3-7 逃走

Cは巨人達が歩いてきた方向とは別の方向から、高速道路が街の中に吸い込まれていくのを見た。数多の車がその上に集い、渋滞を起こしている。人々は巨人達から逃れようとしているのだ。

 巨人達が見えたのか、一人の男が車から降り、走り始めた。その男の疾走を皮切りに、また一人、また一人と続々と車から人が降り始めた。自らの車を置き去りにして、人々は列を成して必死の形相で走り始めた。

 Cが見渡すと、他の場所でも人々が必死で逃げ始めているのが目に映った。街から外れた民家から出て、車に乗る一家、手に持っていた鞄を放り出して走り出す歩道の女、巨人を目にして逆方向にUターンする自転車の男。巨人から逃げようと、人間達は別々の方向に無秩序に逃げて行く。

 しかし、人間達が走る速度は巨人が歩く速度よりも遥かに遅く、車に乗っている者が辛うじて巨人から逃れられる速度であった。しかし、逃げる者の数が増えるにつれ、道は混雑し人々は揉み合い車は渋滞し、逃走速度は次第に鈍化していった。

 巨人達から少し離れた大きなマンションにおいては住人達の渋滞が生じてマンションの中からすら出られない者達がいた。焦った者の一人が前の女を押してしまい、押された女は地面に倒れてさらに人の流れを鈍化させた。どけという罵声がそこかしこに飛び交い、人々の顔には苦悶と、恐怖の表情が浮かんでいた。

 巨人達が山を乗り越え街の外れにまで差しかかると、そのうちの一人が足元の建物、それはレストランだった、をひっつかんで地面から持ち上げ高速道路に向かって投げつけた。レストランは回転しながら空中を進み、車を吹き飛ばしながら高速道路の上を転がって行った。無人の車達は高速道路上から弾き出されて高架下の道路に叩き付けられると、内部のオイルをまき散らしながらぐしゃぐしゃにひしゃげていった。

 その光景を見た人々は恐怖の色を深め、もっと早く進もうと、前にいる人間を押しのけようとしたり、突き飛ばそうとしたりした。しかし、人々の焦りが深まるにつれ、より一層人の流れは鈍化していった。怒声に罵声、そして悲鳴が空気を満たしていった。

「見るがいい慈悲深き友よ、あれが人間の姿、何千年もの停滞を是とした人間の姿だ。愛が救いなどとどうして言えよう。大いなる不条理の前には、愛など消し飛んでしまうのだ。」

 Cには、もはや祈ることしか出来なかった、大いなる愛の到来を、万能なる愛の到来を。

 Cが反論を言わない事を認めると、巨人達は更なる破壊を開始した。

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