お調子メイドは、魔王様をからかいたい!
@keteru
ブラック職場(邪教的な意味で)
「おお、偉大なる魔の王よ……今、ここに来られたし! これなる乙女を贄に、地上に滅びを齎したまえ……!」
「むー、むー!」
とある屋敷の地下神殿。
黒のローブに身を包んだ男たちが、祭壇に少女を縛り付け、どう見ても怪しい儀式をおっ始めていた。
輝く金髪の、美しい少女だ。年頃は16,7と言ったところ。
しかし今は猿轡をはめられて、必死にジタバタもがいている。
「光栄に思えよ、娘。下働きに過ぎぬお前が、偉大な時代の礎となるのだ……!」
「むっむむむむー!」(ふっざけんなー!)
縛られた少女は、屋敷の新人メイドであった。身寄り無し、住まいなし。そんなところに舞い込んできた、住み込み仕事。
主人はダンディで一見無害そうな男性。これは当たり!と意気込んで雇われてみれば、この様である。
ダンディな主人の裏の顔は、暗黒教団の祭司。本当の意味でブラックな職場だったのだ……!
「おお、来たれ! 参られよ! 魔獣を統べる王、竜をも従える王、ああ、偉大なる魔王よ!」
床に描かれた六芒星が、ぼうっと赤く輝き出す。
男たちの魔力が一斉に注ぎ込まれると、召喚陣はその光を強めていき、遂に——
「ぬおっ!? な、何だここは!?」
ぼわんっと音を立て、一人の青年が突如として出現した。
「おおお、来ませり! 来ませり! 来ませ……り……?」
「なんだ貴様。陰気な顔をしおってからに、余に何か文句でもあるのか?」
「えと……魔、王……?」
「いかにも、魔王である」
えっへん、と胸を張る青年。
なるほど、見た目は魔王である。
頭からニョキニョキッと角が生えてるし、背中にはコウモリみたいな羽が生えてる。
しかしその格好、イチゴ柄のパジャマ姿であった。
顔は悪くないのに、超ダサい。
「余は魔王だが、貴様達は何者だ?」
「わ、我々は暗黒教団の使徒であります! 魔王よ、経典にある通り、うら若い乙女を捧げましょう! どうか、地上に暗黒の時代を齎し下さい……!」
「……暗黒教団? 経典? 何のことだかサッパリだが、ううむ、つまりこれは……斡旋か何かなのか?」
いきなり縛られた少女を差し出され、魔王様、首をひねる。
ひねり続けた挙げ句、首を違えて「いてっ!」と叫んだ。やっぱりダサい。
「斡旋なら、まず何が出来るか聞かねばならぬ。何で猿轡なぞ噛ませてるのだ、話が聞けないでは無いか」
「は?」
少女のもとに歩み寄ると、猿轡をほどき始め、ついでに縛っているロープもブチブチ引き千切る魔王である。
なるほど、この腕力、魔王に相応しいかも知れない。やってることは正義のヒーローっぽいのだが。
「ぷはっ! ま、魔王だが何だか知りませんが! お兄さんっ、こいつら、誘拐犯です! 衛兵呼んで、衛兵——!」
「まあ待て、娘よ。貴様、こいつらに斡旋されているのだろう? 何の仕事が出来るのだ?」
「は? いや、私は単なるメイドですけど……」
「メイド」
初めて聞いた言葉みたいに、オウム返しにする魔王。
その目は大きく見開かれ、少女の顔をじいっと眺めている。
「メイドとは何の仕事だ」
「え、そりゃ家事手伝いですよ。お掃除とか、配膳とか」
「掃除」
再びオウム返しである。
メイド少女は、ちょっとイラッと来てしまった。
「もう、何なんですか! こいつら何とかしてくれたら、掃除でも洗濯でも夜伽でも、何でもやってあげますよ! だから……!」
「よし分かった! 採用!」
「「は?」」
突然の採用宣言。
メイドと(元)雇用主、声がハモる。
「いやあ、貴様ら、いきなり人を呼び出して何様だと思っていたが! 余のニーズをきちんと把握しているではないか!」
「は、はあ……?」
「最近、ポチの抜け毛がひどくてな! リューもポロポロ鱗を落とすし、チロも脱皮を繰り返すしで、苦労していたのだ……! 掃除洗濯、誠に助かる!」
「え、ほえ? は?」
ハイテンションでペット事情を語り出す魔王に、メイドも男も付いていけなくなっていた。
「よし、こうしてはおれん! メイド娘よ、余の城は、今や危機的状況……! 貴様の助けが必要なのだ!」
「へ、ちょ、ちょっと!?」
「では早速、城に来るがよい! それでは、そこの陰気な面子よ、さらば!」
メイドの腕を引っ張って、サクッと転移魔法で消えてしまう魔王。
残された暗黒教団の面子は、呆気にとられていたが、やがて全ての意味を悟る。
悟って、
「ふっざけんなーーーーー!!!!」
月に吠えた。
十数年の時間をかけ、練りに練った魔王召喚。
それがぜんぶ、徒労に終わった瞬間だった。
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