ヒュージじゃなくてマジック

「マジックスパイダー!? ほんとか君ィ!」

「うおっ!?」


 俺の背後から声をかけてきたのは、さっきファイアボールが云々とか言っていた男だ。

 もう70代に届こうかという年齢に見える、白い髭を生やしたその男は俺の手元のカードを覗き込み「おおっ」と声をあげる。


「確かにマジックスパイダーだ……! 魔法に非常に高い耐性を持つというが……君、どうやってあの魔法耐性を超えたのかね!?」

「ど、どうもこうも。普段通りにやっただけだが」

「普段通り!? 君、マジックスパイダーの魔法耐性は推定だが『レベル3』だぞ!? それを普通とか……!」

「待て待て、そんな専門用語を使われても分からん!」


 なんか分からんが研究者の類だろうか。スーツ着てるし。

 こういう類の奴は面倒だと相場が決まっている。

 どう逃げたものか……と悩む俺に、男は「いや……それよりも」とテンションを下げる。


「君には助けられた……ありがとう。うむ、まずはそれを言うべきだったな」

「ん……あ、いや。ああ……気にするな」


 ……まさか礼を言われるとはな。

 ちょっと新鮮な経験だ。


「チッ……無能が調子に乗りやがって」

「俺達の攻撃で弱ったクモを運良く仕留めたくらいでよ……」


 ボソボソと呟いてる声が聞こえてくるが……うん、こっちは慣れた罵倒だな。

 いつだったかホブゴブリンを仕留めた時に似たような事を言われた記憶がある。


「おや、君は噂の加護無しだったか」

「ああ。今からでも誉め言葉を撤回しとくか? かなりアウェーだぞ?」


 周囲で俺を称賛してるのは、この男だけだ。

 警察も先程の事があったせいか、俺達を遠巻きにしているしな。


「いや、取り消さんよ。連中がおかしいんだ、助けてもらった分際でな」

「なっ……!」

「あのジジイ!」


 先程何か言っていた男達が激昂するが、男は……爺さんでいいか。

 爺さんはその男達に向かって軽く舌を出す。


「お? やるかクソガキ共が。お前等、ロドマスのゼミのクソガキ共だろ。かかってこい、ロドマス諸共畳んでやるぞ」

「ロ、ロドマス講師は関係ねえだろ! ていうかアンタ学校の関係者かよ!?」

「教授だよバカが……前からアイツは気に入らなかったんだ。この際だ、ゼミ戦で決着をつけてやろう」


 ……よく分からんが俺から興味がそれたみたいだな。

 この隙に離れるか。

 ナナを待たせている路地裏に行こうとした矢先、背後から肩を掴まれる。


「まあ、待ちたまえ。若人がそんなに急ぐものじゃない」

「……いや、俺はこう見えて忙しいんだが」

「知ってるか、旧世界のウラシマとかいう警察官は助けた亀の話すら聞いていったらしいぞ。助けたジジイの話くらい聞いたっていいだろう」

「警察官だったか……?」

「ああ、間違いない。それでだな……と、自己紹介もしてなかったか。私はトウキョウ魔法学院の教授、アッカマー・ドリグマンだ。魔道具に関する研究をやっている」

「俺はオーマ・タケナカだ。それと……」

「オーマさああああん!」

「ぐっ!?」


 飛びついてきたナナを背中で受け止め……なんとか耐えながら、俺はナナを指差す。


「……この子がナナだ」

「ナナ? 姓は無いのかい?」

「ん? ああ、事情があってな。まあ、近いうちにナナ・タケナカになる予定だが」

「ちょっとオーマさん!?」

「なるほど、若いな」


 勝手に決めないでください、と俺を揺するナナをそのままに、俺とアッカマーの爺さんはニヤリと笑い合う。


「君の事は噂には聞いていた。確か加護がないとか。世界初の事例だな」

「おかげで、こうして糊口をしのぐ毎日だ。まあ、ようやくマトモな仕事に恵まれたがな」

「そいつはおめでとう」

「ああ、そんなわけで仕事を続行したいんだが……行ってもいいか?」

「まあ、待ちたまえ。何の仕事かは知らんが、駆除士なんだろう?」


 言いながら、アッカマーの爺さんはスーツの懐を探り一枚のカードを取り出す。

 透明の……恐らくは魔石製と思われるソレは、僅かな魔力を放っているのが分かる。


「私の特製の魔道具だ。さっきは使う暇がなかったがね」

「いいのか?」

「ああ。試作品の魔法剣でね。使ったら是非感想をくれたまえ。使い方については?」

「このタイプのなら、使っている奴を見たことがある。確か魔力を籠めながら『マテリアライズ』だったか?」

「その通りだ。名刺も渡しておく。連絡先も載ってるから、気軽にな」


 そう言って名刺も押し付けていくと、アッカマーの爺さんは「学院にも今度来なさい」と言いながら去っていく。


「……ふむ。魔法剣、か」

「カードじゃないですか」

「高級品はこんな感じだ。持ち歩きやすくなってるんだ」


 ……試作品とか言ってたな。

 まあ、売り物にはならないレベルなんだろうが、この手のものには手が出なかったからな。

 有難く貰っておくことにしよう。


「なんかオーマさん、嬉しそうですね?」

「買うと凄い高いからな、カードタイプは」

「幾らするんです?」

「安くて100万からだ」

「おー……ちょっと触らせてください」

「ああ」


 ナナにカードを差し出すと、ナナは「わあー」と言いながらカードに触れて。

 その瞬間。カードがキンッ、と音をたてて光った。

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