・低速でも扱いやすいこと



一方で陸軍の要求は

・航続距離が長いこと

・重武装かつ防弾装備も充実させること

・新人でも扱いやすい機体

・急降下限界速度の高さ

・高々度性能の高さ

・最高速度の向上



海軍がこの要求をした背景には、空母での運用が理由に挙げられる


零戦は高性能機だが、連合国の機体に比べると速度が遅かった


つまり、零戦とほぼ互角の性能を持って零戦より小型で速い戦闘機を作れとの事だ


小型であればあるほど空母に搭載できる数は増える


低速でも扱いやすい機体を求める理由としては、空母に着艦するときの安定性だ

着艦するときに安定性が無いと、失敗して貴重な艦載機や操縦士を失う可能性がある



陸軍がこの性能を要求した理由としては、陸上攻撃機の航続距離がずば抜けて長く、それに随伴出来る機体がほとんど存在しない事が挙げられる


その頃の陸軍主力攻撃機は一式陸攻いっしきりっこうでそれに随伴していたのはほとんどの場合零戦だった


それに、アメリカ軍が新型の高々度爆撃機と高々度戦闘機の量産体制に入っている情報を既に掴んでいる


つまり、その戦闘機や爆撃機に対抗出来るような戦闘機が必要なのだ


一応、高々度での戦闘を想定した二式戦にしきせん鍾馗しょうきが正式採用されているが、肝心の高々度性能はお世辞にも高いとは言えなかった


こんな感じに運用方法が違ったりするなど、紫風の開発には問題が山積みだった


まず、機体の小型化だが陸軍が要求した急降下限界速度の高さを重視し、強度を考慮してどうしても重量が増えてしまう



そうなると、今度は海軍が要求した軽量化を達成出来ない


さらには速度向上の面でも大馬力の発動機を搭載すると、燃料を食うため航続距離が短くなったり、重量が増えたりとまたしても問題が増える


重武装に関しては、大型爆撃機でさえ致命傷を与える事が出来る30㎜機関砲を4門搭載する事で合意した


しかし、この30㎜機関砲も動作不良や暴発、総弾数が少ないなど問題が多かった


なによりこの機関砲は重量がかなりあって、開発陣の頭を悩ませた




結局、30㎜機関砲から零戦五二型などに使われてる20㎜機関砲に変更された


この20㎜機関砲は総弾数、動作不良に問題が無く、重量も30㎜機関砲に比べると軽量だった


ただ、どうしても威力は落ちてしまい、肝心の高々度爆撃機を撃墜出来るかは微妙だ


そして、難題の一つであった紫風の機体の小型化は、前例として小型化に成功している零戦五二型を元に順調に進んでいた


強度の件は薄ジュラミン鋼とアルミ合金を複合させる事でそれほど重量は増えずに防弾面でも問題無かった



そして機体には最先端の技術が盛り込まれた


自動空戦じどうくうせんフラップ、自動消火装置に最新鋭の通信装置など、今まで疎かになっていた通信装置も改良が施されて搭載された


これは、アメリカ軍が通信装置を使って連携を取っていたからだ


肝心の発動機に関しては、比較的余裕があった水上機メーカーである小田原重工業の完成したばかりの発動機でとう一型を使う事で決定した


馬力は1080馬力で水上偵察機用に開発された事もあり低速での性能や燃料効率も良い方で、計算では高々度でもそれほど性能が落ちないとの事だった


さらには整備性が高く比較的小型など、紫風にうってつけの発動機だった




ただ、良い事尽くめでは無く、高オクタン値の燃料でしか本来の性能が発揮出来ないのだ


その頃の日本は、燃料が無くなるのも時間の問題だと言われていて、高オクタン値の燃料を用意できる程余裕が無かった


そこで、東南アジア方面の油田施設を奪取する作戦が大至急立てられた


この油田施設付近はアメリカ陸軍の飛行場があり、迂闊には近づけなかった


しかしこの油田施設を押さえてしまえば、日本軍は燃料を惜しみ無く使う事が出来る

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