シンジュク・ショウダウン
「あ、そうなんですか? じゃあ、ひょっとして駆除協会で会った……」
「セメリィ駆除社か? 此処にあるのは支社だな。確か本社はもっと王都に近い場所にあるぞ」
ここはあくまでサイタマ国のトウキョウ域だからな。
連中みたいな大企業になってくると、トウキョウ支社なんてものを此処に置いている。
なんとも凄い話だ。
「ま、それでも支社も結構大きいんだがな……ほら、アレだ」
「え? どれですか?」
「見えるだろ? あの大きな建物だ」
言いながら、俺は此処から見える2番目か3番目くらいに高い建物を指差す。
石造りのその立派な建物には、セメリィ駆除社……と立派な文字が刻まれている。
「ほら、会社名も書いてあるだろ?」
「ええ? 見えませんよ。オーマさん、どんだけ目がいいんですか? えー?」
キョロキョロと見回すナナに、俺はもう少し分かりやすく何か言えないかとセメリィ駆除社のビルの特徴を探す。
「えーと……ああ、ほら。あの中で一番屋根がとんがってるやつだ」
「とんがり……あー、分かりました。アレですね! なんか屋根までいけすかないですね!」
「いけすかない屋根っていうのは初めて聞く表現だな……」
「きっと人間がとんがってるから、あんな屋根までとんがるんですよ!」
「別にあの支社の連中の趣味じゃないと思うんだが……」
まあ、いけすかないのは事実だが。
連中、揃ってプライドが高いから絡まれると面倒だしな。
「大体なんですか、あのロケットみたいな屋根! 宇宙まで飛んでいく気ですか!」
「あー、ナナ。そのくらいで」
やめとけ、と言おうとした矢先。
その「ロケットみたいな屋根」が、轟音と共に空高く打ち上がった。
明らかに爆発音と分かるそれは、まさか本当にセメリィ駆除社の屋根がロケットだった……などというオチではない。
悲鳴のような声が響く中、セメリィ駆除社の上階が丸ごと無くなっているのが見える。
打ち上がった屋根が地面に落ちて響かせる激しい破砕音の中……かなり離れた場所にあるはずのセメリィ駆除社の残骸の中で、何かが……巨大な何かが、動いているのが見える。
「なんだ、アレは……赤い、トカゲ?」
その赤い巨大トカゲに向かってセメリィ駆除社の残骸の中から幾つかの魔法が放たれ……しかし、その表面に弾かれるのが見える。
そして、赤い巨大トカゲは……自分をも焼きそうな位置であるのにも関わらず、その口から巨大な火弾を放った。
響くのは、爆発音。そして……完全に溶けて崩れ去る、セメリィ駆除社。
「オ、オーマさん……アレ……」
「ミーシャの言っていたヤツかもな。ナナ、連絡を。俺はこのまま向かう」
「え、待ってください! あんなの倒せませんよ! だって、ここからでも分かるくらいに凄い魔力ですよ!?」
「問題ない、上手くいくさ。準災害指定のアシュラゴーレムだって倒してみせただろ?」
「で、でも……」
オロオロするナナの懐から呼び出し音が響き、ナナは慌てたように通信機をオンにする。
そこから響いてきたのは……焦ったような、ミーシャの声。
―ナナさんですか!? タケナカさんに代わってください、今すぐ!―
「ああ、俺だ」
ナナから通信機を受け取ると、その向こうからは複数の人間がバタバタと走り回る音が聞こえてくる。
―タケナカさん! 現在地は確認してます! そこから何か見えますか!? 突然巨大な魔力反応がその付近に出現しています!―
「……ああ、見えるぞ。デカくて赤いトカゲが見える」
―赤いトカゲ……? レッドドラゴンではなく、ですか!?―
「俺がドラゴンスレイヤーに見えるか? 流石にそんなものは倒せないと思うぞ」
―ドラゴンの方がマシです!―
雰囲気を多少落ちつけようとした俺の言葉に返ってきたのは、そんな言葉だった。
―いいですか、よく聞いてください。恐らくですが出現したのは……!―
「あ、いや。ちょっと待て。姿が変わった」
俺の視線の先、ゆらりとトカゲの姿が丸い炎の玉へと変わる。
「……今度は火の玉のバケモノみたいになったな」
揺れていた火の玉のバケモノは……その身体から四方へと火弾を吐き出し大爆発を起こす。
なんとも凄まじい火力だ。
マトモに食らったら大怪我じゃ済みそうにもないな。
―火の玉!? 形が変わるんですか!? では、それは……―
しばらくの沈黙の後、ミーシャは確信をもったように「その名前」を口にする。
―そこに出現したのはウィル・オー・ウィスプです。愚者を焼く警告の火……マトモに相手できるようなモンスターじゃありません―
「災害級ってやつか」
―ええ、間違いなく。ですが安心してください。こちらでも人員は揃っていませんが、装備は先行して届いています。20分もあれば飛行艇で……―
「その20分で、少なくともシンジュクは壊滅するな」
トウキョウ域全部が壊滅とはいかないだろう。
だが……少なくともシンジュクくらいであれば完全に滅ぶだろう。
「俺が行く。まあ、すでにシンジュク中央は半壊しそうだが……全壊は避けられるかもしれん」
―ちょ、オーマさ……―
返事を聞かずにナナに通信機を投げ渡すと、俺は……ナナに服を掴まれ、立ち止まる。
「……死ぬ気じゃ、ないですよね」
「まさか。俺はそんなにヒロイックじゃない」
「でも」
不安そうな瞳を向けてくるナナの頬に、俺は軽く手を添える。
「ちょっと、人生を変えるチャンスをモノにしてくるだけだ。だから、家で待っていてくれ」
そう言って、俺はナナに背を向け走り出す。
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