扱いに困る

「ふえっ!?」


 驚きの声をあげてナナはカードを取り落とす。


「ナナ!?」

「あ、オ、オーマさん!?」

「ケガはないか!?」


 ナナの手を取り、触れるが……ケガはない。

 綺麗な手のままだ。


「……大丈夫、みたいだな」

「は、はい。えっと……ごめんなさい」

「何を謝る事があるんだ」

「だって、せっかくの高級品……今ので壊れちゃったんじゃ」

「そんなものよりナナの方が大事に決まってるだろう」


 高級品だろうと、しょせん貰い物だ。

 ナナが怪我でもしていたら、あの爺さんを殴りにいくところだ。

 いや、今も結構殴りに行きたい。

 試作品だかなんだか知らないが安全性確認くらいはして然るべきだろうに。

 俺はナナの足元に転がったカードに視線を下ろし……「ん?」と声をあげる。

 そこに転がっていたカードは……半透明の紫色に変じていたのだ。


「あれ、色が変わってますね……?」

「……だな。壊れたってわけじゃないだろうが」


 一体何なのか。流れている魔力におかしなところはない。

 むしろ、魔力が強まったような……?

 ナナの手を離して拾い上げてみるが、やはりカードから感じる魔力が強まっている。

 ……というか、この魔力。

 ナナの魔力に似ているような……?


「……ナナ。もしかしてコレ……」


 聞いたことがある。

 神々が人間に与えるという、神器と呼ばれる類の魔道具。

 神々が魔道具に魔力を注ぐことで後天的にも出来るというが……。

 ナナを見ると、そっと視線を逸らす。


「や、やっちゃったかもです。だって、なんか魔力を吸われる感じがですね?」

「いや、それはいいんだが……」


 ようやく落ち着いてきたらしい周囲の連中が俺達を見ているのが分かる。

 俺はカードを懐に仕舞うと、「まあ、壊れてはいないだろ」と誤魔化しながら歩き出す。

 ナナもその後を慌てたようについてきて、俺の隣に並ぶ。


「や、やっぱり神器ですよねえ、ソレ……」

「俺には分からんが、そんな簡単に出来るものなのか?」

「私も分かんないですけど、それならベッドも神器になっておかしくないはずなんですけど……」

「……よく分からんが、後でどうなったか確かめる必要はあるか」


 神器の中には魔力を籠めると大地が揺れるようなロクでもないものもあるらしいからな。

 何処かで試さずに使うわけにもいかないだろう。

 ……というか、もう感想とか言えなくなったな。

 どうしたものか……。


 そのままナナを連れてしばらく歩くと、町の中心に近い大きな通りへと出る。

 この辺りまで来ると安い呑み屋の類は姿を消し、見た目がすでにお洒落な感じの店が現れ始める。

 値段も相応にお洒落なので、俺は入ったことがない。


「うわあー……なんだか凄い……っていうか……ちょっとオーマさん」

「なんだ?」


 俺の服の裾を引っ張るナナが、俺の耳に口を寄せてくる。


「……なんか耳の長い人とか、明らかにヘアバンドじゃない耳とかついてる人とかいるんですけど」

「ああ。エルフと獣人だな。旧世界の地球には居なかったらしいな」

「私、その辺よく知らないんですけど……今の世界ってどうなってるんですか……」


 ……そういえば家に残されてた本には、その辺を説明するものはなかったな。

 テレビでもあればエルフやらドワーフやらが普通に出演してるから分かりやすいんだが、俺はテレビ買う余裕なんかないしな……。


「昔は色々あったらしいぞ。人種問題とかな」


 人間至上主義だとかエルフ至上主義だとか、数百年前くらいまでは色々あったらしい。

 今となっては、そんなものはカルト集団くらいにしか残ってないらしいけどな。


「ほえー……ていうか、この辺りだけ文明退化してません?」

「ん?」

「だって、さっきまではコンクリートの建物ばっかりだったのに、この辺は石造りの建物が多いですよね?」

「石造りの方が高級なんだぞ?」

「えっ」

「科学的建築法より、魔法的建築法の方が良い建物になると証明されたからな」


 所謂魔導と言われるものが成立したのは、世界融合から700年程たってからであるらしい。

 それまでは機械文明が良いとか魔法文明が良いとか色々とやっていたらしいが、昔の偉い学者か何かが魔法を軸とした魔導を生み出してからは全てが変化したという。

 結局のところ、旧世界の地球にあった「科学」では魔法を解き明かせず、「魔導」という形で神秘を神秘として受け入れる事で魔導……正式名称「魔導科学」と呼ばれるものが成立したらしい。

 その結果、コンクリートのような旧地球の科学的建材は魔力を通しにくいが建築費の安い建材として扱われるようになった。

 だから、さっきのような場所や、地球回帰派なんて呼ばれるレトロ趣味の連中はコンクリ製の建物に住んでいたりする。


「はあー……そうなんですか」

「だから、あまり下手なこと言うと地球回帰派だって思われるぞ」

「よく分かんないですけど、それってマズいんです?」

「マズくはないが……変人とは思われるだろうな」

「……何か思っても黙ってます」

「それがいいだろうな」

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