3-4 未来 

 十二の巨人と一人の人間は町を抜け、山々の前に来た。しかし、巨人に比べれば、小さき山など象の前の人に同じ。巨人が力を込め、山肌を叩くと、一つの山は二つの岡となり、新たな道が出来た。

 Cは沸き立つ砂塵にむせ返りながら、世界を見ていた。巨人は木々を薙ぎながら、山の獣達を追い払った。鳥たちは忙しなく飛び立ち、鹿、熊、兎等の四足の獣達は巨人から少しで離れようと駆けていった。

 逃げ遅れた獣は容赦なく踏み潰され、巨人の足裏に僅かばかりの赤き斑点を残すのみである。Cは彼の獣達の悲鳴を聞いた。

不条理は果てなく世界を覆い、人の世を越え、今ここに獣の世にも下ったのだ。逃れる術はないのか。

それでもなお!何処ぞかに救いはある。ある筈なのだ。神が救いの道を残さぬという不条理、それだけはありはしないのだ。この世は神が作り給うた完全なる構築物。常に不条理の裏には救いの道が残されている筈なのだ。

 Cが背後を振り返ると、そこには瓦礫となった故郷があり、薙ぎ倒され破壊された自然があった。Cは思念した。この背後の道は何れ甦る。そう、何れ甦るのだ。永劫の時を経ようと山々は再度立ち上がり、人の営みは再び町を成すであろう。救いは未来にあり、未来とは救いなのだ。Cの瞼の裏に、美しく甦った森の姿が浮かんだ。逃げまどう獣達は住処に帰り、自らの生活を取り戻した。草木は萌え、花々は栄え、虫達が踊っている。復活、不条理は永遠に非ず、この世に善は帰還する。未来、未来こそが救済。未来だ。

 再びCの下半身に足が戻った。これだ。これこそが救い。我は再び二足で立ち、あの恋しき人の下へ馳せるだろう。再び、再び、我が肉体に希望が宿るのだ、未来においては! 麗しき未来、栄光の未来。我が下に未来を置くのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る