街中のクモ野郎
「え! あれってさっきの!?」
「ああ。無視して倒すと、ヒュージスパイダーを倒しても連中が墜落死する可能性がある!」
この辺りは連中が実体化している魔力という存在であるが故らしい。
モンスター同士の戦いであれば実体として死体が残るが、浄化による死である場合は連鎖反応的に連中が魔力で造ったものも崩れる場合がある。
この辺りの「崩れるもの」と「崩れないもの」の差異は明確ではないが、一説では出来てからの時間だとも言われている。
つまり……ついさっき生成されたであろう、あの糸は崩れるのは間違いないだろうということだ。
「きゃー!」
「うわ、モンスターだ!」
だが表通りから響いてくるのはヒュージスパイダーに驚く声と、魔法の響く音。
くそっ、どうする!?
連中を助けるのは無属性の俺の魔法じゃ手間がかかる。
その間に表通りで被害者が出るかもしれない。
だが……この状況で表通りに行き「助けるのを手伝ってくれ」と言ったところで……。
「……やるしか、ないか」
そう、両方やるしかない。
即座に連中を助け出し、その後ヒュージスパイダーをブッ倒す。
時間をかけずにこの両方をこなすしかない。
「身符・レッグブースト」
足に魔力が流れ、筋線維を含む諸々がコーティングされていく。
そして得るのは、普段の俺では有り得ない脚力。
「動くなよ、お前等……!」
三角飛びの要領で壁を蹴り、上へと登っていく。
連中は今、ヒュージスパイダーの粘着糸で壁に張り付ける形で拘束されている。
そこに下手に触れれば俺までくっついてしまう。
無理に剥がそうとしても、接着剤レベルには硬くくっついた代物だ……上手くはいかないだろう。
なら……これだ!
「斬符・二連・マジックブレード!」
両腕から伸びる魔法の刃で、連中の張り付けられた壁を薄く削り取る。
安普請のビルの壁だ、あまり苦労するものでもない。
だが、そうすれば当然連中は自由落下する……その前に!
「身符・アームブースト!」
マジックブレードを消した腕を強化し、連中を掴み取り屋上まで一気に駆け上る。
掃除した跡もない汚い屋上に男2人を放り出すと、ようやく気付いたのか「うう……」と呻き始める。
「こ、此処は……」
「そ、そうだ! 蜘蛛のバケモノ!」
「落ち着け。とりあえずお前等は生きてる」
「げっ、無能野郎!」
いきなりソレか。
とはいえ、助けないわけにもいかなかったしな……。
「せっかく助けてやったんだ。妙な事して死ぬなよ?」
「ぐ……! てか、これ解けよ!」
「ダメだ。俺は無能だからな、それを解くのは手間がかかる」
流石にそんな事をしている時間はない。
表通りで反撃されたせいか、ヒュージスパイダーが暴れている。
さっき警官が何人か居たはずだが……ああ、ダメだ。やられてるな。
「とりあえず大人しくしてろ。モンスターが死ねば解ける」
まだレッグブーストが効いてるのを確認して、俺は跳ぶ。
目指すは、大通りに偉そうにデカい図体を晒しているヒュージスパイダーの背中。
構図だけで言えば、上空からの勢いをつけた超飛び蹴り……特撮の必殺キックだ。
「キイイイ!?」
ズドン、と凄まじい音をたてて命中したキックはヒュージスパイダーを地面に縫い付け、しかし潰すまではいかずに、俺はヒュージスパイダーをクッションにした形で着地する。
どうやら丁度ファイアボールを食らったところらしく、微かに煙をあげているのが見える。
……たいしたもんだ、焦げ目1つないな。
「ったく……朝からヒュージスパイダーが大暴れなんざ、ちょっとしたニュースだぞ」
弱点のはずの火魔法に耐えるということは、恐らくこいつの魔法防御力は並のヒュージスパイダー以上。
逃げ足の速さからしても、一撃で仕留めなきゃいけないが……まあ、無理があるな。
こいつを一撃で仕留めるとなると、間違いなく道路に大穴が開く。
あちこちに捕まってる人間が居る状況じゃ、ちょっとそんなものは使えない。
「お、おい! そいつは私のファイアボールに耐えたんだぞ!? 誰だか知らないが……うわっ!」
ヒュージスパイダーの吐いた粘着糸を俺が躱したせいで騒いでいた誰かが捕まったようだが、とりあえず無視だ。
「今度は逃げないか。ま、そうだよな……これだけエサを確保したんだ」
俺さえどうにかしちまえば、哀れな被害者連中を喰ってパワーアップできる。
そりゃ賭けにだって出るだろう。
もしかすると、賭けだなんて思ってないかもしれない。
こんな何人も拘束できたんだからな。
ちょっと魔力が高い程度の人間なんかに勝てないはずもない……ってか?
「いいぜ。戦ろうじゃないかクモ野郎……最底辺の力を見せてやるぜ」
再び吐かれた粘着糸を回避し、俺は符を掴みだす。
やるべき事は2つ。逃がさない。そして……確実に仕留める!
「撃符・七連・マジックアロー!」
ばら撒いた符が輝く魔法の矢に変換され、ヒュージスパイダーを打ち据える。
ま、こんなもんじゃ拳でぶん殴られた程度だろうが……この隙に足を止める!
「撃、符……んん?」
次なる撃符を繰り出そうとした俺は、目の前の光景に思わず術の展開を止める。
身体に幾つかの……丁度7つの穴を開けて崩れ落ちているヒュージスパイダー……が消失してカードが落ちる音。
そして、光となって消えていくヒュージスパイダーの吐いた無数の粘着糸。
「……いや、え……今ので終わり……? マジか……?」
だが地面に落ちたヒュージスパイダーのカードが確実に倒した事を告げている。
ちょっと信じられない気持ちでカードを拾い……俺は書かれているモンスター名に疑問符を浮かべる。
「マジックスパイダー……? ヒュージスパイダーじゃ、ないのか?」
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