2-1 集結

 事故においてその二足を失った小さな港町に住むCは、その家族から足手纏いと目され家に捨て置かれた。家族達は巨人から逃げるため、どこに行ったのやら分からない。

 テレビニュースは巨人達が陸に向かって、大波を起こしながら行進している様子を伝えていた。彼らの進路にあった船舶は、全て大波に耐えきれずに転覆し、海の藻屑となったようである。

 陸に到着するまで凡そ一時間。最早逃げ切れぬ。そう確信したCは自分の義足を頼りにして車椅子に乗り、外に出た。

 玄関を開いたCの頭上に、陽光が降り注いだ。とてもよい天気だった。ゆっくりと車輪を回して家を後にした。

 Cは自らが生まれ育った町を見ながら、舗装された道路を進んでいった。小学校の頃よく遊んだ旧友の家。淡い恋を抱き、しかし引っ越しによって引き裂かれた相手が過去に住んでいた家。悪童達と通い詰めた駄菓子屋。家族の使いで行くと今でも必ずおまけをつけてくれる魚屋。高校に行くため三年間使い続けた駅のホーム。小学校、中学校……。しかし、今は誰もいない。巨人達の到来により、住人達は全員逃げだしたようだ。

 時折、頭上を通る軍のヘリコプターが避難するよう町に向かって録音を流していた。だがその声は、Cにとってあまりに虚しく響いた。残っているのは覚悟を決めた老人達だろう。動ける者は当の昔に逃げ去っている。Cの家族達のように。

 やがてCは埠頭に辿り着いた。遠い景色の中に、海上に展開する船団が見えた。海軍だ。

 埠頭には巨人達が起こした波が押し寄せていた。Cはずぶ濡れになりながら、埠頭の端にある灯台に向かった。

 この灯台はこの港町の誇りであるという。高く、そして近代化されたものであった。エレベーターまでついている。

 Cはやっとのことでこの灯台に辿り着き、中に入るとエレベーターを使って屋上に向かった。

 大波は灯台までは掛からず、Cは少なからず安心を覚えた。しかし、吹きすさぶ海風がCの体を冷やしていった。

 遠く、海上では船団に加わっていく新たな船が見えた。軍艦が続々と集結していく。海軍はここで巨人達を仕留めるつもりだろう。

 やがて、地響きが聞こえてきた。Cは、海上に立つ巨大な影を見た。巨人達だ。

 すると、Cの後方から轟音が聞こえてきた。Cが振り返ると、戦闘機の大群がやってきていた。空軍である。

 Cは耳を塞いだが、鼓膜を凄まじい振動が襲った。瞬間、Cは耳が聞こえなくなった。

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