第2話
道路から木々のトンネルを数メートル抜けていくと目の前には小さな祠のようなものと小さなお地蔵さまが手を合わせて立っていた。お地蔵さまの背後には枝が大きく張り出した樹の太い幹が見えた。女の子はその幹の根元から何本か地上に波打って出ているゴツゴツした根の一本に座っていた。
暗いとはいっても、空にはまだ沈んだばかりの太陽の残照光が残っていた。夜目を効かせなければならない
「……だ…ぁれ?」
彼女には見えないだろうと思いつつ、彼は満面の微笑みを向けた。
「僕は
「フェイ…ロン…?」
涙を流していた目が丸く見開かれた。年の頃は小学校中学年といったところだろうか。
「うん。そう。あ、そうか。僕、日本人じゃないんだ」
手で頭をかきながら、苦笑いした。日本語を流暢に話しチャイナ服を着る彼の姿を見ると大概の人は同じ疑問を持つ。彼女も例外でないことはよくわかっていた。
「両膝から血が出てるね。待ってて」
『どうしてわかるの⁉︎』という顔をしたが、彼は持っていたバッグを地面に置くと中からペットボトルと手ぬぐいを取り出した。
「ちょっとごめんね。」
鳳龍はペットボトルに入ったミネラルウォーターを傷口に掛け傷を洗い流した。
「いたっ」
「もうちょっと我慢」
手ぬぐいを手際よく2つに割いて、包帯のように巻きつけた。あまりの手際の良さに女の子は驚くしかなかった。
「ありがとう…」と、かすかな声が彼に届いた。
「どういたしまして。よければ、名前教えてくれる?いつまでも「君」じゃね」
片膝をついたまま、彼女の顔を見上げた。
彼女は恥ずかしそうに名前を口にした。もう涙は止まっていた。
「莉乃。松本莉乃」
「莉乃ちゃんか!よろしく!」
鳳龍は右手を差し出した。彼女はどうしたものかと悩みながらおずおずと探るように右手を差し出した。彼は彼女の手をつかもうとはぜずに、自分の手にたどり着くのをゆっくり待っていた。どんな理由があるかわからないが、彼女は何かに怯えている。その警戒心を解きたかった。彼女の震える指先が彼の手に触れた。ふわっと包み込むように優しく握手をした。想像していたものとは違う。大きくて、硬い手だった。
「さて、莉乃ちゃん。その足じゃ、歩くのしんどいでしょう?家はどこ?この近く?」
「え?」
「送っていくよ」
「え?」
「え?しか言ってないよ」
「え?」
「ちょっと失礼!」
そう言うと鳳龍は右手を引っ張った。身を翻しながら、自分の頭の上で手を軽く一回転させる。次の瞬間、梨乃は目を開けると鳳龍の背中に負ぶさっていた。地面に置いていたバッグの紐を左手に巻きつけ、立ち上がって道路に向かって歩き始めた。
「え?やだ!フェイ君!私、重いのに!」
ランドセルを背負ったままの彼女が鳳龍の背中から降りようとしてあがいた。だが、ビクともしなかった。
「重くないって。軽い軽い。いつもはもっと重いものを持っているから、大丈夫」
その言葉を証明するように小走りに出口を目指した。
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