3-3 回帰
「聞け、小さき者よ。お前の過去はもう消え去った。今のお前に残されたものは何だ。その醜き体。自立する事すら叶わぬ無残な姿だけではないか。不条理の痕だけがお前の肉体に残り、幸福の証はその身のどこにも存在しない。」
「それでもなお、未だ我が心に、我が過去は残っている。」
「否、それも直潰えよう。過去とて現実の存在の先にある。過去もまた現在なり。過去もまた不条理によって破壊されるのだ。」
Cの脳裏に、過去がはためいた。それは幸福なる過去に非ず、哀しみの過去。未来永劫Cを苦しめる過去であった。幸福なる過去が永遠であるならば、不幸なる過去も永遠であった。Cは目の前が真っ暗になった。過去は無限にCを傷付けた。過去からの記憶、Cの両足は奪われた。あの母の眼差し、父の眼差し、兄弟たちの眼差し、そして恋人の、全てが曇り、哀しみと、絶望と、諦観を孕んだあの眼差し。あらゆる希望は失われ、幽閉の憂き目に遭いし我が肉体、救いの道は絶たれたこの肉体。苦渋を如何に耐えようと、あの痛みを耐えようと、決して戻らぬこの両足、その存在よ。過去もまた哀しみへの道、救済の道ではなかったのだ。
「巨人よ、巨人よ、ならばお前たちは何処へ行くのだ。」
「知れた事、我らはこの世に不条理の道を示すのだ。不条理こそ我らが墓碑銘。不条理こそ我らの運命。」
横から別の巨人が口を挟んだ。
「我が先導者よ。未だ何故この者を連れ行くのだ。最早この者は過去の残滓、我らの道に何の益ももたらしはせぬ。」
「友よ。我らの道は不条理の道、悪意と選別の道ではない。この小さき者を捨てるという事は、即ち我らが選ぶという事。神から許された行いは破壊のみなのだ。」
口を挟んだ巨人が頭を下げた。
「我が先導者よ、すまぬ。我らの道は不条理の道。深く心得この先を進むとしよう。さあ、進んでくれ。」
先導者は頷き再び歩き始めた。
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