ちょっと目を離すと寄ってくる

 そうして、俺はナナを連れて家を出る。

 家の隣では飛行船の連中が何やら土地の計測をしているが……どうやら本当に支部とやらを作るつもりらしい。


「なんか凄いですね」

「ああ。此処は街外れのはずなんだが……支部が出来るとなると、人が増えそうだな」

「そうなんですか?」

「ああ。支部と関わりたい連中が店を作りたがるだろうしな」


 勿論それも見越して動いているんだろうが、なんとも大事になったものだ。

 俺はもっと、ひっそりと生きていく予定だったんだが。


「……まあ、それなりにやっていくしかないか」

「それなり、ですか」

「ああ、それなりだ」


 小さな溜息を1つついて、俺は街の中心に向けて歩き出す。

 魔力の澱みについては、その性質上、人の多い所へ行った方が確認しやすい。

 ビルの裏などに発生しやすいのは、その辺りが理由なのだが……それはともかく。

 少しずつ人通りの多くなってきた道を俺が歩けば、街の人間が嫌そうな顔をするのが見える。


「あの、オーマさん……」

「気にするな。俺は嫌われ者なんだ」


 加護無しだからな。

 まさか加護無しがうつる、なんて戯言を本気で信じてるわけじゃないだろうが、不吉な奴にわざわざ近づきたいとは思わないんだろう。

 店で何か買うのだって、本当に此処で買って大丈夫かと言われる類の店でしか買い物してなかったしな。


「でも」

「それに。きっとこれからもっと嫌われ者になるぞ」


 言いながら、俺は懐の中のカードに触れる。

 こんなもの、提示する機会など訪れなければいいのだが……そういうわけにもいかないだろう。

 何しろ俺は嫌われ者で、近づいてすらほしくないという連中は山ほどに居る。

 

「そんなことないと、思いますけど……」

「ナナは優しいな。だが、そういうわけにもいかないさ」


 言いながら、俺は近くの路地裏を見る。

 安酒場の並ぶこの一帯はモンスターが湧きやすいが……なるほど、早速何かが居るようだ。


「此処で待ってるか?」

「えっと……」

「じゃあ、待っててくれ」


 言い淀むナナをその場に残すと、俺は路地裏へと進んでいく。

 散らばっているゴミを踏み、あるいは蹴って建物の裏へ。

 安酒場のゴミ箱などが置いてあるそこには……ある意味で予想通り、そして予想以上の奴が居た。


「ガベージゴーレム……出来立て、か」


 ガベージゴーレム。汚い場所に生まれる、ゴミで身体を構成したゴーレム。

 時間がたてばたつほど巨大化して手に負えなくなるが、大人2人分程の大きさの今であれば対処は難しくない。

 よく効くのは火の魔法……だが、勿論俺は使えない。


「撃符・マジックアロー」


 放った魔法の矢はガベージゴーレムのど真ん中に大きな穴を開け、その動きを一瞬停止させる。

 無論、こんなものでガベージゴーレムは死なない。

 上半身全てをぶっ飛ばしてもわずかな時間で再生したという事例があるくらいだ。

 重要なのは一瞬でも動きを止める事。

 俺の放った符が、ガベージゴーレムの上空へと辿り着き……光へと変わる。


「……潰れろ。撃符・マジックハンマー」


 ズンッ……と。鈍く大きな音をたててガベージゴーレムの身体が上から叩きつけられるようにペシャンコになる。

 魔力を圧に変えて圧し潰す魔法、マジックハンマー。

 風魔法のエアハンマーに比べると必要魔力も大きくて範囲も狭いらしいが、とりあえずコレで充分だ。


 残されたガベージゴーレムのカードを拾うと、俺はナナのいる場所へと戻っていき……思わず顔をしかめる。


「だから嫌ですってば」

「そんな事言うなよ。マジで俺の魔導車、すげえから」

「そうそう、絶対楽しいって。だからちょっとドライブしようよ。ね?」


 もしかして、などという事を考える必要もなくナンパだろう。

 絡まれているのはナナで、絡んでいるのは赤髪と紫髪の2人だ。

 何やらチャラチャラと銀色のアクセサリーをつけているが、その全部が魔道具であるように見える。

 普段なら関わると面倒そうだな……と思うところだが、今回に限っては話は別だ。

 俺は速足で、とりあえず手近な紫髪に近づき押しのける。


「うおっ、なんだテメ……って、無能野郎! 何触ってんだ!」


 無視して、俺はナナの腕を引きその場を立ち去ろうとして。


「待てよ!」


 触るなと言ったくせに俺の肩を掴む紫髪の手を乱暴に払う。


「……何か用か?」

「何か用かあ、じゃねんだよボケ! 俺等がその子に話しかけてたのが見えなかったんかよ!」

「無能の分際でヒーロー気取りか!? その子が迷惑そうな顔してんのが……」


 言いかけて、2人はナナが俺の背に隠れたのを見たのだろう。

 間抜けそうな面に疑問符が浮かんでいるのが見えるようだ。


「分かんねのか!」

「……一応言い切るのか」

「うるっせえ! とにかくその子も迷惑してんだよ!」

「迷惑してるのか?」

「あのお二人が迷惑だったのは確かですけど」

「だ、そうだが」

「ああ!? ナメてんのか!」


 キレる紫髪にナナが脅えて俺の背に完全に隠れ、俺は大きな溜息をつく。


「悪い……とは全く思わんが、この子は俺の妻になる予定だ。他をあたれ」

「えっ……!? あ、えーと。そういう事なので諦めてください!」


 ……こいつらを振り払うための誤魔化しと分かってはいるが、ナナがのってくれたのは嬉しいな。

 油断すると表情が崩れてしまいそうだ。

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