くだらない話

「ちょっと、無能。アンタこれ、本当なの?」


 手を握った後どうしようかと考え始めた俺にかけられたのは、そんな声だ。

 正直邪魔だ。

 そう思いながらも俺は声をかけてきた奴の方へと振り向き……それが誰かを理解する。

 名前は名刺すら貰ってないから覚えてないのだが、元請け殿……今となっては元・元請け殿だが、エイダ駆除サービスの社員だ。

 彼女が俺に見せているのは、通信機の画面に表示された写真だ。

 ……どうやら、俺がアシュラゴーレムと戦っている場面のようだな。


「MNの方にコレが流れて話題になってるとかって話なんだけど」

「……MNってなんですか?」

「マジカルネットワークだな。旧世界にも似たようなのがあったらしい」


 全世界を魔力で繋ぐ魔導通信機のサービスは、通話だけには留まらない。

 画像や動画データの撮影、共有といった機能を含む世界的な情報発信・受信サービス、すなわちマジカルネットワークを構築しているのだ。

 個人から企業までが様々な情報をやりとりする場所でもあり、たまに物凄い馬鹿が自分の悪行を全世界に公開して投獄されたりもする、という嘘のような本当の話まである。


「あー……なるほど。文化が違っても、結局そこに行き着くんですねえ」

「よく分からんが、そういう事だ」


 ナナの言う文化がどうこうというのは旧世界の地球の話なんだろうな、と思いながら俺は頷くが……エイダの社員が苛立たしげに舌打ちをする。


「今どきMNも知らないとか有り得ないでしょう。何処の田舎から連れてきたのよ、その女」

「そういう奴もいる。で、ソレが本当かどうかっていうのは何を指しているんだ?」


 ナナが神というのは言わない方がいいだろう。

 何となくそう考えた俺は、そう聞き返す。

 そんな写真一枚見せられたところで、何を本当かと聞いているのか分からない。

 そもそも、どんな注釈をつけられてるか分かったものじゃないしな。


「準災害級のアシュラゴーレムをアンタが駆除したって話よ! 馬鹿にしてるの!?」


 キンキン響く声に耳を塞ぎそうになりながらも、俺は「そんな事か」と答える。


「それなら本当だ。信用できないなら幾らでも現地調査してきてくれ」

「信用って……出来るわけないでしょ! アシュラゴーレムよ!? 魔導戦車だって正面から微塵切りにする超のつくバケモノよ!? なんでアンタみたいな無能が勝てるのよ!」

「……そう言われてもな」


 エイダの社員は魔導通信機の写真を指で叩きながら、俺に詰め寄ってくる。

 最近の流行なのか分からないが甘ったるい香水の香りが漂ってきて、少々不快だ。

 好きな奴には好きなんだろうが……俺にはどうにも合わない。


「そうか、この剣でしょ! 何処で手に入れたの!? 裏マーケット!?」

「なんで俺がそんな場所に行かなきゃいけないんだ」


 そもそも裏マーケットだって俺は立ち入り禁止だ。

 1回安い食材でもないかと行ったことがあるが、縁起が悪いと追い払われたのだ。

 ……まあ、それはともかく剣がアシュラゴーレムの駆除に一役買ったのは確かだ。


「欲しけりゃ魔法学園にでも頼んでくれ。試作品らしいからな」

「なんでアンタがそんなコネ……」

「色々あってね」


 トウキョウ魔法学園に限らず、魔法学園は企業側が優秀な学生をくださいと頭を下げにいく関係だ。

 そこから剣の事に行き着くのは、困難というレベルではないだろう。

 あのアッカマーとかいう教授も中々にクセモノっぽいしな……。


「くっ……まあ、いいわ。喜びなさい、アシュラゴーレムのカードだけど、我が社が高額で」

「もうないぞ」

「はあ!? なんでよ!」

「もう然るべき場所に回収されている。だから持ってないぞ」


 ミーシャに渡したからな。ある意味で行き着くべき場所ともいえる。


「なんでよ! 何処の誰に渡したの! まさかモルドーの連中じゃないでしょうね!?」


 モルドー駆除社か。この辺りじゃエイダと結構いい勝負してるんだったか。

 俺にはあまり関わりのない会社だが。


「モンスター対策局だ」

「モンスタータイサクキョク!? 何処の……え、モンスター対策局?」


 一瞬呆けたような表情になった後、エイダの社員はその表情にあからさまな怒りを浮かべる。


「そんなわけないでしょ!? 言うに事欠いてモンスター対策局!? アンタみたいな無能がどうやってモンスター対策局とのコネ作れるのよ!」


 お前等のお陰、とは言うまい。

 確か元々エイダの社員がミーシャを見捨てて逃げたのが始まりなのだ。


「いい!? モンスター対策局っていうのはね! 私達の会社みたいに実力と歴史があって、初めて関りを持てるの! アンタみたいな奴じゃ天地がひっくり返ってもつま先すら拝めないのよ!」

「別に信じなくても構わない」

「信じるわけないでしょ! それで、本当はカードをどうしたのよ!」

「……そもそも、なんでそんなにカードの事を気にしてるんだ」

「はっ! だからダメなのよ! アシュラゴーレムよ!? 準災害級よ!? 何処の会社だって欲しがるわ! それを持っていること自体がステータスになるのよ!」


 ……くだらないな。

 正直、それ以外の感想は無かった。


「く、くだらないですって……?」


 そして俺の目の前では、エイダの社員がプルプルと怒りに震えている。

 ……しまったな。声に出ていたか。

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