3-1 侵攻

 Cの遥か眼下に、自らの故郷が広がっている。やがて廃墟となるであろう故郷が。

 巨人の人数は十二人であった。それぞれの高さも、その表情も異なったものである。共通しているのは全員が醜い容貌であるという事だ。

 巨人達はCの故郷を踏みつけにしながら歩いて行った。その足元で家々が押し潰され、ガラクタとなっていく。時折気紛れからだろう、巨人は大地を蹴り上げた。その運動によってもたらされる破壊が、人間達の営みを虫ケラのように吹き飛ばした。

「見るがいい小さき者よ。お前の歴史が消えていく様を。人間の営みは、かくの如き不条理によって容易く破壊されるのだ。」

 破壊される故郷。破壊される自らの過去。しかし、Cは自らを回想した。自らの人生を。自らの営みを。辺りに潮の匂いが立ち込め、Cを包み込んだ。過去の記憶、優しき家族の記憶。甘き恋人の記憶。あらゆる可能性が四肢に籠り、未来を信じていた頃。潮の匂いは光に変わり、脳髄が愛で満たされた。幸福は過去にあった。

「破壊者よ、聞け。幸福は過去にある。故にそれは破壊されはしない。救済は過去にある。お前の行為は無意味である。」

 巨人はCが通っていた小学校を踏み潰した。

「おお我が友よ。何故そのように過去を見る。過去を見る目は果たして永遠だろうか。見よ、この破壊を、見よこの不条理を。それは救済に非ず。幻覚だ。一時の迷いだ。過去は過去にしかない。」

 巨人が力を込め大地を蹴りつけると、衝撃波が小さな家々を薙ぎ倒した。

「混乱こそが人の人生。暴力こそが人の本質。愛はその前にあって余りに脆く、余りに儚い。我らに救済は訪れぬ。強き者も弱き者も皆一様にして無力。破壊と暴力は絶え間なく訪れる。人生は常にうつろいゆく。その様に一喜一憂する等無意味な事よ。」

 Cは再び自らを回想した。突如として自らを襲った悲劇。幾代にも繰り返されてきた悲劇の一つ。自らはその二足を失った。そして人々は己を見放した。可能性を持たぬ自分を。過ぎ去った幸福。過ぎ去った愛。幾度も繰り返されてきた裏切りだ。幾人かの叫び声が聞こえる。巨人に踏み潰され、死にゆく者達の声だ。おお、絶え間なく続く弱き者達の悲鳴。不条理に押し潰される人々。彼らは救済されぬ。愛は彼らに訪れなかったのか。誰もが彼らを見放したのか。

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