3-5 陸戦

「巨人よ、ならば聞け。お前達が如何にこの世に不条理を運ぼうと、地球は破壊されはしない。我ら人類の大地は何れ甦り、我らの営みもまた甦るだろう。我らには未来がある、お前達に未来はないのだ。一時の不条理を止めよ、諸君らの行いは無意味である、我らの運行は星々の運行と同じく、滅びる事は決してない。決してありはしないのだ。未来こそ救い、未来こそ希望なのだ。」

「小さき者よ、過去の次は未来を語るか。友よ、ならば問う。お前の今眼前で死に行く命は、破壊され行く自然は、果たして未来において救われるのか。見よ。」

 そう言いながら巨人は足を挫き逃げ遅れた一頭の鹿を地の上から摘まみ上げた。彼の鹿は巨人の指の中で戦慄き震えている、その目の奥には恐怖が宿り、身動きする事もできない。巨人は鹿を見つめるCを見遣ると、一息にその鹿を地面に叩きつけた。鹿の肉体は原型を留めることなく、大地の上に紅の鮮血のみを残した。

「このか弱き者は、果たして未来で救われようか。否、彼の者は大地の染みの一つとなったに過ぎぬ。これが不条理だ。これこそが不条理なのだ。おお、あれを見よ。」

 巨人達が三つの山を割り、三つの山を跨いだ先に、陸の軍隊が山沿いに展開していた。戦車、野戦砲、地対艦ミサイル。塹壕を掘って、兵士達も銃を構えている。

「捕まっていろ、弱き者よ。全員この友を守るのだ。」

 そう巨人が言うと、彼の前に別の巨人が立ちはだかった。

 そして、砲撃が始まった。戦車弾、ミサイル、迫撃、ロケットランチャー、自動小銃に対物ライフル、次々と弾薬が装填され、巨人達目掛けて弾幕が張られる。巨人達は一瞬の間に火に包まれた。Cは直ぐ様巨人の手によって覆われ、熱波と爆音の二つにより、人類の抵抗の力を感じていた。

 次々に打ち込まれる銃弾は巨人達の皮膚に食い込み、ミサイルの爆風が巨人の肉を焼いた。

 Cはしかし、この抵抗の意味を見た。即ちそれが全く存在しないことを。即ち、巨人達に全く効果がないことを。

 巨人達は爆風に包まれながら、足元にある岩を拾って、投石を始めた、岩は凄まじい速度で人類を襲い、地面に当たると高い土飛沫を上げた。岩に当たった戦車は平べったく圧縮され、生身の兵士達は跡形もなく消し飛んだ。巨人達は銃弾に当たりながらも岩を拾って投げつけていく。着実に敵戦力は減って行った。

 やがて弾幕が薄れた頃、巨人の一人が敵の集団の中に駆け込み、機甲師団に躍りかかった。戦車は蹴り上げられ、野戦砲は素手で叩き潰され、塹壕にいる兵士達は次々と踏み潰されていった。瞬く間に、陸軍は壊滅状態に陥った。

 それでもなお、残った兵士達は巨人に立ち向かっていった。

 ある兵士は巨人が眼前に迫ろうと、塹壕から出ることなく機関銃を撃ち続け、巨人に潰された。またある兵士は手榴弾のピンを抜き、巨人の足元へと突っ込んでいった。また、ある戦車は弾薬を撃ち尽くした上で、巨人に向かって体当たりした。

 しかし、それらの抵抗は全て無駄であった。残り数少ない兵力に向かって巨人達は石を投げ、彼らを踏みつけにし、素手で摘まみ上げては握り潰していった。

 陸軍は全滅した。こうして陸海空全ての軍事力がこの国から消滅した。

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