巨人の復活
ナナシイ
1 顕現
轟音を鳴らしながら、ディーゼルエンジンが駆動している。六つの気筒から起こる音に混じり気はなく全ての音が均質だ。Sは満足気に頷いた。
油にまみれながらSは機関室の各所を点検、調節して回っている。
しかし、Sが排気管のボルトを叩いたその時である。排気管が突如として振動し始めた。Sは驚き手に持っていたスパナでボルトを締め直したが、しかしそのボルトは全く緩んでいなかった。
Sは訝しみ辺りを見回した。
全てのバルブもポンプも、そしてエンジンそのものすらも揺れている。揺れているのは機器ではない。機関室全体だ。揺れは次第に大きくなり、Sは直立する事すら覚束なくなった。
Sは慌てて機関室を出た。
空を晴れ渡っている。風もない。しかし、巨大な波が次々と船体に襲い掛かってきていた。嵐ではない、だがこの波は何だ。
耳を澄ませば、襲い掛かる波のリズムに合わせ、遠くから何かの音が聞こえていた。
「船長、一体どうなっているんだ。」
操縦室では船長が必死で舵を切っていた。
「わからん。雨も風もないのに急に波が大きくなってきやがった。地震の知らせも入っていないのに……。」
「機関室は異常なしだ。エンジンはしっかり動いているぞ。」
「それは分かっている。お前の腕は信頼している。お前はその辺にしがみついていろ。」
Sは手すりにしがみついた。
波はどんどん高くなり、船は波を受ける度ぐらぐらと左右に揺れた。音も次第に大きくなっている。
「おい、大丈夫なんだろうな。」
「うるさい、黙ってろ。」
「おい、あれは何だ。」
「ああっ?」
Sが指差す方向に巨大な複数の影が立っていた。おお、あれなるは神々に挑み地獄に叩き落された巨大なる囚人達。果たして何処から下って来たのか。逞しき二足を海中に立たせ、その天頂は雲よりも高みにある。あれこそが神々の時代の生き残り、野蛮なる破壊者、巨人達だ。
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