いわゆるダニ野郎
「……まだ何か?」
「納得がいきません! そういったものは然るべき手順を踏んでからの選定となるのが通例のはず! 何故もうそんな……」
「何言ってるんですか?」
抗議するルイスに、ミーシャは理解できないものを見るような目を向ける。
「そんな地方のローカルルールなんか知りませんし関係ないです。我々軍務省が見るのは実力だけ。故に最初は評判と地元密着度で中堅程度の企業を、そして今は私がこの目で確かめた人を選定しています」
「ならば我々であるはずです! あらゆる点でその中堅企業とやらにも、そこの彼にも勝っています!」
「んー……」
めんどくさいなあ、とポツリと呟きながらも、ミーシャは……まあ、後顧の憂いを断つとかいうやつなのだろう、仕方なさそうに説明を開始する。
ちなみに俺の腕はしっかりホールドされているので「此処にいろ」という強烈な意思も伝わってくる。
「ハッキリ言いますとね。軍務省は貴方達が思ってる程、貴方達を評価してないんですよ」
「なっ……」
「確かにこの辺では最大手かもですけどね。カッコつけるばっかりで実力はお察し、見栄えのいい仕事だけやりたがって面倒臭い部分は下請けに全部放り投げる、同じ会社の中でも搾取する側とされる側の明確な壁を作ってる、ついでに顧客もナメてる……これ全部、調査で報告された貴方達の会社の評価です。総評も聞きたいですか? ダニです、ダニ。そんなのでも生かしとく理由がないでもないから潰されてないだけです」
辛辣に過ぎる評価だが、言い過ぎかというとそうでもないな。
セメリィ駆除社はトウキョウ域では最大手だし下請けにも仕事をたくさん出してくれる会社ではあるが、その分中抜きも酷い。
この会社がなくなったら売り上げが大幅に上がるという企業はかなり多いんじゃないだろうか?
……まあ、俺のような木っ端にはあんまり関係のなかった世界の話ではあるんだが。
「ダ、ダニ……!?」
「ご理解いただけたなら、お帰りください。痒くなります」
「幾らなんでも、その物言いは問題ですよ!」
「……問題なら、なんだというんですか?」
冷たい物言いで突き放すミーシャだが……ひょっとすると、こっちが本性なのかもしれないな。
ナナはすでに俺の背後でガタガタ震えている……無理もない。
俺もガッチリホールドされていなけりゃ距離をとるかもしれない。
「う、うう……」
これ以上はよくないと判断したのだろう、ルイスは「失礼します」と言って部下を連れて去っていく。
そのついでに俺を睨んでいくが……ああ、うん。あれは顔を覚えていったな。
要注意人物リストに俺が載ってもおかしくはない。
……下請け仕事の類はこれから出来なくなったと考えてもいいだろう。
「はあ……」
思わずそんな溜息をついてしまうが、ナナがそんな俺の心情を察したか背中をポンと叩いてくれる。
「……ミーシャ。俺は君を信じていいんだよな?」
「突然なんですか、タケナカさん」
「俺をああいう風に切らないでくれよ。さっきの騒動で俺はたぶん、業界での村八分が決定したようなものだからな」
セメリィ駆除社が地元最大手である以上、それは避けられない。
直接受注できるくらいに俺とタケナカ抗魔社が有名になれば話は別だろうが。
「はあ、そういう風習がまだまだあるんですねえ。だからこそ一極集中みたいなのは好ましくないんですが」
「そうは言ってもな」
「まあ、問題はないと思いますよ? バッチリうちがサポートしますし……」
言いながら、ミーシャはカウンターへと振り返る。
「……余計な真似は許しませんしねえ?」
カウンターの向こうから「ヒッ」という声が聞こえてくるが、まあ……必要だろう。
変な嫌がらせをされても困る、しな。
「そんなわけで安心してくださいタケナカさん!」
「期待させてもらうよ」
「うう……人間社会は怖いです」
よく分かるけど、ナナ。
それを黙っておくのも人間社会で生きるコツではあるんだ。
まあ、俺はうまく生きてるとは言い難いけどな。
「それじゃ余計な邪魔が入りましたけど、今度こそ行きましょうか!」
「ああ」
だが、まあ……セメリィ駆除社からの何かしらの邪魔は入るだろうな。
直接的にやってはこないだろうが警戒しておいた方がいいかもしれない。
「あ、そうだタケナカさん。早速ですけどサポート体制を充実させておきたいので、その方面の許可を頂けますか?」
「それは……俺の許可が必要なのか?」
「ええ、まあ」
「別に構わない。俺が助かる話だしな」
「そうですか」
そう言うとミーシャは再び通信機を取り出し、恐らくはまた局長だろうが……通信を始める。
「あ、局長。さっきの件、進展しました。申請番号はT-1784B-412、タケナカ抗魔社です。ええ、サポート関連の許可も出ました。早速ですけどお願いできます? ええ、ええ。了解です。あ、それとセメリィ駆除社ですが、予想通りですね。ええ、はい」
……さっきの連中の到来も予想済、か。
伊達に軍務省じゃないってことだろうが……その割には最初に会った時みたいなポカもしてるんだよな。
うーん、よく分からん。
まあ……完ぺきではないってことなんだろう。たぶん。
ともかく通信を終えたミーシャを連れて、俺達は会社を兼ねる事になった自宅へと戻っていく。
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