社会的地位の低さ

「ま、そういうわけだ。何処か行ってくれ」


 ナナがのってくれた事で真実味が増したのだろう、ナンパ男達は絶句したように口をパクパクさせていたが……すぐに気を取り直したように嫌な笑みを浮かべてくる。


「ハッ。ナメやがって……加護無しの無能の癖に、いい気になってんじゃねえぞ?」


 言いながらナンパ男達が取り出したのは、短杖。

 黄色い魔法石がついているところを見ると、こいつらは2人とも電気系の加護を受けているのだろう。

 ……勝ち組だな、実に羨ましい。

 周囲からも「おおっ」と感心したような声が上がっているのが聞こえてくる。


「驚いたか? 俺等は雷属性の加護持ってるんだ」

「謝るなら今の内だぜ」


 ……なるほど。

 今の台詞で、俺はナンパ男達の事を悟る。

 加護を持ってる。つまり、何か本来の加護は別にあるのだろう。

 見栄で雷属性の杖を持っていると考えた方がいいだろう。


「分かったか? お前みたいな加護無しの」

「行くか、ナナ」

「え? でも」


 どうであるにせよ、俺が何かをやるべき場面じゃない。

 そう考え俺はナナを連れ歩き出すが……「ふざけんじゃねえ!」という罵声と共に俺の足元に電撃が飛んでくる。

 同時に悲鳴が上がるが……俺は仕方なくナナを後ろに隠し振り向く。


「……街中で人間相手に魔法? 正気かお前」

「ハッ、加護無しの癖に人間ぶってんじゃねえよ! お前なんかゴミだろゴミ!」

「どんなカスだって、ちょっとくれえは加護持ってんのによ。分かんねえの? お前、神様に要らねえって言われてんだよ!」


 ……言われ慣れたセリフだ。

 いい加減聞き飽きている。

 まあ、街中で魔法を使ったんだ。すぐに警察も来るだろう。

 適当に聞き流してればいいか、と思っていたのだが……俺の背中の後ろから、ナナが怒りの表情を浮かべて飛び出してくる。


「要らない人なんかじゃないです!」

「お、おいナナ」


 俺が止める間もなくナナはズカズカと歩いていき、紫髪の男を睨みつける。


「オーマさんは、私が必要としてます! 大体、人をゴミってなんですか! 口が悪すぎです!」

「な、なんだよ。お前には関係ないだろ」

「関係あります! それに加護加護って馬鹿みたいに! そんなの、貴方に加護与えた神が偉いだけで、貴方はちっとも偉くないじゃないですか!」

「何言ってんだ! 加護貰うのも才能だっつーの!」

「そんな事言ってるから魔力も人間の器もちっちゃいんですぅー!」


 ……まあ、確かにそいつらは魔力が少ないが……拙い空気だな。

 俺は靴で地面を叩き、小さく呪文を唱える。


「こ、この!」


 予想通りに腕を振り上げた紫髪の腕を、俺は瞬時にナナの下まで移動し掴み取る。


「やめろ。この子を叩いたら、冗談じゃすまないぞ」

「オーマさん……」

「は、離せコラ!」

「いいとも」


 暴れる紫髪の腕を離してやると、勢い余った紫髪はバランスを崩して尻もちをつく。

 その様子に野次馬の1人が思わず吹き出すが……それが引き金となったのだろう。

 紫髪の杖に魔力の輝きが灯る。


「サンダーボルトォ!」

「護符・マジックシールド」


 バヂンッと。俺の目の前に展開した半透明の壁が紫髪の魔法を弾く。

 ……ったく、本当に魔法を使いやがった。


「……やれやれ。こりゃ正当防衛ってやつだよな」

「このやろ……サンダーショック!」


 赤髪が握る杖に宿るのは、相手がゴブリン程度なら簡単に気絶させるだろう威力の電撃。

 当たれば人間だって当然動けないだろうが……それは当たれば、の話だ。

 ちょっと踏み込んで肘を打ち上げてやれば赤髪の腕から杖が飛び、座り込んでいたままの紫髪にヒットして「あばばばば!」という面白い声をあげて気絶する。


「あ、おいジョージ! 畜生、やりやがったな!?」

「やったのはお前だろ」


 素手で殴りかかってくる赤髪を足払いで転ばせ、紫髪の上に倒れこんだのを確認し小さい息を1つ吐く。


「魔法を人間に使うのはやめとけ。迷いなく使ってきたから慣れてるのかもしれないが……ちょっと間違っただけで死人が出るぞ」

「げほっ……う、るせえ! 加護無しの分際でこんな事しやがって、どうなるか分かってんのか!」

「どうもこうも。悪いのはお前等だろ」


 何を言ってるんだと俺が肩を竦めれば、騒ぎを聞きつけたか通報されたか、警官達が走ってくる。


「抵抗するな! 手を上げろ!」

「……もう終わったぞ?」


 杖を構えやってくる警官達に俺は言うが……警官達が杖を向けてくるのは、俺だ。


「貴様に言ってるんだ! まさか学生を襲うとは……!」

「抵抗すればタダではすまんぞ!」

「いや、なんの話だ。俺は襲われた側だぞ」

「とぼけるな! 加護無しの男が女性を誘拐しようとして学生に襲い掛かった旨の通報は受けている!」


 ……どこの誰だ、そんな適当な通報したのは。


「女性って……え、私ですか?」

「もう大丈夫ですよ! ゆっくりと此方へ!」


 言われてナナは考えるような仕草を見せた後、俺の懐に腕を突っ込み何かを取り出してみせる。


「えーと、全部誤解ですよ? ほら、これ見てください」


 言いながらナナが示すのは、ミーシャから貰った俺の身分証だ。

 確かにこの場では何より効力のあるモノだろうが……。

 警官達は顔を見合わせると、ナナからカードを引ったくり通信機で何処かに確認をし始める。

 俺達を怪しい奴を見張るような顔で見ていた警官達の顔が少しずつ青くなっていくのは……不謹慎だが、ちょっと面白かった。

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